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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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333/575

第333話 悪報。

       ◆◆◆


 スフィーダ、今日も眠いのである。

 予定通り起きることは、彼女にとってはつらいことなのである。

 それでも毎朝、よいしょとベッドからおりるのである。


 ヨシュアに「食べたほうがようございます」と言われようが、ぎりぎりまで寝ていたい。

 だから基本、朝食は抜きなのである。


 今日も目をしょぼしょぼさせながら、ドレスに着替えた、色は黒。


 それから歯を磨いて、私室から出た。

 戸を開けた瞬間、あくびが出た。


 今日もヨシュアは玉座の脇に控えていた。

 彼はくるりと身を翻してスフィーダのほうを向くと、大仰なまでに腰を屈めて「おはようございます、陛下」と挨拶を寄越したのだった。


 スフィーダ、まだ眠いので、むにゃむにゃ言いながら、玉座に腰掛ける。

 その状態で朝一の謁見者を待つ。

 それがルーチンワークなのだが、今日はヨシュアが「陛下」と呼び掛けてきた。


「んむ。なんじゃ?」

「ヴィエイラの首相、ジェリド氏が暗殺されたようです」

「……は?」


 一気に目が覚めたスフィーダである。


 先日、会ったばかりのジェリド・ヴィエイラが殺された?


 スフィーダは左方を見上げた。

 ヨシュアは前を向いたままでいる。


「ななっ、なんじゃ、それは?! どうしてもっと早く、わしに知らせんかったのじゃ!?」

「私がその旨を知ったのは、つい先ほどのことでございます」

「嘘をつけ! おまえはまたわしが激高するからとかそんな理由で事実を隠しておったのじゃろう!」

「激高されるのは予想の範疇です。さて、陛下。そう言われることについて、無様さをお感じになったりはしませんか?」

「ど、どういうことじゃ?」

「ですから、予想の範疇だと申し上げました。陛下がお怒りになることがわかっていた上で、事実だけはお伝えしようと考えたんですよ」

「そ、そうなのか?」

「はい。陛下からああだこうだと言われ、面倒になることを承知で、お知らせした次第です。そうである以上、私の優しさに感謝していただきたいですね」

「まるっきり、自画自賛ではないか」

「いけませんか?」

「むぅ。わかった。取り乱したことは謝る。しかし、お願いじゃ。事の次第を教えてくれ」

「承知いたしました」


 ヨシュアは丸めた右手を口元にやり、一つコホンと咳払いをした。


「犯人については、ある程度、把握できていると言っていい」

「わかっておるのか?」


 ヨシュアは大きく頷いて。


「ジャック・テジロギと彼にまつわる騒ぎは、記憶に新しいでしょう?」

「テ、テジロギじゃと?」

「繰り返します。記憶に新しいところでございましょう?」

「そりゃあの。一連のあの騒動は結構なインパクトじゃったからの」

「彼の専門分野は?」

「人外の創造じゃろう?」

「そうでございます。その人外を秘密裏に生み出す。そんな組織が、ヴィエイラにはあった。首相はおろか、国を預かるほとんどのニンゲンが知らないところで、異形の生物の研究が行われていたんです」


 人外を生み出す?

 異形の生物の研究?

 またややこしい話が再燃を見せたものだと、スフィーダは思う。


「ジェリド・ヴィエイラ首相に、その旨が伝えられた。氏は組織の施設を自ら視察したようです。その時点で、もはや浅はかだと言うより他にないのですが」

「ジェリドにはまったく他意がない。殺されるなどとは思いもしなかったはずじゃ」

「そういう優しい見方もできますね」

「相変わらず、おまえの物言いにはいちいち棘があるぞ」

「以後、気をつけます」

「そのセリフは聞き飽きておるのじゃが?」


 スフィーダは目尻をつんけんさせた。

 そうしたところで、ヨシュアにはなにも響かないのだが。


「ジェリド氏には腕利きのボディガードがついていた。なのに、結果が結果です。どういうことかと考えたくなるというものです」

「おまえは犯人について、見当がついていると言ったではないか」

「施設、あるいは組織の責任者から声明が出されました。真実かどうかは現状、見極めようがない。だから、ある程度という言葉を用いました」

「事件については見えてきた。他になにか、情報はあるのか?」

「ぶっちゃけてしまうと」

「よいぞ。ぶっちゃけてしまえ」

「実は、当該事件の犯人と思しきやからが、陛下を招待したいと」

「へ? わしが呼ばれておるのか?」

「さようでございます」

「それはまた、どうしてじゃ?」

「そのあたりの事情は図りかねます」


 ヨシュアは本当にわからないとでも言わんばかりに、くりっと首をかしげてみせた。

 その実、すべての理由、背景などはわかっているに違いないのだが。


「そういうことであれば、相手をするぞ。おまえもそう考えて進言したのじゃろう?」

「その通りでございます」

「場所はどこじゃ?」

「ヴィエイラの首相官邸でございます」

「首相官邸? 勤め人は? どうしたのじゃ?」

「どうされたと思われますか? ちなみに、人質はいないとのことでした」

「皆殺しにされてしまったわけではないのじゃな?」

「はい」

「ホッとできる知らせじゃ」

「当然、建物の周囲は魔法使いで埋め尽くします。逃げられないようにいたしております」

「じゃが、すべての事象をコントロール下に置いているのだとすれば……」

「そうですね。移送法陣を使えるのかもしれません。しかし、至近距離であれば、飛ばれる前に討つことも可能です」

「それでも、厄介であるように思う」

「同感でございます」

「どうあれくだんの者と会うのは、わしとおまえでじゅうぶんじゃ」

「それが」

「なんじゃ? なにかあるのか?」

「エヴァ・クレイヴァーが、私から離れようとしません」

「は? どういうことじゃ?」

「この首都アルネに、自己判断で戻ってきてしまったんですよ」

「そうなのか?」

「そうなんです。リンドブルム中将は、部下の不出来に頭を悩ます人物でもありません。よしなにはからってやってくれ。そんな連絡を受けています」


 刹那考えたが、スフィーダの頭脳はすぐに結論を告げてきた。


「それこそ、おまえのそばを離れたくないということなのじゃろうな」

「意味がわかりません」

「恋心はなににも勝るというよい事例じゃ。おまえのそばにいさえすれば、チャンスがあるかもしれないと狙っておるのじゃ」

「始末が悪い話です」

「かわいらしい話じゃ」


 額に右手を当てたヨシュア。

 彼は嘆くようなニュアンスで、ゆるゆると首を横に振ってみせた。


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