第329話 ヨシュアが帰ってきた!
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現象としては、たった二日や三日のことだったのに、玉座の間にヨシュアが姿を現した瞬間、スフィーダは駆けていた。
大きく手を広げて迎えてくれたヨシュアに、抱きついた。
わああん、わあああんっ。
そんなふうに、とても大きな泣き声が出たのだった。
侍女らまで、近づいてきた。
みんな、しくしく泣くのだ。
よかった、よかったと言って、泣くのだ。
「もう少し、留置所にいてもよかったのですが。ええ。あそこは静かでうるさくなかった」
「おまえが帰ってくるのがあと一日遅れていたら、自殺していたかもしれん」
「ほぅ。それは誰の話でございますか?」
「わしに決まっておろうが」
スフィーダはヨシュアの胸を、それぞれの拳でぽかぽかと叩いた。
「こたびの件で、ある程度、膿みは出せたのでしょうね」
「サドラー教がうんたらかんたらの話か?」
「はい。警察内にシンパがいたとなると、第三者の介入が必要かもしれませんが」
「フォトンとヴァレリアが手を回したと聞いた。そうなのか?」
「主にヴァレリア大尉ですね。彼女はあちこちに顔が利く。頼もしい存在ですよ」
スフィーダはヨシュアから離れると、腕を組み組み、「むぅ」と唸った。
もうだいたい、自らを取り戻した彼女である。
「第三者というが、自浄作用に期待することはできんのか?」
「基本的にはという枕詞はつきますが、誰も身内を狩り出したくはありません。穏便に済ませられるものなら、そうしたい。ヴァレリア大尉もその旨を改めて聞かされたはずです。彼女がどこまで譲歩したのかは、知る由もありませんが」
「おまえをもってしても、ヴァレリアの本意は掴めんのか?」
「彼女は水です」
「水?」
「はい。強く打つこともできれば、優しくたたずむこともできる。恐らく、フォトンも彼女のそういったところが好きなのだと思います」
「妬けるぞ」
「しかし、老いには勝てません。大尉もフォトンも、それに私もそうです」
悲しいことを言われたので、スフィーダはまた、目を潤ませる。
やっぱりヨシュアに抱き締めてもらう。
「わしはいつまで経っても子供じゃ。どうしてじゃろう。子供でしかいられんのじゃ……」
「貴女にとって、特別な存在でありたい」
貴女。
ヨシュアにそんなふうに呼ばれたことは、これまで一度もなかったように思う。
だからスフィーダは彼を見上げつつ、きょとんとなった。
「私はそう考えています。フォトンにしたって、そうです」
白く高い天井を眺め、スフィーダは泣いた。
あっ、あっと、細切れの嗚咽を漏らすたびに胸が上下する。
「おまえ達ほどの者は、これまでおらんかったのじゃ。だから、老いの話などするな。間違ってもするな」
「それは過去の忠臣のことを、あるいは蔑ろにしかねないお言葉でございます」
「フォトンのことが愛おしい。おまえのことだって、愛おしい。いったい、わしはどうすればよいのじゃ……?」
ヨシュアはその問いには答えず、「雨が降ってまいりましたね」と言った。
とても静かで、優しい口調で、「涙雨でございますね」と言った。




