第314話 官能的な暇。
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ヴァレリアが玉座の間を訪ねてきた。
夕方であり、また謁見者の対応が済んだタイミングだった。
恐らく、その時間帯を狙っての訪問だと思われる。
彼女はなにか話を持ち出したいのだろう。
ヨシュアは早々に席をはずした。
ヴァレリアに好きにしゃべらせようという旨が知れた。
スフィーダの先、テーブルの向こうに、ヴァレリアは座った。
スフィーダとヴァレリアは、向かい合って席についたというわけである。
「そなたが一人で訪ねてくるとは、珍しいのぅ」
「遊撃隊という役割、あるいは機能に戻りました」
「うむ。そうらしいの」
「しかし、その実、暇なのです」
「少し前にも、そのようなことを言っておったな」
「我が国は年がら年中、戦争をしているわけではありませんから。どこにでも飛べる準備はしておりますが、その行き先がないといったところです」
「戦いたいのか?」
「まあ、それ自体は私にとって、二義的な問題です。少佐と一緒にいることができればよいというだけですから」
「む、むぅ。そなたのまっすぐな言葉は、ときにわしに嫉妬をもたらすぞ」
「最近、少佐は相手をしてくれません」
「ほぅ。そうなのか?」
「それでもまたがってやったら、その気になる場合もあるのですが」
「ま、またがるって、すすっ、するのか?」
「しこたまいたします」
「そそっ、それならそれでよいではないか」
「そう思われますか?」
「そう思うぞ」
ヴァレリアは美しいブラウンの前髪を掻き上げた。
「本当に、実に私は幸せ者です。死に場所、それに死にどきは、少佐とともにあろうと決められるのですから。陛下はそうもいかないでしょう?」
「……そうじゃな」
スフィーダも前髪を掻き上げた。
「なによりわしには立場がある。それは簡単に投げ捨てていいものではない」
「私はただの女です」
「わしもそうありたかった」
「結果的に、私は陛下よりも、少佐に近くあれるのかもしれない」
「そう考えているからこそ、わしはそなたに嫉妬するのじゃ。激しく、な」
◆◆◆
翌日の夕方。
今度はフォトンが現れた。
ヴァレリアはいない。
だから、誰も彼の心の内を言葉にはできない。
今日もヨシュアは席をはずし、スフィーダは彼と二人きりになったのだった。
赤絨毯の上で片膝をついているフォトンにスフィーダは近づき、膝を折った。
「なんじゃ? なにかあったのか?」
ひ・ま・で・す。
フォトンがそんなふうにくちを動かしたものだから、スフィーダ、笑った。
「有事の際にはおまえ達の部隊が最も激務を強いられるぞ。今は充電期間だと思えばよい」
フォトンが手招きした。
なんだろうと思って、スフィーダは近づく。
次の瞬間、抱き締められた。
あまりに強い力だったので、スフィーダの口からは「はあ、ぁ……」という色っぽい声が漏れた。
「は、離すのじゃ、フォトン。侍女らが見ておる……」
そうは言ったものの、フォトンはぎゅうぎゅうと抱き締めてきて。
「う、うぅぅっ、うっ……」
快感に耐え切れず、スフィーダは彼の太い首に両手を回した。
ずるい、ずるいのだ。
こういうかたちで愛を示してくるから、余計にやめられなくなるのだ。
フォトンのことを大好きでいたくなるのだ。
自分のどこが彼の心を射止めたのだろう。
それはまったくわからない。
わからないのだが、まあいっかと判断したスフィーダだった。
本当に、フォトンとの関係は気持ちがよく、また尊い。




