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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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361/575

第361話 幼き子らの思い出に。

       ◆◆◆


 土曜日。


 ガキんちょども、もとい園児らが、エマに引率され、玉座の間にまでやってきた。


「いっぺんに移送します。よいのですね?」

「よい。なにも問題はありゃあせん」

「本音を言うと、お遊びが過ぎると考えています」

「なんでもよいから、とっとと運べ」

「御意にございます」


 ヨシュアが作り出した巨大な飴色の筒に包まれた途端、園児らはきゃっきゃと騒いだ。




       ◆◆◆


 岩山に出た。

 踊り場とでも言うべき平たい場所だ。

 無論、塀など設けられていないので、スフィーダは「落ちるでないぞーっ」と注意喚起。


 子供らは「はーい」と声を上げ、揃って右手を上げた。


 とはいえ、びくびくしている子もいる。

 あるいは「やっぱりやめようよぅ」などと弱気なことを言う子もいる。


 だから余計に堂々としていなければと思い、スフィーダはあまり奥行きのない洞窟の中へと、自信満々、のっしのっしと踏み込んだ。


 赤肌の翼竜、ドル・レッドがいた。

 青肌の吸血鬼、イーヴルがいた。


 顎を地面につけて眠っている、ドル・レッド。

 その赤竜の腹に背を預けて寝こけている、イーヴル。


 ドル・レッドがまぶたを開き、緑色の瞳をぎょろりと向けてきた。


「なんだ、スフィーダか」

「なんだとはなんじゃ。相変わらず無礼な奴じゃ。コイツめ、コイツめっ」


 スフィーダはドル・レッドの横顔をべしべしと叩いた。


「それで、後ろのガキどもはなんだ? エサになってくれるのか?」


「エ、エサとか言ってるよ?」

「やっぱりダメだよぅ、怖いよぅ」

「へ、へんっ。体もそんなにおっきくねーし、弱そうじゃねーかよ」

「で、でも、ドラゴンじゃん……?」


 子供達は次々にそんなふうに言う。


「スフィーダ。本当に、なんの用なんだ?」

「こやつらのモデルになってほしい」

「モデル? なんのだ?」

「じゃから、そなたらの姿を絵にしたいと言っておるのじゃ」

「スフィーダ」

「なんじゃ?」

「おまえ、そんなことに俺達が喜んで協力すると、本気で考えているのか?」

「考えておるぞ。そなたらはことのほか、優しいからの」

「俺は眠たい。眠いんだ」

「じゃったら、寝ている姿でもいよい。子らの期待に応えることは尊いことじゃ。そう考えれば、諦めもつくというものじゃろう?」

「……勝手にしろ」


 スフィーダはにっこりと笑い、今度は優しく、ドル・レッドの頬を撫でた。


「みなの者、聞いておったか? ドル・レッドはわしの言うことを聞いてくれるそうじゃ。ゆっくりと絵を描くがよいぞ」


 するとカークスが、「ド、ドラゴンはわかったよ。だけど、そっちの青い肌をしてる奴は……?」などと問うてきた。


「だから、あやつが吸血鬼じゃ。おねむじゃがの」

「やや、やっぱり、そうなのか? だったら――」

「難しいことは考えるなと言っておる」

「じゃ、じゃあ……」

「そうじゃ。存分に描けばよい」

「ス、スゲーんだな、スフィーダ様って」

「誰とでも、仲良くすることはできるのじゃ。その旨、常に忘れないでほしい」

「俺は忘れないよ。忘れたくもないよ。誰とでも仲良くしたいって思う。ありがとう、スフィーダ様」


「なあに。なんということはないぞ」


 スフィーダは「わっはっは」と笑った。




       ◆◆◆


 数日が経って。


 街にある芸術文化ホール、その一室に、園児らの描いた絵が飾られたと聞かされた。


 とある画商がそれを見て、「すべて素晴らしい」と言ったらしい。

 全部、売ってほしい。

 欲張りなことに、そう言ったらしい。


 しかし、画商が購入するには至らなかった。


 これはこの子達ににとって、とても大切なものだから。


 担任のエマが、きちんとそう断ったらしい。


 赤肌の翼竜に青肌の吸血鬼。

 とにかくその対比が美しいのだ。

 彼らの姿は、園児らにとって、大きな思い出となったことだろう。


 だからこそ、言っておきたい。


 ドル・レッドよ、そしてイーヴルよ、ありがとう。


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