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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第308話 延命措置。

       ◆◆◆


 玉座のすぐ近くに設けさせた白いテーブルの席にて、ヨシュアと向かい合って座っているスフィーダである。


 ヨシュアがなんの前触れもなく、「延命措置について、どうお考えになりますか?」などと訊いてきた。


 訊ねられたところでぱっと答えることはできないたぐいの質問だ。

 それでもヨシュアは「どうお考えになりますか?」と重ねて問うてくる。


「むぅ。よし、わかった。答えよう。あらかじめ断っておくが、少々偉そうな物言いになるぞ?」

「かまいません」

「わしはの、ヨシュア。先が見えん延命措置なら、それをやっても仕方がないと思う」

「平均点のお答えですね」

「む。平均点とか言われると、なんだか怒りを覚えるぞ?」

「まあ、その通りだという話でしかありません」

「じゃたら、意地悪な質問をするな」


 ヨシュアは「その延命措置を受けている少女がいます」などと、これまたいきなりぶち込んできた。


「どどっ、どういうことじゃ?」

「私は会ってきました。顔が真っ白な少女でした」

「だ、だからじゃな、わしはどういうことじゃと訊いて――」

「少女はもう、長くないそうです」

「それだけではわからんと言っておるのじゃ。どういうことなのかきちんと聞かせろ。でなければ、いい加減、怒るぞ」

「怒られるのは、まっぴらごめんでございます」

「じゃったら――」

「どうやら、少女は喉をやられたそうです」

「喉?」

「喉でございます。一度患うと、治癒が難しい部分でございます」

「そうなのか……」

「はい」


 スフィーダは俯いた。

 文句を言ってやりたい相手は神様だ。


「延命措置。それは悪いことなのか?」

「先ほど、陛下はよくないとおっしゃいましたよ?」

「まあ、それはそうなのじゃが……」

「陛下のお気持ちはわかります。ですが、あまりに長患いをするとみなに迷惑をかけてしまうかもしれない。そう考えるニンゲンもいるんです」

「それは少し、悲しすぎやせんか?」

「私はあえて、悲しい言い方をしています」

「その少女に会うことは? 可能なのか?」

「可能です。ただ、短い時間にしてくださいませ」

「んなこた、わかっておる」

「明朝、向かいましょう」

「いつでもよい。最優先事項じゃ」




       ◆◆◆


 問題の病室に至った。


 個室だ。


 入室すると、髪に白いものがまじっている中年くらいと思しき女性が、立ち上がって頭を下げてみせた。


「よいよい、よいのじゃ。お辞儀をする必要などないぞ」

「だからといって、スフィーダ様に礼儀を欠くわけには……。本当に、来てくださったんですね。娘は常日頃から、スフィーダ様に会いたいと申しておりました。それが……その願いが、こんなかたちで叶うだなんて……」


 スフィーダは歩みを進め、ベッドの上で仰向けになっている少女の顔を覗き込んだ。


 その顔は、聞いていた通り、真っ白だ。

 目にも唇にも、まるで色がない。


「延命措置。そう聞かされた」

「はい。私は娘に対して、あまりにつらいことを強いているのかもしれません」

「わしは医学に詳しくない。モルヒネでも投与したら、痛みを忘れ、楽になるということなのか?」

「まさに、その通りです」

「単純な延命措置というわけでもないのじゃな」

「ただ生きていてほしい。だから、せめて痛みは感じさせたくない。それだけなんです」


 愛娘が死の淵に立っているわけだ。

 不安定にもなるだろう。

 母親は「延命措置のどこがいけないんですか?」などと、いきなりけんか腰で訊ねてきた。


「わしは、いけないなどとは言っておらん」

「でしたら――」

「聞いてくれ。延命措置は、そのニンゲンを苦しませることに他ならんと思うのじゃ」

「ですけど、私の子は、娘はまだ生きていて……っ」

「よくないのじゃ、本当に。死に際を誤ってはいかん」

「そうかもしれません。だけど、でも、私は……」


 スフィーダは目を閉じ、一つ吐息をついた。


「わしは魔女じゃ。二千年以上も生きておる。その経験からものを言う。信じてほしい。ヒトにはヒトの死に方があるのだと信じてほしい」


 母親は、涙をこぼした。


「もういっそ、娘のことを、スフィーダ様かヴィノー様が殺していただけないでしょうか。それなら私も諦めがつくんです。前を向いて、生きることができるのだと思うんです」


 つらい話じゃ。

 スフィーダはそう言った。

 心の内が迷いに満ちる。


「自然死が望ましい。まことに勝手な物言いながら、私はそう考えます」


 ヨシュアがぽんとそう言った。

 話を聞き、その上で判断し、正しいと思える回答を述べたのだ。


「それは理解できます。でも、殺してやっては、いただけませんか……?」


 母親はいっそう、泣く。


「それはできません」


 きっぱりと言ったヨシュアである。


「なぜですか? ヴィノー様、どうしてですか?」

「殺してほしい。それは貴女の意思でしょう? 貴女の子の意思ではない」

「でも、娘だってきっと――」


 そのときだった。


 娘がうっすらと目を開け、震える右手をヨシュアに伸ばしたのだ。


 娘の口が動いた。


「殺して……?」


 確かに、そう動いた。


 重い言葉だ。

 少女が言っていい言葉でもない。


 ヨシュアは目を閉じ、それから娘の薄い胸の上に右手をかざした。


「ありがとう、ございます。お医者様には、私から、説明します」


 母親がたどたどしい口調でそう言った。


「その場には私も同席します。私が、殺めるのですから」


 ヨシュアが「大丈夫ですよ。痛くありません。そして、信じてください。貴女の命は私が背負う」と娘に告げた。


 まもなくして、ヨシュアは娘を殺した。

 細いナイフのような黄金色の刃物を魔法で生成し、それで心の臓を貫いた。


 まさに事切れる瞬間、少女が「ありがとう」と口を動かしたのがわかった。


 涙が止まらなかった。


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