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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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330/575

第330話 スカウト。

       ◆◆◆


 朝。


 本日一人目の謁見者を見て、スフィーダは面食らった。

 目だってえらくおっきくしてしまった。


 その謁見者、男は、所定の位置で立ち止まると、片膝をついた。


 藍色の髪に藍色の魔法衣。

 ブーツまで藍色だ。

 丸眼鏡をかけている。


「ラニード・ウィルホークでございます。スフィーダ様と会うのは数度目となりますが、私ごときのことを記憶していらっしゃるでしょうか」


 慇懃無礼な言い方に聞こえる。

 スフィーダはびっくりの顔から回復、その怪訝さに眉をひそめている。


「忘れることができるキャラクターでもないじゃろうが」

「それは結構」

「無礼者めが」

「存じ上げております」


 いまだ、ラニードはおもてを上げずにいる。


「して、何用じゃ?」

「まずは世間話でも、いかがですか?」

「おまえと話をするつもりはない。単なる殺人鬼となにを話せというのか」

「私はヴィノー閣下に対して、非常にシンパシーを感じているのですが?」

「口調だけは似ていなくもない。じゃが、ヨシュアはおまえよりもずっとヒトを大切にするし、きちんとした目を持っておる。二度目じゃ。もはや言わずともわかるじゃろう?」

「やはり、私は殺人鬼だと?」

「違うのじゃったら、論破してみろ」

「顔を上げても?」

「それくらいはゆるしてやる」


 ラニードは顔を上げると、にこりと笑った。

 ヨシュアのそれとは違い、当然、邪な笑みであるように感じられた。


「くどいようですが、私の本質は、ヴィノー閣下のそれと似通っていると考えます」

「ほざくな、若造。ヨシュアと自分とを一緒にするな」

「用件に移りましょうか」

「さっさとそうせぃ」

「立ち上がっても?」

「好きにしろ」

「いつでも焼けると?」

「そうじゃ。命が惜しければ間違うな」

「承知いたしました」


 すっくと立ち上がると、ラニードは丸眼鏡の奥の目をにぃと細めてみせた。

 やはりヨシュアとは違うなと、スフィーダは思う。

 ヒトを小馬鹿にし、嘲笑している。

 そんな雰囲気が、伝わってくる。


「クレイヴァー」

「エヴァのことじゃな。それがどうかしたか?」

「我が国に、招き入れたいと考えております」

「ほぅ。あるいはダインの側近にでも据えるつもりか?」


 するとラニードは、不敵に「ふふ」と笑い。


「その役割を担うには、彼女にはまだ荷が勝ちすぎる。ですが、将来的にはそうなる可能性がある」

「わしもそれなりにエヴァのことは知っているつもりじゃ。重用されんというのであれば、エヴァは首を縦に振ったりはせん。いや、それ以前に――」

「彼女は現状に満足している。スフィーダ様はそうお考えなのですか?」


 難しい質問を寄越してくる男だと思わざるを得ない。

 性格がひん曲がっているからこそ、相手の嫌なところを突くのがうまいということだろうか。


 ラニードは丸眼鏡のブリッジ部分を右手の中指で押し上げた。

 フツウのニンゲンでもやるフツウの仕草なのだが、どうにも気に食わない。

 嫌われるために生まれてきたような男だとすら思う。


「エヴァは今、貴軍において少佐だと耳にしました」

「それがどうかしたか?」

「お取り次ぎ願いたい。直接会って、話をします」

「断る」

「スフィーダ様のお気持ちを伺っているのではないのですが?」

「おまえの言い分などどうでもよい。ヨシュアよ、言ってやれ」


 するとヨシュアは「かまいませんよ」と言ってのけ。

 だからスフィーダは玉座からずるっと滑り落ちそうになり。


「ヨ、ヨシュアよ、なにを言い出すのじゃっ」

「正直に言ってしまうと、戦力としてはあまり期待していないんですよ。彼女は移り気ですからね」

「だからといって、放逐してもよいということにはならんじゃろうが。ついでに言っておくと、エヴァはこの国から飛び出すつもりはないと思うぞ?」

「それは彼女自身が決めることです」


 ラニードが癪に障る声で、「嬉しいですねぇ。ええ。嬉しいお答えだ。またここを訪れればよろしいですか?」と訊いた。


「明日の夕方、またお越しいただけますか? 目当ての人物を用意しておきますので」

「用意しておく。さすがは閣下。面白い表現をされる」


 ラニードが「クックック」と喉を鳴らすようにして笑った。


「ところで、ヴィノー閣下。このあたりによいホテルはありませんか?」

「どこもよいホテルです。よりどりみどりですよ」

「それは嬉しい」


 失礼いたします。


 そう言って、マントとともに身を翻したラニード。

 向こうへと去ってゆく。


「奴の出自等、少し情報を得ておいたほうがよいのではないか?」

「無論、それくらいは以前からやっています。しかし、彼自身が親類や縁者をすべて屠ったわけです。詳しいことまではわからないでいますし、わからないままになるでしょう」

「本当に、エヴァと引き合わせるのか?」

「彼女が嫌だと言えば別ですが」


 ヨシュアが後ろを向いた。

 彼は侍女らに「次の謁見者のために、椅子を二脚、用意しなさい」と普段通りの指示を出した。


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