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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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353/575

第353話 海底神殿。

       ◆◆◆


 まあるいバリアで自身を海水から遮断しつつ、結構、もぐった。


 不謹慎な話であるものの、スフィーダはドキドキしていた。

 言うまでもなく、いい意味での胸の高鳴りだ。

 だって、大好きなフォトンとヴァレリアと一緒なのだから。

 こうして、あるいは探検するような行動は実に楽しいのである。


 各自がバリアを張っているから、おしゃべりはできない。


 やがてスフィーダは、驚くに至った。

 フォトンもヴァレリアも、きっとそうだ。


 太い柱で構成された、大きな大きな神殿のような真白の建物があるのだ。


 神殿はことのほか大きなバリア、あるいはまあるい巨大な泡で周りをコーティングされているように見える。


 来る者は拒まずと言っている?

 それを述べるならあるじだろう。


 主はここにまで至るヒト型など、いないと考えているのかもしれない。


 それにしても神殿。

 まさかまさかの海底神殿。


 スフィーダ、二千年以上生きていても、知らなかった。


 バリアの内側、あるいは泡の内部には、どういうわけか、なんなく入ることができた。

 不思議なものだから、スフィーダ、非常に驚いた。


 泡の中に入ったところで、スフィーダは自身のバリアを解いてみた。

 すると、フツウに息をすることができた。

 世の中には不思議なことが、本当に多いようだ。


 スフィーダは「神殿か……」と、つぶやいた。

 そばに近づいてきたヴァレリアが「神殿でございますね」と言った。


「このようなもの見るのは初めてじゃが、ずいぶんと前からあったのじゃろうな。そんな雰囲気があるぞ」

「私もそうだと考えます。早急に主を知りたいところでございます。これだけの技術があるのだとすれば、兵をたくさん有していてもおかしくはない」

「兵力はあれど、あまり表には顔を出さんかった。そこにはどんな裏があるのじゃろうな」

「裏などありません。表しかございません」

「む。そうなのか?」

「どのような組織においても、跳ね返りというのは必ずいます」

「じゃったら、おおもとであるボスには――」

「はい。交渉が通じるかもしれません」

「ヴァレリアよ、そなたは本当にそう考えておるのか?」

「否定的です」

「じゃったら、ますますがんばっていこうという話ではないか」

「まあ、そうではあるのですが」


 ヴァレリアはクスクスと笑ってみせた。




       ◆◆◆


 オスの人魚、マーマンらの姿はない、気配も感じられない。


 ただただ、石畳の向こうにヒトのかたちをした青年が、石製であろう、背もたれの高い立派な白い椅子に腰掛けているというだけだ。


 空色の長い髪。

 女顔。

 分厚い金色の鎧を身にまとい、堂々としている。


 どういうことだろう。

 今のところ、敵対する空気がまるで伝わってこない。


 余裕があるから?

 負けるはずがないと考えている?

 いずれにせよ、大物感はたっぷりだ。


 スフィーダは左右にフォトンとヴァレリアを従え、ずんずん進む。

 空色の髪をした男は、左の肘掛けを使って頬杖をついているだけだ。


「誰じゃ、そなたは。なんという?」

「おまえはスフィーダだろう? ならばどうして、海底にいるというだけのヒト型を無視できないのか」

「そのヒト型のせいで、我が国が迷惑をこうむった。怒って当然じゃろう?」

「それは知らなかった。俺の教育が足りなかったと見える」

「その言葉を謝罪として受け止め、受け容れる理由がない。傲慢な言い方を承知で注文をつける。けして地上に姿を現すな」

「だから、それを成すと言っている」

「わしは疑い深い。しかも、そういった点には折れんやからじゃ」

「だったら、どうする? 念書でも交わせばいいのか?」

「そなたを消そうと思う」

「また無礼かつ物騒な物言いもあったものだ。しかし」

「しかし、なんじゃ?」

「俺もちょうど二千歳くらいだ」

「ほう。だから、なんだというのじゃ?」

「おまえと勝負がしてみたい」


 ノーモーションで、渦巻く炎が瞬く間に飛んできた。

 本当にあっという間なのだ。

 だからバリアが間に合わないのだ。


 いち早くフォトンが反応した。

 大剣で炎を真っ二つに割ってみせた。


 続いて、敵は氷の球を放った。

 その一粒一粒は、見るからに硬く、また強力そうだ。


 その攻撃に対して自らのバリアは無力だと理解している。

 だからフォトンは一直線に迫るのだ。


 そして、フォトンがいよいよ剣を振りかぶったところで、それは起きた。


 幾度か目にした、飴色の筒を伴わない、短距離型のテレポーテーション。

 男はその使い手で、フォトンが剣を振ったときには高い天井の間際にいた。


 男は振りかぶる。

 氷の剣を。


 フォトンは斬られた。

 瞬時に深手だということがわかった。

 体の強さが最大の武器である彼が、仰向けに倒れたくらいだから。


 驚きがなにより先に立ち、だからすぐさま、反応できなかった。

 隣のヴァレリアを見ると、彼女は静かな顔をしていた。


 すっすっと前進するヴァレリア。

 このような事態にあっても冷静で、背筋を伸ばしている姿が頼もしいし気持ちがいい。


「弱すぎる」


 空色の髪をした男が、つまらなさそうにそうつぶやいたのが聞こえた。


 男はフォトンの首を右手で掴んだ。

 そして、放り捨てるようにして、彼を投げた。


 スフィーダは駆けた。

 倒れているフォトンのもとへ。


 フォトンに目を落とす。

 左の肩から右の脇腹にかけて、見事に斬られている。

 気まで失っているようだ。


「スフィーダよ、まだ続けるか?」

「貴様……名はなんという?」

「ネレウス」

「罪深き名じゃと、きちんと刻んでおく」

「やり返しに来るといい。でなければ」

「でなければ?」

「俺自らがヒトの世界へと出向き、虐殺を繰り返すようになるかもしれない」

「だから、なにが目的なのじゃ?」

「強すぎるがゆえに暇を持て余す。そういうことは、ままある」

「この神殿を見つけることができたのは偶然じゃったが、そなたのような存在がいたとするのなら、さらには僥倖と判断すべじゃろうな」


 フォトンの傷口に触れ、その右手を真っ赤に染めたヴァレリアが、「陛下、いったん引きます。よろしいですね?」と訊ねてきた。


 ヴァレリアがそう言う以上、傷はやはりかなり深いのだろう。


「また会えるといいな、スフィーダ」


 ネレウスは微笑んでいた。


「次はないぞ!」


 ヴァレリアが作り出した飴色の筒に包まれる中、スフィーダはそう怒鳴った。


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