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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第364話 リアル。

       ◆◆◆


 ベッドの上で左右に寝返りを打っていたさいちゅうに、戸をノックする音が聞こえてきたのだった。


「陛下、陛下」


 ヨシュアの声である。


 放っておいて寝てしまおうとも考えたのだが、そうもいかない。

 こんな夜更けにヨシュアが訪ねてくるのは、のっぴきならないことが起きたに違いないからだ。


 しかし、それがわかっていても、スフィーダの脳はなかなか覚醒しない。

 果ては、ベッドから転げ落ちてしまった。


「む、むぅ……」


 スフィーダ、がんばって体を起こしたのである。

 彼女は目をこすりながら、戸を押し開けたのである。

 

 思った通り、ヨシュアが立っていた。


「なんじゃあ、ヨシュア。なにが起きたのじゃあ?」


 あくびが出た。

 なにがどうあれ、スフィーダ、眠くてしょうがないのだ。


「事後報告に留めましょうか?」

「よい。今、話せ」

「すぐそこの空で戦闘が」

「すぐそこの空? 戦闘?」


 スフィーダは一気に目が覚めた。


「戦闘じゃと?! 民に被害は出ておらんのか!?」


 ヨシュアが苦笑じみた表情を浮かべた。


「出ておりません。民への被害は出さない。そういうポリシーが感じられる敵なんですよ」

「犯人はわかっているということか?」

「リヒャルト閣下と、彼の右腕、シオン・ルシオラ大尉でございます」

「は?」

「驚かれるのも無理はありませんが、事実でございます」


 スフィーダは急ぐことにする。


「ゆくぞ、ヨシュアよ。ソッコーでついてまいれ」

「一応お知らせしただけであって、陛下は邪魔です。わかりませんか?」

「ついてこいと言っておる」

「御意にございます」




       ◆◆◆


 フォトンとリヒャルトの鍔迫り合い。

 ヴァレリアとシオンのせめぎ合い。


 城からそう遠くない森の上空で、両者は真っ向からぶつかっていた。


「リヒャルトとシオンは移送法陣でやってきたのか?」

「そうとしか説明がつきませんね」

「姿を見た瞬間、首都防衛隊が機能したはずじゃ」

「そのあたりの事情は現状、わかりません。ただ、防衛隊に被害は出ていません」

「ということは」

「そうですね。リヒャルト閣下殿が、フォトンとヴァレリア大尉を呼びつけたんでしょう」

「それに素直に従うフォトンもフォトンじゃ。ヴァレリアにも同じことが言えるぞ」

「そこに私怨がまったくなかったかというと、そうでもないのかもしれません。特にフォトンの場合は、なにより恨みが勝ったのでしょう」

「ヴァレリアに一生消えない傷をつけてくれた。その恨みか?」

「ヴァレリア大尉はなんとも思っていないことでしょうが」


 スフィーダは口元に苦笑を浮かべる。

 本当に、どこまでも優しいのだ、フォトンという男は。


 フォトンは高い位置で、ヴァレリアは低い位置で、相手と向き合っている。


「やめよ!」


 スフィーダは精一杯の大声を上げた。


 それでも戦闘はまるで止まらない。


 フォトンとリヒャルトは剣でぶつかり合い、ヴァレリアとシオンは魔法で生成したレイピアを両手に斬り合いに夢中になっているように見える。


 リヒャルトは強い。

 それは疑いようがない。

 フォトンを相手にしても、遊んでいるようなところがある。


 シオンだって強い。

 ヴァレリアを相手にしても、まだまだ余裕があるように映る。


「やめよ!」


 スフィーダはもう一度、叫んだ。


 すると、今度は従ってくれた。

 宙を滑ってきたフォトンとヴァレリアがスフィーダの脇に控え、彼らは空中で片膝をついて見せた。


「この馬鹿将軍がぁぁっ!!」


 スフィーダ、今度は怒鳴った。


「無礼を働くのもたいがいにしろ! 無作法に我が国を訪れてただで済むと思うな!!」


 リヒャルトが長い前髪、はくはつを掻き上げた。

 すぐ隣には、もうシオンが浮かんでいる


「おぅおぅ、そうじゃそうじゃ。おまえ達は二人でよろしくやっておれ! 二度とわしの前に姿を見せるな!!」

「しかし、スフィーダ女王陛下」

「なんじゃ、リヒャルト、言いたいことがあるなら、とっとと言え! わしはぷんすかなのじゃぞ!」

「ぷんすかですか」


 リヒャルトにクスクスと笑われてしまった。


 ようやく背負っている鞘に細い大剣を収めたリヒャルトである。


「以前、申し上げたことかと存じます。私はフォトン・メルドー少佐に、忘れてもらいたくはない。シオンだってそうだろう?」

「いえ。ヴァレリア大尉など、私にとっては――」


 一瞬でキレるあたりが、ヴァレリアの恐ろしいところだ。

 立ち上がるなり左腕を後ろから前へ、渦巻く炎を放ってみせた。

 笑ってしまうくらい愚直で、雑な攻撃である。


 それをシオンがバリアを張って防いだ。

 炎は立ちどころに、姿を消した。


 一触即発とは、まさにこのことだ。

 自分が止めに入らなければ死ぬまでやり合うことだろうと思い、スフィーダは「今夜は引け、リヒャルトよ。やり足りないというのであれば、わしが相手になってやるぞ」と静かながらも強く告げた。


 リヒャルトは「それは恐れ多い」と慇懃に述べ、右手を左の胸に当てて深々と礼をした。

 そんな彼の体を、シオンが練り出した飴色の筒が包み込む。


 二人の姿は、あっという間に見えなくなった。


「よいぞ、フォトンよ。立ってくれ」


 宙でずっと片膝をついていたフォトンが立ち上がった。


 ヴァレリアはというと、不敵な表情。

 目つきがヤバい。

 シオンを始末できなかったという事実が、不快さをもたらしているのだろう。


 フォトンとヴァレリアは立礼すると、城下へと帰っていった。


「ヨシュアよ。ぶっちゃけ、フォトンとリヒャルトの関係はどう考える?」

「パワーでは間違いなくフォトンが上です。しかし、それ以外となると」

「今のままでは敗れるというのか?」

「ヴァレリア大尉が難しい顔をしていたことは?」

「当然、わかったぞ」

「フォトンは彼女以上に不快そうな顔をしていました。彼とヴァレリア大尉はまだまだ強くなります。俗っぽい言い方になってしまいますが、素敵ですよ、二人は」

「素敵、か……」


 二人のことが少なからず羨ましく思えて、スフィーダは誰にも負けないくらい苦笑した。


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