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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第327話 ヨシュアは自らお縄についた。

       ◆◆◆


 本日最後の謁見者は椅子には座らず、右手を向けてきた。

 なにかを想像し、創造し、それを正面からぶつけてくるつもりだ。

 魔法が使えるか否かについては、ボディチェックのしようがないのだ。

 だから、こういったことが起きるのは、どうしようもないことなのである。


 さすがは、女王陛下の侍女達だ。

 悲鳴を上げたいところだろうが、それをしない。


 ヨシュアが自身とスフィーダとを包む、ドーム型の薄紫のバリアを展開。


 しかし、スフィーダは強い口調で「よい」と言った。

 それでも、ヨシュアはバリアを解かない。


 スフィーダはもう一度、先ほどよりもさらに強く「よい」と告げた。

 するとヨシュアは、しばし目を閉じたのち、彼女が言った通りにした。


「誰じゃ、おまえは。何者じゃ?」


 クリーム色のシャツに、茶色いベスト。

 どこにでもいそうな若者は、「アーロン教祖を解放しろ」と言った。


 アーロン。

 反女王制をうたう、サドラー教の祖である老人だ。


「それはできん。わかっておるじゃろう?」


 そしたら、男は馬鹿みたいに大笑いした。


 スフィーダは険しい顔で「なにがおかしい?」と訊ねた。


「スフィーダ。おまえを罪人にしてやる。覚えておけ。俺の名前はマシューだ。おまえに罰を与えるニンゲンの名だ」


 マシューと名乗った男、若者が、右の手のひらを自身の顔の前にかざした。

 なにをするか悟らざるを得なかった。


「待て! マシュー!」

「待つかよ、馬鹿野郎!!」


 マシューの右手が白い光を帯びたかと思うと、次の瞬間、マシューの顔は吹き飛んでいた。


 首から上がない、マシューという男は、どっと前のめりに倒れたのだった。

 魔法の力を借りて、自殺したのだ。


 それから一分と経たずして。


 スフィーダが呆然としているところに、茶色いトレンチコートの男と、彼に連れられる格好で制服警官らが玉座の間に押し入ってきた。


 トレンチコートの男は壮年だろう。

 刑事なのではないか。


「通報にあった通りだ。まさかビンゴだとはな」


 ひたいに右手を当て、ゆるゆると首を横に振った刑事。


「ここまでその通りであるなら、相手がどうあれ、任意同行を求めなければなりません。スフィーダ様、おわかりですか?」

「……は?」


 スフィーダは唖然となった。


「まさかその男を、わしが殺したというのか?」

「ええ。そこに転がっている男は、自分が殺されることを予言していた。スフィーダ様に自らを殺させると言っていた。事実、ここには死体が転がっている。言い逃れができる状況ではありませんよ」

「そんなわけがなかろうが。なぜ、わしがその男を殺さにゃならんのじゃ?」

「女王陛下と言えど、罪を犯した以上は裁かれなければならない。そのうち、ご同行いただくことになりますよ」

「馬鹿を抜かすな」

「果たして、馬鹿なことなんですかね。罪人とあらば、我々警察にしょっぴかれるのが当然だと思いますよ。それが健全な世の中というもんです。たとえ相手が女王陛下であろうとね」

「女王だと声高にうたうつもりはない。だが、いくらなんでも無理筋じゃぞ」


 ここでヨシュアがスフィーダの眼前に割って入った。


「貴方、名前は?」

「大将閣下は無礼なんだな」

「名前を」

「アレクだ」

「アレクさん、フツウに考えてください。陛下が殺したという証拠もなければ、陛下をいきなりの任意同行で連れ出せるわけもないでしょう?」

「おっしゃる通りだ。しかし閣下、現実は正直ですよ」

「本気でおっしゃっているんですね?」

「それ以外の意味がありますか?」

「わかりました。しょっぴくなら私にしていただけますか?」


 スフィーダ、ギョッとなった。


「ま、待て、ヨシュアよ。誰が悪いわけではないぞ? そんなこと、自明の理ではないか」

「まあ、いいですよ。閣下。貴方がやらかしたというのであれば、私はそれでもかまわない」

「でしたらアレク刑事、やはり連行するのは私にしてください」


 スフィーダは後ろから、ヨシュアに抱きついた。


「待て、待つのじゃ、ヨシュアよ。ここで起きたことは、どうしようもないことだったではないか。侍女らに話を訊けば、すぐにわかることじゃろう?」


 ヨシュアはくるりと身を翻すと、膝を折った。

 スフィーダの肩に、それぞれ両手をのせた。


 そして、小さな声で告げてきた。


「あの刑事はあからさまに怪しい。その旨、いずれ露見します」

「じゃ、じゃが、おまえが逮捕されたなどという情報が流布してしまうと、おまえ自身の評判が――」

「この程度のことで評判を落とすようなら、私はよほど嫌われているのでしょう」

「待て。お願いじゃから、待ってくれ」


 スフィーダはメチャクチャ不安になる。

 二度とそばにはいてもらえないかもしれない。

 そう考えると、頭が爆発しそうになった。


「閣下。今生の別れかもしれませんが、スフィーダ様とのラブロマンスみたいなやり取りはいい加減にしてもらえますか?」


 ヨシュアが階段を下りる。


「アレク刑事。貴方はきっと、後悔しますよ?」

「寝言は寝てから言ってください。無論、寝かせるつもりはありませんが」

「そのセリフは女性に言ったほうがいい」


 ヨシュアが軽口を叩くようにしてそう言った次の瞬間、彼の両手首に手錠がかけられた。


「ヨシュアッ!」


 スフィーダはそう叫んだ。


 振り返ったヨシュアは、笑顔だった。


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