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第28話 ローゼンバーグ家のこせがれ。

       ◆◆◆


「いやー、中佐の俺としては、やっぱ有能な部下が欲しいんですよねー。今の部下が悪いってんじゃないですよ? っていうか、ウチの部隊、野郎ばっかなんですよね。だからそろそろ女が欲しいっていうかなんていうか。ああ、ただ女だってだけじゃあ嫌ですよ? この先、言わなくてもわかりますよね? っていうか、不公平じゃないですか? 誰のことって、メルドー少佐のことですよ。アイツ、メチャクチャ強いんでしょ? だったら、ヴァレリア大尉みたいに優秀なヒト、要らなくないですか? つまりなにが言いたいかというと、彼女、俺のところに回してくれないかな、って。いやいや、俺が無能だって言ってるわけじゃないですよ? ただ、美女には弱いっていうかなんていうか、へへっ」


 話を聞いて、当然、スフィーダは唖然となった。


 片膝をついたまま身振り手振りを交え、好き勝手なことを延々とのたまってくれた細面の男は、確かに黒い軍服をまとってはいる。


 しかし、なんと軽薄そうで、浅薄そうな男だろう。

 とてもではないが、規律を重んじる軍人とは思えない。


 男は、太っちょの中将、ウィンストン・ローゼンバーグの子息、もとい、こせがれだ。

 年齢は二十五らしい。


「っていうか、陛下って、メチャメチャかわいいですよね。近くで見ると余計にそう見えますよ。将来有望だなあ、って、陛下はずっとその姿ですよね、へへっ」


 スフィーダ、いよいよ口をぽかんと開ける。

 でも、そんなんじゃいかんと思い直し、口元を引き締めた。


「テオ、じゃったか」

「はい。テオですがなにか? なんつって、なんつって」


 ヨシュアがクスッと笑った。


「そなたはいくさの経験が豊富なのか?」

「戦場に出たことなんてないですよ。危ないの怖いし」

「なのに、中佐なのか?」

「あー、親の七光りだって言いたいんでしょう? まあ、いいですよ。事実、そうだし。でも俺、事実として中佐なんですよ? だったら、それなりの待遇を受けたっていいはずじゃないですか」

「ヴァレリアは理由もなくフォトンの部隊にいるわけではないぞ? ヴァレリアはヒトに触れるだけで心が読めて、フォトンはものを言えぬから、コンビを組ませておるのじゃぞ?」

「メルドーがしゃべれないって、それ、ホントなんですかね」

「嘘だと思っておるのか?」

「だってそんなの、本人にしかわからないじゃないですか」

「じゃが、実際、フォトンの喉には裂かれた痕があるじゃろうが。助かったのだって、奇跡的なことだったんじゃぞ?」

「それでも怪しいんですよ、俺からしたら」

「疑り深い奴じゃのぅ」

「つーか、メルドーはヴァレリア大尉に命令し放題なんですから ずるいですよ」

「どこがどうずるいのじゃ?」

「へへっ。そんなの、言わなくたってわかるでしょう? みなまで言わせるなって感じ?」


 本当に、生意気な口を利いてくれる小僧だ。


「つーわけなんで、ヴィノー閣下、いっちょお願いしますよ」

「テオよ、おまえ、いい加減に――」

「わかりました」


 スフィーダの言葉を遮って、ヨシュアがそう返事をした。

 彼女は驚き左方を向き、彼のことを見上げた。


 わかりましたもなにもない。

 ここは、この阿呆を一方的に叱りつけてやる場面ではないか。


 テオはキラキラと目を輝かせている。


「マジですか? いいんですか?」

「私から異動の指示を出します。なに。素直に従うはずですよ」

「えっ。メルドーと大尉って、そんなにドライな関係なんですか?」

「ヨ、ヨシュア!」


 スフィーダ、たまりかねてたしなめるつもりで言った。

 しかし、ヨシュアときたら、右手の人差し指を唇に当て、「しーっ」のポーズ。


 テオは「やっりぃ!」と歓喜の声を上げると立ち上がり、「じゃあ、頼みましたよ、ヴィノーさん」と言って身を翻した。

 手をひらひらと振りつつ向こうへと歩いていき、立ち去った。


「ヨシュアよ、今の対応には問題があると思うぞ」


 スフィーダは眉間にしわを寄せて、苦言を呈した。


「しかも、素直に従うじゃと? ヴァレリアは嫌がるに決まっておるではないか」


 しかし、ヨシュアは微笑んでみせた。


「叱り飛ばすことは簡単でございますが、それよりももっとひどい目に遭ってもらおうと思いまして」

「もっとひどい目? どういうことじゃ?」

「じき、わかります」


 ヨシュアはますます笑みを深めた。




       ◆◆◆


 二日と経たぬうちに、またテオが玉座の間を訪ねてきた。


 テオは赤絨毯の上を走ってきた。

 槍を携えた近衛兵の二人が慌てた様子で後ろに続く。


 立ち止まったテオは、立ったまま「ヴィノーさん、どういうことですか! なんでわざわざここに来なきゃならないんですか!?」と早口でまくし立てるように言い、「俺はあの女をはずしてくれっつっただけじゃないですか! それだけやってくれりゃいいのに、なんでまたここに呼び出したんですか!?」と続けた。


 あの女とはヴァレリアのことだろう。

 しかし、はずしてくれとはどういうことなのか。


「私に事の顛末を直接説明しないと貴方の言い分をよしとはしない。そう伝えたはずですが?」

「そ、そうですけど、だからって、こんな、恥をかかせるようなことしなくても……」


 ヨシュアが珍しく強い口調で「命令は絶対です」と言った。

 テオは気圧されたようで、身を引く素振りを見せた。


「あ、あの、俺」

「まずは礼を尽くしなさい」

「は、はいっ」


 焦ったようにして片膝をついたテオ。


 確たる根拠も理由もないのだが、スフィーダ、なんだか楽しくなってきた。


「わしから問おう。テオよ、なにがあったのじゃ?」

「えっと、その……」

「さっさと申せ」

「ヤ、ヤらせろって言って部屋に連れ込んだら、あの女、素直に言うこと聞いたんです。服脱いで、やっぱスゲー体してたけど……」

「けど?」

「あ、あの、陛下、ヴィノー閣下、もうこのへんで勘弁してもらえ――」

「話しなさい。テオ・ローゼンバーグ中佐」

「そ、そんな無情な……」

「話しなさい」

「うっ……。わ、わかりました。お、俺もすぐに服を脱ぎました。すぐにヤりたくて……。そしたら、俺のこと見て、あの女、じゃなくて、ヴァレリア大尉は大笑いしたんです。で、近づいてきて、俺の耳元で、その……」

「うむうむ。なんとささやいたのじゃ?」

「その、えっと……小さすぎて話にならない、って……」


 基本的にエッチな話題は苦手なスフィーダであるが、思わず「ぷっ」と吹き出してしまった。


「テオよ、話はそれでしまいか?」

「実は、お尻をペンペン叩かれてしまって……」

「悪いことをした子供のようにか?」

「はい……」


 スフィーダ、腹を抱えて笑った。

 ヨシュアもクスクス笑っている。


 すっかり晒し者になってしまったテオは、顔を赤くするばかりだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ヴァレリアたんかっこいいーー! 惚れますね!
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