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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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268/575

第268話 忌むべき信任。

       ◆◆◆


 玉座の間を訪れたレオ・アマルテア准将は、不機嫌な顔をしていた。

 とはいえ、所定の位置で止まり、片膝くらいはついてみせるのだが。


「レオよ、よいぞ。座ってくれ」


 そうは言ったものの、自分がゆるしを告げるべきだったのだろうかと、スフィーダは疑問に思った。

 レオは軍人なのだから、ヨシュアがゆるしを与えるべきだったのではないかと考えたのだ。


 しかし、特段変わったリアクションは見せず、レオは立ち上がった。

 椅子には座ることなく、軍服の内ポケットに右手を入れた。

 葉巻を取り出すかどうか迷ったようだが、結局、やめたようである。

 舌打ちせんばかりの表情は、ご愛嬌だ。


「して、レオよ、何用じゃ? のっけから腹を立てているように見えるが」

「そうお感じなら、そのような質問は控えていただけますか」

「な、なぬ?」

「ああ、いえ。本心がだだ漏れになってしまいました。はなはだ無礼を働いたことと存じますが、どうかご容赦ください」

「む、むぅ。そなたの振る舞いについて、無礼に感じたことはないのじゃが……」

「気に食わないことがありました」

「聞かせてほしいのじゃ」

「我が祖国の最高指導者、ブロウ・ブルース大佐についてなのですが」

「ああ。ガマガエルの話か?」

「そうです。クソガマガエルの話です」

「確かに、そなたにとってはクソガマガエルじゃったな。で、奴がどうかしたのか?」

「先日、選挙が行われました」

「選挙?」

「はい。独裁を敷いておきながら民主主義をうたって、選挙くらいはするんですよ」

「それで?」

「民主主義をうたっているというだけですから、はなっから結果は見えている。左派、あるいはリベラル。そういった甘ったるいことを抜かすやからに出番なんてない」

「極右の保守というわけじゃな」

「それもどうだか。あのクソガマガエルは我が身大事というだけだ。負けたら裁かれるのはわかっている。だから権力にしがみつくことに必死なんですよ」

「ふむ。なるほどの。どうあれ、そなたの言うクソガマガエルが国民の信任を得たように見えるから、それが気に食わんというわけか」


 肯定の返事、「はい」と述べてから、レオは鮮やかなまでに青い前髪を掻き上げた。


「潰したいんですよ、一刻も早く。ヴィノー閣下に問いたい。今のハイペリオンに、なんの価値が?」


 するとヨシュアは毅然とした口調で「私は今のハイペリオンしか知りません」と答えた。


「ああ、そうか。まあ、そうですね。確かに私も、今のハイペリオンしか知らない」

「ブルース大佐の政権は長く続いていますからね。元のハイペリオンはどうだったのか。それは歴史で習う程度です」


 レオは「……ふっ」と少しだけ、表情を柔らかくした。


「彼らとは、いつ揉めるおつもりですか?」

「ですからレオ准将、相手が吹っ掛けてこなういちは、沈黙を保ちます」

「いかにも手ぬるい」

「今、攻め入れば、国際的な非難に晒されるのは我々のほうです」

「だから、それはわかっているんですよ。ああ、閣下、葉巻を吸っても?」

「陛下の御前です。控えなさい」

「そうやって、貴方はときどき、私の言動に釘を刺される」

「貴女が我が国に亡命したのは、相応の覚悟があってのことなのでしょう?」

「それでもね、閣下、私は祖国で失った部下のことを忘れたことはないんですよ。失ってしまった友人のことも、忘れたことがない」

「だからといって、貴女の理想と我が国の方針とを照らし合わせることはしません」

「貴方は冷たいニンゲンだ。だが、それが正しい。私は従いますよ、閣下殿」

「力を蓄えておきなさい。先方は必ず馬鹿な真似をしでかします。世界の趨勢、あるいは私達の力に怯えるしかなくなってしまう。私が知るブルース大佐は、そういう男です」

「任務に戻ります。警戒を続けます」

「そうしていただけますか。レオ准将、貴女は閑職だと考えていたりするかもしれませんが、精を出してください。ところで、今回の報告に際し、正規のルートを使ったのですか?」

「申し訳ありません。カーニーの移送法陣で参りました」

「そのカーニー少尉は、今、どこに?」

「新しいキャスケットが欲しいと言って、帽子屋に行きました。やはり、耳を晒すことには抵抗があるようです」

「自衛の手段としてのキャスケットというわけですね」

「カーニーを拾って帰ります。最後に、ヴィノー閣下」

「なんでしょう?」

「お気づきですか? どうやら貴方は人たらしであるようだ」

「褒め言葉ですか?」

「でなければ、申し上げていない」


 なんの断りもなく、なんの迷いも感じさせないまま、レオは懐から葉巻を取り出した。

 指先に灯した魔法の炎を使って、その先端に火を灯した。

 先ほど「やめろ」と言われたのに、なんという豪胆さだろう。


「ブロウ・ブルースは私が屠ります。この手で、間違いなく、確実に」

「そうしていただくことについては、やぶさかではありませんよ」

「私は復讐のために生きている。復讐するために生きている」


 ヴィノー閣下、清廉潔白な貴方に私の気持ちはわかりませんよ。


 そう述べると、レオは颯爽と身を翻した。


 どんな意図があってのことだろう、どんな思いがあってのことだろう。


 大扉へと向かう最中、レオは肩を揺らして、大きな笑い声を上げたのだった。


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