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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第306話 ティーム・ブラックの真意。

       ◆◆◆



 グスタフの首都の空では、フォトンの部隊の飛空艇が周回している。

 ゆったりと飛ぶそれを見ていると、頼もしい限りだと感じる。

 屈強極まりない彼の部隊なら、「敵をまるっと殲滅しろ」と言われれば、難なくこなして見せるだろう。


 しかし、敵の首謀者については、まだ不明なのだ。

 慎重さをもって事にあたる必要があるというステータスに変わりはない。


 そのような考えをめぐらせながら、上空から街を見下ろしていた最中に、だ。


 一人の兵、若い男からスフィーダのもとに、主犯を名乗る人物が現れたという知らせが届いた。


 その人物は、首都のど真ん中にいるとの話だった。




       ◆◆◆


 スフィーダはヨシュアとともに、問題の場所へと至った。

 やがて、首都の中央広場に下り立った。

 祝福を告げるのだろうか。

 大きな金色の鐘が白いアーチに吊るされている。


 その鐘のそばに立っていたのは、茶髪をオールバックに固め、丸い眼鏡をかけている、けっして若くはない人物、中年を過ぎようとしている男性だった。


 黒い軍服を着た、ティーム・ブラック情報部長が立っていた。




       ◆◆◆


 周囲はがれきと化した家屋ばかりである。


 誰がそんなことを成したのか。

 現状、その点はどうだっていい。


 スフィーダは訊ねることにする。


「情報部長。それなりの役職じゃ。そして、それを務めるには覚悟が要る」


 ティームは口元を緩めたように見えた。


「スフィーダ様、それはどのような職にも言えることです。なにをするにも相応の覚悟が要る。私とパン屋には、これといった差異はないのです」

「まだ化物どもが暴れていると聞いておる。そやつらを動かしているのは誰じゃ?」

「誰だと思われますか?」

「恐らくじゃが、テジロギとやらの忘れ形見ではないのか?」

「さすがです。非常に勘がよろしくていらっしゃる」

「ファーストネームについては初めて知った。先にミロス島で揉め事を起こしたやからは、ジャックというのか」

「ええ、そうです。その通りです」

「マヨイという少女を捕らえた」

「それでもまだ、ルーという駒がいた」

「ルー? 駒?」

「マヨイもルーも、仕返しをしたがっていた。プサルムという国、そのものに」

「二人にばらしたのか? ジャック・テジロギを屠ったのは、わしらじゃと」

「違いありません」

「愚かな真似をしたものじゃな」

「はたして、愚かなことなのでしょうか? 私は情報を与えただけですが?」

「言わんでいいこともある」

「だが、私には野心があった」


 ティームが微笑んだ。

 明らかに、場違いなくらいに、優しく微笑んでみせた。


「野心とはなんじゃ?」

「こればかりは、説明のしようがありません。しかし、いや、力の限り精一杯説明すれば、幾人かは頷いてくれるのかもしれない」

「なにを言っている?」

「すべてを調べ上げ、すべてを知ったのです。ダイン皇帝は確かに最強なのかもしれない。ただ、その常識を覆すニンゲンがいるなら……。それはヴィノー閣下、またはメルドー少佐だ。私のその解釈について、スフィーダ様はどうお考えになりますか?」

「魔女とヒトとの混血と言われるダインじゃ。悠久のときを生きつつ、ヒトの性質である成長という恩恵にあずかっておるのやもしれん。その前提で攻め込んでこられたら、わしだってお手上げにってしまうのかもしれん」

「しかしスフィーダ様には無理だとしても、最大瞬間風速では勝ることができるかもしれない。くどいようですが、それを成せるとしたら、ヴィノー閣下とメルドー少佐しかいない」

「そんな二人と、おまえは今、敵対しておるのじゃぞ? あらゆる点において矛盾しているように思う。いったい、なにがしたいのじゃ?」

「強さと美しさは比例するものであると、私は考えております。スフィーダ様、私は悪しきを働き、正義たる人物に討たれたかったのでございます。凡庸な人生に、最後の最期で華を添えたかった」

「しつこいぞ。なにを言うておる?」

「ですから、強さと美しさは同義だと、私は申し上げているのです」


 そこまで言うと、ティームは空を仰いだ。

 彼は「ああ、迎えが来ました。本当に、なんと美しい……」と悦に入ったような声を発した。


 スフィーダも上を向く。

 すると、フォトンが大剣を振りかぶりながら、舞い下りてくる最中で……。


 フォトンは地に下り立つなり、ティームを斬った。

 左の肩口から右の脇腹にかけて、剣を振り抜いた。


「実に……美しい……」


 大勢のヒトを殺し、その果てにヨシュアとフォトンを出撃させ、自らの望みを叶える格好で死した。

 ティームは思いを遂げたのだ。


「さすがの戦略でしたよ、ティーム・ブラック情報部長。これはあるいは、私達の負けだ」


 ヨシュアは静かに敬礼したのだった。




       ◆◆◆


 三日後。


 ルー・テジロギと名乗る少女が、グスタフの首都にて発見された。

 地下のシェルターで、ティームからの次の指示を待っていたらしい。


「悲しい復讐でしたけれど、私は私自身の意思で父の敵を討とうとしました」


 その物言いから、マヨイよりは話がわかりそうだとヨシュアに聞かされた。




       ◆◆◆


 例によって夕食後の紅茶をすすっている、スフィーダである。

 彼女は向かいのヨシュアに問うことにする。


「マヨイとルーは、どうなるのじゃ?」

「ルーはともかく、マヨイに関しては、少々、道徳を説く必要があります」

「もう一つ訊くぞ。マヨイとルーは、本当にあのテジロギの娘なのか?」

「よいご質問ですね」

「どうなのじゃ?」

「どうやら、彼女らもまた、ジャック・テジロギの創造物であるようです」

「それはまた、やりきれん話じゃのぅ」

「二人が生きる道を、模索しなければなりません」


 スフィーダはまた、紅茶を一口飲んだ。


「情報部長の名はだてではなかったか。ティームは持っているすべてを駆使し、投じて、騒ぎを起こしたのじゃからの」

「どこの誰に訊ねても、彼は優秀だったと返ってきます。だからこそ切ない」


 ヨシュアはしばらく目を閉じてから、ナプキンで口元を拭った。

 言わば同僚だったニンゲンのことを思ってか、悲げな笑みを浮かべたように見えた。


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