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第33話 占い師……?

       ◆◆◆


 白いものが多くまじった長髪を、後ろで束ねている老婆である。

 深々と座礼をし、顔を上げると、「占い師のルメですじゃ」と名乗った。

 しわくちゃの顔をさらにくしゃっとさせて笑う様子には、愛嬌を感じる。


 ヨシュアが腰を屈め、耳打ちしてきた。


「ちまたでは、よく当たるという噂でございます」


 スフィーダ、「ほぉほぉ」と口をすぼめ、それからルメに「わざわざ、わしのことを占おうと考えて来てくれたのか?」と訊いた。

 彼女からは「そうですじゃ」との返答があった。


「ならば、まずはありがとうと言っておくのじゃ。ご苦労じゃった」

「とんでもないですじゃ」

「して、なにを占ってくれるのじゃ?」

「陛下には悩みがある。ばばの見立てではそう出ておりますですじゃ」

「むむっ。そうなのか?」

「はいですじゃ」

「なにをもって、そう言っておるのじゃ?」

「ばばは、人相を見るのですじゃ」

「顔を見ただけでわかるのか」

「そうでございますですじゃ」


 スフィーダ、顎に手をやって自らの頭の中を探る。

 悩み。

 確かに、ないことはない。


「む、むむむっ。その悩み、まもなくわかりそうですじゃ」

「そ、そうなのか?」

「はいですじゃ。むむっ、むむむむむっ!」

「そそ、そんな怖い顔でじっと睨むな。じ、実はのルメよ、わしにはその、好きな男がいて――」

「やはりそうでしたかですじゃ!」


 ルメがスフィーダのことをビシッと指差した。

 スフィーダは思わず身を引いてしまうくらいびっくりした。


「さあ、このばばめに事情をお話しくださいませですじゃ」

「む、むぅ。じゃが、わしは女王であるわけでな、じゃから、詳細まで打ち明けるのは気が咎めて――」

「話されたほうが楽になりますですじゃっ」

「そ、そういうものか?」

「はいですじゃ」

「うーむ、じゃがのぅ、じゃがのぅ……」

「わかりましたですじゃ」

「話さずともよいか?」

「よいですじゃ。このばばめにお任せあれですじゃ」

「お任せあれ?」

「はい。お任せあれですじゃ」


 ルメがあまりにじっと見つめてくるので、スフィーダは緊張して口を真一文字に結んだ。

 不思議と、なにもかも見透かされているような気分になってくる。

 よい心地はしない。

 胸の中に直接手を突っ込まれて、中にあるものを引っ張り出されるような感覚に駆られる。


「むっ、むむっ、ですじゃ」

「な、なにかわかったのか?」

「相手はニンゲンと出ましたですじゃ」

「おぉ、正解じゃ。して?」

「なかなかいい男ですじゃ」

「ま、まあの。確かにそうじゃの」

「体は小さくないですじゃ」

「その通りじゃ」

「スフィーダ様」

「な、なんじゃ?」

「やめなされ。ばばの占いでは死別すると出ましたですじゃ」

「しし、死別? どどど、どちらが死んでしまうのじゃ? わしか? それともフォト、男のほうか?」

「どちらかは重要ではないですじゃ。とにかく死別してしまうのですじゃ」

「そうなのか……」


 スフィーダはしょんぼりして、がっくりと肩を落としてしまったのだった。




       ◆◆◆


 玉座のそばに設けさせたテーブルにつき、昼食をとっているスフィーダである。

 チーズパンを小さくちぎって力なくかじり、咀嚼する。

 彼女の眉尻は下がっている。


 隣に控えているヨシュアが「元気がございませんね」と声を掛けてきた。

 スフィーダ、尚もしょんぼりしながら、「当然じゃろう?」と返した。


「そうか。そうなのか。わしはフォトンと死に別れてしまうのか……」

「陛下」

「あやつは無鉄砲なところがあるからのぅ。いくさで死んでしまうのかのぅ……」

「陛下」

「う、ううぅ……。悲しい。悲しいぞ。涙が出てくるぞ……」

「陛下」

「なんじゃ……?」

「あの占い師の物言いをお信じになるのでございますか?」

「信じるもなにもないじゃろう? とほほじゃ。とほほなのじゃ……」

「まあ、お待ちください。よくお考えになってくださいませ」

「考える? なにを考えればよいのじゃ?」

「悩み事を抱えていない者など、この世にはまずおりません」

「そうかもしれんが、だったら、なんだというのじゃ?」

「好きな男との関係について悩んでいる。そう告白されたのは陛下ご自身です」

「そうじゃったか?」

「はい」

「それで?」

「想い人はニンゲンだと言っていました」

「そうじゃ。その点も当ててみせよった」

「魔女に吸血鬼。それに、自らを”魔女の子”と称する曙光の王、ダイン」

「そやつらがどうかしたか?」

「おわかりになりませんか? 例外は彼らしかいないんですよ? 世の中のほとんどはニンゲンなんですよ?」

「……あっ」

「ええ。フツウに思考すれば、恋の相手はまず間違いなくニンゲンだという結論に至るのでございます」

「じゃ、じゃが、イイ男だということも当てたぞ?」

「想い人のことを不細工だと評価する確率は低いでしょう」

「体は大きいとも申しておったぞ?」

「違いますよ。小さくはないと言ったんです。遊びの部分が広い言い方です。胡散くさい表現です」

「それでは、死別してしまうというのは……」

「どちらが先に死ぬか。その点については言及しませんでした」

「うむ、うむ。そうじゃ。確かにそうじゃな」

「あの占い師の老婆は信用ならない。私はそう感じた次第でございます」


 ここでスフィーダ、勢いよく立ち上がった。


「あのおばばめ! つまるところ、わしをからかいに来よったのか!」

「彼女の真意はわかりません。しかし、今回の場合、陛下のほうが悪うございます」

「な、なぜそうなるのじゃっ?!」

「信じたほうが阿呆だからでございます」

「信じる者は救われるというじゃろうが!」

「それとこれとは話がまったく別でございます」

「ぐっ、ぐぬぬぬっ。なればこの怒りは誰にぶつければよいのじゃっ!」


 地団太を踏みたくなるくらい、ぷんすかしているスフィーダである。


「胸の内にお収めください。申し上げましたよ? 信じたほうが阿呆だと」

「ぐっ、ぐぬぬぬぬっ!」


 目も肩も怒らせたものの、まもなくスフィーダは脱力し、「はあ……」と吐息をついた。

 確かにヨシュアの言う通りだ。

 占い師と聞かされただけで、盲目的に信じてしまった自分に問題がある。

 それを認め、冷静になり、彼女はすとんと椅子に腰を下ろした。


「じゃが、そうじゃな……。死別するとして、その場合、先に逝ってしまうのはフォトンなのじゃな……」

「そうとは限りません。寿命はないかもしれません。しかし、魔女は不死身ではない」

「できることなら、フォトンと同じ棺桶に入りたい。こういう考え方は、いかんのじゃろうか……」

「私はアリだと思います」

「そうか?」

「はい」


 ヨシュアが微笑んでみせた。


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