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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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287/575

第287話 エリートの妻。

       ◆◆◆


 玉座の間、

 今日も今日とて謁見の場。


 細くはあるものの体幹の強さを感じさせるおなが、赤絨毯の上を歩いてくる。

 年齢は二十五、六といったところだろうか。

 黒髪は長く、大きな瞳は紅茶色。

 黒い上下から察するに軍人なのだろうが、さすがに帯剣はしていない。


 美人さんだ。

 間違いなく。

 片膝をつく様子も、サマになっている。


おもてを上げよ」

「はっ」


 あまりにしっかりとした目を向けてくるものだから、スフィーダはあごも身も引きそうになった。


「と、とりあえず座ってくれ」

「失礼いたします」


 女子は椅子に座ると脚を揃えた。

 生真面目な感のある所作には、感銘を受けたくもなる。


「名を聞かせてもらってもよいか?」

「ファーストネームとファミリーネーム。どちらがよいでしょうか?」

「ファーストネームじゃ」

「セリカと申します」

「セリカは何用で参ったのじゃ?」

「情けない話をしに参りました」

「情けない話?」

「はい」


 苦笑じみた表情を浮かべてみせたセリカ。


「夫も軍人なんです」

「ほぉほぉ」

「なぜ、結婚を機に退役しなかったのか。そのような疑問を抱かれますよね」

「いや。そんなことは思っとらんぞ。主夫という言葉もあるくらいじゃ。連れ合いのほうが退役することだって、ナシではないはずじゃ」

「夫は中佐、私は大尉です」

「おぉ、どちらもスゴいのぅ」

「彼はいわゆるエリートなんです。士官学校も首席で卒業しました」

「ますます素晴らしいではないか」

「しかし、ここに来て、頭打ちになっていると言って、頭を抱えています」

「なぜじゃ? 若くして中佐なのじゃろう? 将軍の芽もあるではないか」

「夫は自信満々でこれまで生きてきたんです。ずっと順風満帆でした。出世だけを目標にしていました。でも……」

「でも?」

「誰よりも誉れ高い戦功を立てながらまるで出世を望まない。それってどなたであるかわかりますか?」

「うむ。まあ、いろいろあってじゃな、わしにだって、なんとなくわかるぞ」

「はい。メルドー少佐と、オーシュタハウトゥ大尉のことです」


 セリカは悲しそうに笑んだ。


「夫はメルドー少佐に嫉妬しているんです」

「そなたはそなたで、オーシュタハウトゥ大尉に嫉妬しておるのか?」


 首を横に振ってみせた、セリカ。


「オーシュタハウトゥ大尉は別格です。私は同じ階級であることを、正直、恥じています」

「同格なのじゃ。恥じることなどないはずじゃ」

「それでも、どうしようもない感情というのはあります」

「くどいようじゃが、そなたは割り切れているということじゃな?」

「はい。しかし、繰り返しになりますが、夫は苦しんでいます」


 ここでセリカは、玉座のかたわらに控えているヨシュアに目をやった。


「ヴィノー閣下。できることなら、メルドー少佐に昇進を打診していただけませんか? 自らより上の位になれば、夫の苦しみも軽減すると思うんです」

「私は彼と幼馴染みでしてね」

「それは存じ上げています。有名な話ですから」

「セリカ大尉、貴女もわかっているように、フォトンは出世になど、まるで興味がないんですよ」

「誰よりも実績を重ねているのに、本人の意思で昇格させないのはどうかと考えます」

「同様の考えを私も抱いていますが、大佐にでも任じようものなら、私はきっと、彼に殴られてしまいます。それは嫌です」

「嫌です、って……」

「貴女が理想とする夫婦像は、どういったものですか?」

「えっ?」

「貴女は自らの夫に、どうあってほしいと考えているのですか?」

「慎ましやかな生活でも、二人で支え合うことができれば幸せです」

「わかりました。セリカ大尉」

「は、はいっ」

「訓練所の広場。そこに中佐を連れてきてください」

「訓練所の広場というのは……」

「ええ。実戦を想定し、ぶつかり合う場です。一対一。タイマンです」

「閣下はいったい、どうしようとお考えなんですか?」

「さあ。どうでしょうね。ただ、すっきりとした結末を望んでいます」

「なんとなく、わかりました。でも――」

「彼は私の部下ですから、なんとでもなりますよ」


 セリカは立ち上がると、「よろしくお願いいたします」と言い、深々と立礼したのだった。


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