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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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319/575

第319話 従順な刑事。

       ◆◆◆


 日中。

 玉座の間。


 中肉中背。

 クリーム色のトレンチコートを着ている男は告白した。


 俺はなんの罪もない男を殺しちまったんだ。


 そう告白した。


 スフィーダは話を進めることにする。


「それだけでは、なにもわからんぞ」

「強姦殺人事件の犯人と思しきニンゲンを、俺は二年越しで追っていた。丁寧に追い続けているつもりでいた。だが、クロだと見込んでいたくせに、俺はそこで失敗したんですよ」

「そうなのか?」

「そうなんですよ。俺の二年はなんて無意味だったんだろうって思いましたよ。俺が積み上げてきた捜査はなんだったのかってね」

「地道にやったのじゃろう? であれば――」

「仕方がないとおっしゃいますか?」


 スフィーダは苦笑いを浮かべた。

 その上で「仕方がないで済ませてしまうのは、よくないことじゃな」と口にした。


「して、殺したというのは?」

「あいにく、俺は魔法が使えるんです。奴さんが逃げようとしたところで、俺は魔法でひねり出した槍でもって、後ろから突き刺しちまった。そのときは胸のすく思いがしたもんです。しかし、よくよく調べてみると、奴さんはシロだった」

「自らがシロだというのであれば、どうして男は逃げたのじゃ?」

「それはわかりませんね。だが、俺がミスを犯したということは事実です」

「本当に、ミスじゃったのか?」

「ですから、そう言っています」


 スフィーダは嘆息した。


「警察というのはハードな職だと考えておったが、やはり、実際にそうなのか。しかし、誰しも過ちを犯すというものじゃ。わしはそう考える」

「スフィーダ様。そんなふうに考えられるなら、今、俺はここにいませんよ」

「つまるところ、そなたはなにを目的として訪ねてきたのじゃ?」

「最後にスフィーダ様に会いたかったんですよ」

「最後?」

「当然のことでしょう。俺は刑務所にぶち込まれます」

「じゃからわしは、そなたが裁かれるのは、ちょっとおかしいと思って――」

「ミスはミスだ。過ちは過ちだ。情状酌量の余地がないとは言い切れんでしょう。俺は死刑になりたい。でなけりゃ、俺が殺した奴に申し訳ない」

「考え直せと言っておるのじゃ」

「女房もガキもいるんですが、罪は償うべきだ。俺の頭ん中は、そんな思いでいっぱいなんですよ。家族に迷惑をかけるわけにゃあいかない」

「もう一度問うぞ? どうしてわしに会いに来たのじゃ?」

「スフィーダ様は年に数回、テラスから手を振られるでしょう? 馬鹿みたいな国民に対して、馬鹿みたいに素直に」


 スフィーダは悲しい気持ちになった。


「そのような考えを述べるのは、そなたが望むところではないじゃろう?」

「そうですよ。でもね? 俺はね、スフィーダ様。そんな奴らのことを馬鹿だと断じていたんですよ。それがどうだ。貴女に会った俺は、すべてを懺悔したいと考えている。貴女は立派です。その事実には文句の垂れようがない。ああ。貴女は大人物だ。ここに来てよかった。スフィーダ様は潔癖だ」


 潔癖。

 それは褒め言葉ではないような気がした。


「俺はもう、罪人として裁かれる。ただ、そのことに関して、悪い思いは抱いていない」

「そなたがそう言うのなら、あえて止めようとは思わん」

「それが正しいんです。だが、俺はスフィーダ様になんとかしてほしかったのかもしれませんね。だからわざわざここを訪れて、自分の罪を白状した。まるで貴女に助けを求めるように」

「悲しいのぅ……」

「そう言えるうちは、貴女は大きな間違いなんてしないと思う。どうかこれからも、絶対的な女王であってください」

「なかなかに重い責務じゃ」

「俺は貴女を信じている。ああ、それだけだ。では、これで失礼しますよ。俺は女房とガキの幸せを祈るばかりだ。本当に、二人に対して、強くあれ、と……」


 煮詰めきったくらいに悲しい話だと、スフィーダは思った。


 否定するのは簡単だ。

 肯定するのは難しい。


 その真理を、まざまざと見せつけられた気がした。


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