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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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254/575

第254話 嫉妬の閾値。

       ◆◆◆


 奇跡的な場所、そしてタイミングだ。


 移送法陣で飛んだ先、目の前の宙に、ヴァレリアが浮かんでいた。

 彼女が振り返りつつ、「少佐ぁっ!」と大声を発したところだった。


 地に目を向ければ、どこもかしこもがれきの山。

 復興はこれからだ。

 そんなこと、見ればわかる。


 直下は死体ばかり。

 フォトン、あるいはヴァレリアに屠られた、グスタフにルーツを持つ兵士ではないか。

 派手に殺されたことだけは確実だ。


 スフィーダらに気づいていないはずはないのだが、ヴァレリアは宙を蹴り、あっという間にびゅんと加速した。


 目のいいスフィーダにはよく見える。

 恐らく敵勢力だろう。

 フォトンが彼らに真正面から襲い掛からんとしている。


 フォトンが負けるわけがない。

 そんなことわかりきっている。

 だが、ヴァレリアは心配で、あとを追ったのだ。


 かくいうスフィーダもそうだ。

 勇敢すぎるフォトンの姿を目の前にすると、あっという間に不安になる。

 

 なにをも恐れぬ無鉄砲さは、いつか命取りになってしまうのではないか。

 そう考えると、途端に気が気でなくなってしまう。


「待ちましょう。そのうち帰ってきますよ」


 ヨシュアにそう諭されても、いくらでも気を揉みたくなってしまう。


 フォトンが突っ込んでいった敵襲の直前にまで、ヴァレリアは至った。

 しかし、彼女が介入する間も余地もなく、彼は敵という敵を斬り捨てた。


 自らにしか扱えない大剣を背の鞘に納め、フォトンが戻ってくる。

 彼のあとに、ヴァレリアもついてくる。


 スフィーダはやれやれと吐息を漏らしつつ、腰に手をやった。


 どうあれ怪物殿は、今日も健在だ。




       ◆◆◆


 玉座のそばに設けさせたテーブルにて。

 夕食である。


 スフィーダの左隣にはヨシュアがいる。

 彼女の正面にはヴァレリアがいて、はす向かいにはフォトンの姿がある。


 今日はヒトをたくさん葬っただろうに、二人とも平然としている。

 多くの敵を肉塊に変えただろうに、何事もなかったかのように、牛のフィレ肉を丁寧に切り分け、食している。


 まあ、慣れてきたらそんなものなのだろうなと、スフィーダは思う。

 彼女自身にそういった経験がないかというと、そうでもないからだ。

 いつの時代にも、貧乏くじを引くことをよしとしたり、自ら泥をかぶろうという者は必ずいる。


 それにしても、ヴァレリアには恐れ入る。


 熊のような巨躯を誇るフォトンと並んでも、確かな存在感を醸し出しているからだ。

 あるいは、大女などと評価するニンゲンもいるかもしれないが……いや、そんなことはあり得ないだろう。

 ヴァレリアほど蠱惑的で魅力的な女性は、この世にいるはずもない。


 といっても、女の部分で負けるわけにはいかないのだが。


「今日はいい日でございました」

「ヴァレリアよ、なにがじゃ?」

「ヴァーミリオンズをはじめ、多くの残党を地獄へと突き落とすことができました。局所的な戦闘ではありましたが、手応えがまったくなかったかというと、そういうわけでもありません。少佐は相手を食うことに終始した。私はそのお手伝いをした。満足でございます」


 なんとも危なっかしい感想のように聞こえてしょうがないが、二人が心ゆくまで戦えたのであれば、その気持ちは尊重すべきなのかもしれない。

 

 フォトンは戦士、彼の部隊で二番手を務めるヴァレリアも戦士。

 そういうことなのだ。


 皿を手にしたフォトン。

 それを手に、首を後ろに回した。


「もっと肉を持ってこい」


 そういうことだろう。


 勇気のある侍女が、皿を受け取った。

 彼女が「お、おかわりです!」と高い声を発すると、食事の様子を見守っていた料理長が、ただちに駆けてきた。


 その料理長ときたら、謝罪しまくるのだ。


「メルドー様、申し訳ございません、申し訳ございません! おかわりのステーキはすぐにお持ちいたしますので!!」


 まったく表情を変えないフォトンである。


 そう大げさなことでもないので、スフィーダは「気にせんでよい。ゆっくりでよいぞ」と声を発した。


「本当に、ゆっくりでいい」


 ヴァレリアもそう言ったのだ。


 実際、フォトンは急いでいないのだろう。

 ただ、もう少し、あるいはもっと食べたいというだけだ。

 まあ、限りを設けなければ、牛一頭でも食べてしまいそうな男ではあるが。


 フォトンに侍女に料理長。

 彼らの一連の動きが愉快に感じられて、スフィーダは笑った。


「フォトンよ、待ちきれんじゃろう。わしのをやるぞ?」


 肉にフォークをぶっ刺すとスフィーダは右手を伸ばし、「あーん」と言いつつ、フォトンに口を開けるよう促した。

 彼は大きな口で食いついた。

 釣り堀の魚みたいに勢いよく。


「妬けます、陛下。おやめください」


 ヴァレリアはそう言うと、微笑んでみせた。


「ざまあみろ、なんて言ったら怒るか?」

「怒りはしません。ただ」

「ただ?」

「やはり、ただただ妬けます」


 ヴァレリアは穏やかに笑んだ。

 背筋がぞくりとするくらい、色っぽい微笑みだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] スフィーダとヴァレリアの関係って、少し不思議で、でも素敵ですよね。 お互いが認めあっていることが、読んでいるとよく分かります。 [一言] 実はスフィーダとヴァレリアのペアが好きだったりし…
[一言] ああ、あのときヨシュアはいなかったのか~、残念! そして殲滅が任務だったんですね。 変な感想かもしれませんが、ちょっと安心しました。
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