第299話 いよいよ国境をまたぐ段。
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ヨシュアから、ハイペリオンの地ならしが済んだという報告を受けた。
地ならし。
つらくてキツい言い方なのだが、その表現が最も的を得ているし、わかりやすい。
今日は土曜日。
謁見者が訪れるウィークデイと比べると、ずっとずっと暇なのである。
昼食後、口元をナプキンで拭いながら、スフィーダは「そろそろかのぅ」と口にした。
するとヨシュアが、「はい。そろそろでございます」と言った。
「準備は? できておるのか?」
「整っております。もはや、ブロウ・ブルース大佐の喉元が見えるにまで至りました。あとは断罪して差し上げるだけでございます」
「レオとカーニーは? それと、フォトンとヴァレリアは?」
「レオ准将以下は、いつでも最後を突きつける位置にあります。フォトン隊に関して言うと、彼らはいつでもなんでもできる戦力であり、そうであることがすべてです。常に臨機応変ですよ」
「ブロウのひとりよがりも、もはや終焉か」
スフィーダはそうつぶやく。
独裁政治、あるいは政権の終わりは、はなはだむなしいものであるように感じられる。
「ハイペリオンに入りましょう。ケリをつけましょう」
「ブロウめが命乞いを求めてきたらどうするつもりじゃ?」
「これまでの蛮行を認識させた上で連行、やはり断罪します」
「そのやり方は、あるいは傲慢と呼べるのではないのか?」
「ヒトの相手はヒトがする。ヒトの罪はヒトが罰する。それが当然だと申し上げたつもりですが?」
「ブロウには救いの道すらないのじゃな」
「とっとと片づけを済ませましょう。曙光が増援を寄越す可能性もないわけではないのですから」
「そういえば、そうじゃったな。ハイペリオンにはないはずのおもちゃがあるという話じゃったな」
「そういうことでございます」
「もはや、やむなしか」
「今だからこそ思うのです」
「なんの話じゃ?」
「ブロウ大佐はなにを求めていたのでしょうね」
「国土の拡大ではないのか?」
「それを成したところで、運用がいい加減なものであれば、そのうち、市民からも不満が噴出します」
「そうか。そう考えると――」
「はい。ブロウ大佐は、自ら破滅の道を選んだとしか判断のしようがない」
「悲しい話じゃの」
「そうも感じます。もう一度、改めて、最終確認として、答えを聞かせてもらう所存です。レオ准将が言うところの、クソガマガエルに」
スフィーダは「うむ」と答え「どうあれ見届けねばなるまい」と続けた。
「ブロウ大佐が強気に出てくれれば、助かるのですが」
「だが、やはり断ずるのじゃろう?」
「矜持を見せてもらいたいという話です」
「矜持か。聞きようによっては、厳しい言葉じゃの」
「なにが正しくて、なにが間違いで、あるいはなにが適切なのか。そういったことで迷うケースが、私にも多々ございます」
「本当か? おまえらしくもない」
「私の目標とは、なんなのでしょうね」
「恒久的な平和ではないのか?」
「著しく戦闘的な私も、またいるんですよ」
ヨシュアはそう言って、笑みを見せた。
「ハイペリオンの、一国の最期です。見届けましょう」
「わしは潔さが見たい」
「同感でございます」




