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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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321/575

第321話 居酒屋。

 朝。

 謁見者が訪れる前の時間。


 玉座に腰掛けているスフィーダ。

 彼女のすぐ左方に設けられた椅子には、ヨシュアが座っている。


 スフィーダ、珍しく新聞なんかを広げている。

 膝から下をぷらぷらと前後に揺らしながら、面白い話題を見つけるべく目を通している。


 興味深い記事を見つけた。

 スフィーダは「のぅのぅ」とヨシュアを呼び寄せた次第である。


「どうかなさいましたか?」


 ヨシュアは大きく腰を屈め、スフィーダが指差す記事を覗き込んだ。


「有名居酒屋店のPRでございますか」

「そうじゃ。居酒屋じゃ。初めて知ったぞ。鶏肉を串に刺して焼いたものが名物だそうじゃ」

「焼いた鳥。まさに焼き鳥というのですが、非常にうまいものです」

「食べたことがあるのか?」

「はい。塩が振られているだけの肉なのですが、とてもうまいものでした」

「えらくうまいものを連発しよるな」

「本当にうまいものですから」

「食べてみたいぞ」

「やはり、陛下は欲求に従順であるようですね」

「なんじゃとぅ?」

「フォトンとも寝たいとかなんとか」

「それは今言うことではないぞ。コイツめ、コイツめっ」


 スフィーダは立ち上がり、ヨシュアの胸をぽかぽかと叩いた。

 当然のことではあるが、彼の体はびくともしない。


 そんなことより、焼き鳥、焼き鳥だ。

 食用として扱われる鳥がいることは、やはり事実であり、現実でもある。

 そこにニンゲンの残酷さがあるとは、もはや考えなくなった。

 なぜなら自らも、その恩恵にあずかっている一人なのだから。


「この店のあるじに来てもらうことはできんか?」

「陛下のお望みとあれば、主人は喜び勇んでやってくることでしょう。しかし」

「しかし、なんじゃ?」

「陛下が呼びつけるのはよろしくありません。横柄に感じられてしまいますから」

「確かにそうじゃな」


 スフィーダ、しょんぼり。

 しかし、ヨシュアの言う通りなので、我慢しなければと思うのだ。


「とはいえです、陛下」

「とはいえ、なんなのじゃ?」

「閉店後に少し働いていただく分には大丈夫でしょう」

「ほっ、本当か!?」

「食いつきかたがハンパないですね」

「うむ。じゃが、わしのために延長してもらうというのなら少なからず申し訳ないわけで……。わしのお小遣いだって、税金なのであって……」

「公爵であるヴィノー家のおもてなしとして、陛下をご招待いたします。もはや言わずもがなでございますが、私の移送法陣であれば、店内に飛べます。その旨、彼らに伝えた上で、事を進めるとしましょう」


 スフィーダはヨシュアに愛おしさを覚えた。

 いつもからかってくるし、あるいは馬鹿にしたように振る舞われることがあるのだが、今は感謝したくなった。


「あいわかった。段取りを頼む」

「お任せくださいませ」




       ◆◆◆


 ヨシュアの移送法陣にて、目的の居酒屋に下り立った。

 内緒、内緒の入店だ。


 店員に驚かれるようなことはなかった。

 そのへん、ヨシュアがうまいこと手を回してくれたのだろう。


「スフィーダ様、らっしゃい!」


 主人だろうか。

 キッチンから威勢のいい声がした。


 すでに店内には香ばしい、いい匂いが漂っている。


「どこでも好きな席にお座りください!」


 ねじり鉢巻きをしているキッチンの男の声は、やはりはつらつとしている。


「ど、どこに座ったらいいのじゃ?」


 スフィーダはどぎまぎしながら、ヨシュアに訊ねた。


「カウンター席につきましょうか」


 そんな回答があった。


「よ、よしっ。わかったぞっ」


 小さなスフィーダは、椅子によいしょと腰掛けた。

 低い背もたれが油気でねばねばしているのがわかった。


「スフィーダ様、飲み物はなにがいいですか? なんでも出しますよ!」


 そう言ってくる男である。

 スフィーダは少々逡巡したのち、「オレンジジュースがよいぞ!」と大きな声で答えた。


 男に「二千年以上も生きてるってぇのに、舌は子供のまんまなのか」と笑われてしまった。

 だから、頬をぷっくりと膨らませたスフィーダである。


「じゃったら、アルコールを持ってこい。なんだって飲んでやるぞ」

「冗談だよ、スフィーダ様。アンタみたいな子供に振る舞う酒なんて置いてねーよ」

「わしはチビじゃが、実年齢も精神年齢も、案外、上じゃぞ?」

「だから、幼女に出す酒はないって言ってるんだよ」

「むぅ。それなら我慢するしかあるまい」

「やっぱアンタ、かわいいよ。天才的にかわいいよ」

「世辞は要らん」

「はい、いっちょうあがり!」


 男の手により、焼き鳥とやらがのった皿を置かれた。

 目の前にだ。


 くんくん、くんくんくん。

 いい香りがする。


 熱いうちに、ほおばった。


「スフィーダ様、どうだい? うまいだろう?」

「ああ。うまいのぅ。さすがの仕事じゃな」

「焼くだけなんだけどな」

「そこには職人技があるのじゃろう」

「まあ、そうなんだけど。それにしても」

「ん? なんじゃ?」

「いや、なんとなく、スフィーダ様は肉なんて食べないと思ってたからよ」

「以前は、ただなんとなく食べていた。今は気合いを入れて食べるようにしておる」

「どの世界にも、きっと食物連鎖ってのはあるんだ。その食物連鎖ってものが研ぎ澄まされ、昇華されていく。それが正しいあり方なんだと思うぜ」

「その意見に異議を唱えるつもりはない」

「よかったよ。女王陛下に来てもらっただんて、一生の宝物だ。あとでサインが欲しい。かまわないか?」

「うむ。任せておけ。ただ、見えるところには飾ってくれるな」

「わかってる。家宝にしたいってだけだよ」


 その後もスフィーダ、たくさんたくさん、命を食べた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >たくさんたくさん、命を食べた。 心に残りました。 [一言] 日常パートと戦いのパートが、しっかり繋がっているなと読んでいて思います。 それが作品の説得力を生んでいるだと感じます。 作者さ…
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