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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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250/575

第250話 捻じ曲がりの果て。

       ◆◆◆


 まだ若いに違いない男は玉座の間に入ってくるなり、右の手のひらを見せながら近づいてきた。


 スフィーダは玉座の上で動かない。

 左の肘掛けを使って頬杖をついたまま、男のことを睨みつける。


「どういうことじゃ?」

「どうもこうもない」

「じゃったら、なにがあった?」

「勘のよさを感じさせる質問だ」

「無駄な世辞は要らん。申してみよ」

「言ったところで、クソの役にも立たねーさ」

「それはわしが判断する。言ってみろ」

「恋人が死んだ。殺されたんだ」

「……ほぅ」

「ここに来る前、直前に、ソイツのことを殺してやった。雷で丸焦げだ。ざまあみろだ」

「雷を操れるのか。相当な使い手じゃの」

「だろう? だけど、恋人は……クリスタは戻ってこないんだ……っ」

「話を戻すぞ」

「戻す? 女王様ぁ、アンタはなにを偉そうにそんなことを言って――」

「戻すと言った」

「……言ってみろよ」

「そなたの恋人は、どうして殺されたのじゃ?」

「薄気味悪い恋心の行き着いた先だったんだ。それ以外に考えられるかよ」

「美人じゃったのか?」

「だから、そんな質問に答えることになんの意味が――」

「美人だったのじゃろう?」

「それは、違わない……」


 男は鼻から息を漏らした。

 そのおかげで、張りつめていた緊張感が幾分ほぐれた。

 素直に話そうと思ってくれたらしい。

 利口だし、また賢明だと言える。


 だがしかし、右の手のひらを向けてくることをやめないわけで。

 それすなわち、いつでも魔法を使ってやるぞという意思表示であるわけで。


「名は?」

「トレインだ」

「じゃったらトレインよ、そなたはわしのなにを食いちぎらんとしておるのじゃ?」

「わからないな、そんなこと。とにかく俺がこの国に対して憎しみを抱いていることだけは間違いない。その結果としての行動さ。女王陛下なのに、守ってくれなかった。アンタはクリスタのことを、守ってくれなかった……っ」


 言い返してやりたいことは山ほどある。

 しかし、そのへんをつらつらと並べ立てるのは違う気がした。


「仮にわしが守ってやれんかったとして、じゃったらそなたはどうするつもりなのじゃ?」

「そんなの言うまでもないだろう? 俺がなんのためにアンタに手を向けてると思ってるんだよ」

「殺したいのか?」

「ああ、そうさ。とにかくアンタを殺してやってから、話は始まるんだ」


 支離滅裂で、問答するに値しない。

 それでも、男の気が済むまで相手をしてやる必要がある。


「わしを殺せば気が済むのか?」

「ああ。ああ、きっとそうだ。そうなるんだ」

「まあ聞け」

「なにをだよ」

「問いたい。自分を生んだ世界のことを呪い、恨むのか?」

「……ぐっ」

「手を引け。そしたら、わしもきちんと話を聞いてやる」

「かわいい女のコだったんだ」

「じゃろうな」

「嘘じゃない」

「じゃから、否定などせん」

「殺されたって事実だけが首をもたげてくる」

「気持ちはわかる」

「女王陛下のくせに、そんなことしか言えないのか?」

「女王陛下のくせに、わしは無能なのじゃ」

「そんなわけ――」

「そんなわけ、あるのじゃ。悔しいぞ、トレインよ。わしは我が国に住まう我が子らのことを、理不尽な手により失いたくはないのじゃからの」

「この期に及んで綺麗事かよ」

「そのあたりは、そなたが好きなように解釈してくれていい」

「クリスタは……かわいかったんだ」

「うむ」

「綺麗だったんだ」

「うむ」

「なのに、馬鹿に殺されたんだっ」

「うむ」

「結局のところ、俺は……俺はなにもしてやれなかった……っ」


 つらい経緯を一通り聞かされたスフィーダの口元には、苦笑いが浮かんだ。


「馬鹿は馬鹿じゃ。馬鹿と断じろ。それ以外の評価は要らぬ」

「だったとしても――」

「とにかく憎むな。恨むな。この世界のことを」

「それはアンタが特別だから言えることなんじゃないのか?」

「特別だとしても、特別なことを言っているつもりはない。耳を開けろ。まぶたを閉ざすな。後ずさるにしても、前だけは向いていろ」

「簡単に言うんだな……」

「性善説を説いている自覚はある。じゃが、わしはその逆を述べたくはない」


 男はようやっと、右手を引いた。

 その手で前髪を掻き上げてみせた。


「本当に、とんでもない八つ当たりのつもりで、アンタを殺してやろうと思ってた。だけど、もういいや。アンタってスゴいんだな……」

「今一度、言う。悲しみのほうが大きいのかもしれん。じゃが、そなたに喜びをもたらしたのもまた、この世界なのじゃ」

「ああ、わかった、努力する。前向きに暮らしてやろうって努力する」

「生きろ。そなたにふさわしいおなが、また現れるかもしれん」

「そんなこと、本気で考えているのか? だったとしたら、バーカだ。ヒトのヒトに対する想いを、そこまで軽んじてほしくない」

「んなこと、はなからわかっておる。何度も言わせるな。わしはただ、綺麗事をほざいておるだけじゃ」

「その綺麗事とやらが、気に食わないんだよな」

「じゃったら謝る。ごめんなさいなのじゃ」

「アンタに頭を下げさせたニンゲンが、この世には何人いるんだろうな……」


 ヨシュアがこのタイミングで「トレインさん」と呼び掛けた。


「なんだよ、大将閣下殿」

「貴方の言動はいささか無礼に響きます。すまないと反省しているのであれば、謝罪してください。陛下がなにか間違ったことをおっしゃったなら、私は容赦なくツッコミを入れます。しかし、今回はそういうわけではない」

「怖い顔するなよ」

「速やかに謝罪してください」


 トレインは素直に「ごめん、悪かった……」と謝った。

 あるいはそれは、ヨシュアの静謐であり雄弁な迫力が成したことなのかもしれないが。


「警察はすべてを明るみに出して、事の解決を図るでしょう。トレインさん、貴方が心配する必要は、もはやないんですよ。後悔の念は消えないとしても」

「一つ注文がある。ヴィノー様。アンタが音頭をとってくれないか? だったら、俺も信用できる」

「それほどまでに、我が国の警察は信用なりませんか?」

「そうは言っていない。でも……」

「やりましょう。特別です。私のコネクションを使います」

「悪いとは思ってる……」

「かまいませんよ。結果は後日、お伝えします」


 二人のやり取りを見ているうちに、スフィーダは優しい気持ちになった。


 スフィーダはもう一度、言う。


「自らを生んだ世界のことを、憎むな、恨むな。誰もしもが祝福されて生まれてきたのじゃ。だからこそ、すべてのヒトに幸せを掴む権利があるのじゃ。格好をつけた。その点はすまん」

「女王陛下が尊いってことは、嫌というほどわかったよ」

「そうか?」

「そう感じてる」

「なによりじゃ」

「アンタに魔法を放とうとした。罰してくれたって、かまわないんだぜ?」

「そのつもりはないと、言い続けているつもりじゃが?」

「……帰るよ。復讐は、もうやめる。誰もそんなことは望んでいない。それはわかっていたんだ、本当に……」

「その判断に感謝する」

「ああ。俺もアンタに……スフィーダ様に感謝します。ありがとうございました。失礼をしました。本当に申し訳ありませんでした」


 そう言って、トレインは綺麗に立礼した。


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