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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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343/575

第343話 勝利万歳。

       ◆◆◆


 その戦力の整い方を見て、驚いた。


 賊。


 一言、あるいは一文字で表すとそうであるに過ぎない。

 たが玉座の間にまで入り込んできたのだとすると、まるで話は違ってくる。


 賊は、ひぃふぅみぃ……全部でとおいる。

 向かい討とうとした双子の近衛兵、ニックスとレックスは、ヨシュアの「引け!」という命令に背き倒れてしまった。


 玉座の後方、壁際に立っている侍女らがいっさいの悲鳴を上げないことが頼もしい。

 日々の訓練の成果であり、また強靭な信念を持ち合わせているからだろう。


「どうしてここに来たかわかるか、スフィーダ、わかるかっ!!」


 黒衣に軍服に身を包んでいる先頭の女が、声を荒らげた。

 若い、あるいは幼い。

 綺麗なおなだ。

 見映えがする。

 実はミュージカルに出演していると言われても驚かない。


 玉座の上に座ったままのスフィーダは、腹立たしさより、物悲しい思いに駆られた。


「申し訳ない。そなたが誰であるかは知らん、知らんのじゃ。わしは無知で無能じゃからの」

「父は先のグスタフ戦役で死んだ! 問答無用で捕らえられ、拷問の挙句に殺されたんだ!!」


 発言すべきものを失った。

 なにも言い返せなくなってしまった。


「それは、不幸じゃったの」


 反感を買おうが、それくらいしか言えなかった。


「おまえはなんのための女王だ! ニンゲンに幸せを与えるために生まれたんじゃないのか!!」

「それは……すまん……」

「謝れば済むと思っているのか!!」

「そなた、名は?」

「今、そんなもの、関係ない!」

「それでも、教えてほしい」

「レインだ! それがどうかしたのか!!」

「理不尽が起きた。わしにはやはり、すまぬとしか言えん」

「そこに怒りを見てなにが悪い!!」

「本当に、すまん。なにもできんで、すまんかった」

「だったら、跪け! 土下座しろ! 私のことを見下ろすな!!」


 スフィーダは言われた通りにしようとする。

 土下座を求められれば、いくらでも応じようと思ったのだ。


 しかし、ヨシュアが「その必要はありません」と、たしなめるように言い。

 彼は「ふざけないでいただけますか」とキツい調子でレインに言い。


「理不尽に怒るのはいい。だが、その矛先が陛下であっていいはずがない」


 レインは笑った。

 高笑いだ。


「だったら、私を救ってみせろ! 私に父を返してみせろ!!」

「そんなこと、できるわけがないでしょう?」

「殺してやる! おまえのことも、スフィーダもことも!!」

「残念です」

「残念? なにがだ?」

「牙をむいたが最後、貴女に次はありません」

「だったら、殺してみろ!!」

「ええ。そうさせていただきます」




       ◆◆◆


 ヨシュアの戦いぶりは、容赦なかった。


 向かってくる男らを魔法の矢と槍で簡単に撃ち落とした。

 殺したのだ、殺してしまったのだ。

 白亜の床が血に染まる。


 あっという間に仲間を失ってしまったのだ。

 レインの表情も驚きに満ちていた。


 だが、レインは強い。

 なにかと引き換えに、力を得たのだろう。


 ヨシュアと互角に渡り合ってみせた。


 ヨシュアと対戦している最中、レインの口からは言葉が発せられた。


「私が正義だ、私が正義だ! 私が正義だ!!」


 ヨシュアが渦巻く炎をもって、レインを下がらせた。


 そして、言う。


「やめましょう、レインさん。私は貴女を救いたい」


 すると、レインは。


「黙れ黙れ黙れ!! おまえは私の肉親を殺したんだ! おまえ達は見殺しにしたんだ!!」

「このままでは取り返しがつかないことになってしまいます。そんなことは、貴女のお父上も望んでいないはずです」


「お父様、我がせいに祝福を!!」


 ヨシュアが彼らしくもなく、「やめてください!」と悲痛な声で叫んだ。


「我が手に勝利を! 勝利万歳! 勝利万歳! 勝利万歳!!」

「やめなさい! それは身を焼くだけの呪文です!!」

「あるいは宗教だからと馬鹿にするのか!?」

「そんな思いはありません!」

「黙れぇぇぇっ!!」


 魔法でこしらえた金色の槍を投擲した、ヨシュア。

 この攻撃は全身全霊を向けなければ防げない。

 彼の渾身の一撃だからだ。


 やはりレインはバリアで受ける。


 ヨシュアが地を蹴った。

 宙に浮き、短い距離をひゅっと移動し、レインの後ろに回り込む。


 レインのバリアが、ガラスが割れるようにして砕け散った。

 ヨシュアはもう背後にいる。

 彼女の喉元に、魔法で作った銀色のナイフの刃を突きつける。


「やめましょう」


 ヨシュアにそう言われると、レインは笑った。


「殺してしまえばいいだろう? そのほうが国のためにもなるだろう?」

「それでもやりませんよ、私は」

「殺せぇ……っ!」

「生きましょう、一緒に」

「そんなこと、できるわけが――」

「お願いです。尊い気持ちや心得を忘れてほしくない」

「殺してやる! おまえもスフィーダも殺してやるっ!!」

「その際には私を殺すだけにしてください。陛下はなにも、悪くない」

「この期に及んで弁解かっ! おまえは殺す! 絶対に!」

「ですから、どうしても今、そうしたいのであれば、私だけを殺してください。抵抗はしませんから」

「……くっ」

「貴女の決意を目の当たりにした。だから私は貴女が望むなら死のうと思う」

「よくもまあ、そんな嘘をぬけぬけと……っ!」

「やめましょう。誰も幸せにならない。そんないさかいだけは、してはいけない」


 レインがスフィーダに右手を向ける。


 スフィーダとのあいだに、ヨシュアは素早く回り込んだ。

 彼は魔法で生成された幾本もの黄金色の矢を体中で受け止め、傷を負った。

 はなからバリアを張るつもりはないように見えた。

 真っ向からわかり合おうとする。

 そこにはそんな決意が滲んでいるように感じられた。


「おまえ、おまえは最悪だ!!」

「繰り返します。私だけを標的にしてください。お願いします」

「どうせ私は、このあと刑務所行きだ」

「恩赦を与えます」

「本気で言っているのか?」

「ええ。私が間違っていると感じたら、その旨、すぐにご連絡ください。私が血の海に伏せてご覧に入れますから」

「だから、それは本気かと訊いているんだ!!」

「ですから、そうだと言っています」


 腕をだらんと下げ、攻撃態勢を解きレインが、一転、微笑んでみせた。


 一拍、二拍の間。

 さらには三拍、四拍の間。

 それから加えて二分、三分……。


 誰もなにも言わず、ときだけが過ぎた。

 満ちるようにして、ただ時間だけが経過した。


「……ヴィノー閣下」

「はい」

「貴方はわかってくれるんだね……?」

「わかるとは言いません。復讐に身を焦がすことをやめてほしいだけです」

「痛い思いをさせちゃって、ごめんね……?」

「悲しいです、私は。その思いだけは共有したい」

「本当に、ごめんなさい……っ」


 仲間の死体に囲まれたまま、レインは膝から崩れ落ちた。


 この瞬間、一番の悲しさを覚えたのは自分だ。

 そう確信しつつ、スフィーダは、はらはらと涙を流した。


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