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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第248話 妹のために。

       ◆◆◆


 夕刻。


 椅子の上には短髪の少年の姿、名はリクス、十五歳だという。

 クリーム色のTシャツに同色のズボンという粗末な身なり。

 そして、金属製の手錠。


 一方、玉座の上のスフィーダ。

 話の切り口を探るものの、のっけの言葉をいまいち決めかねている。

 だから腕を組み組み、顎に右手をやり、いまだ無言のままでいる。


 リクスがぽんと「スフィーダ様」と呼び掛けてきた。

 変声期前を思わせる高く澄んだ響き。

 端正な顔立ちに似つかわしい声だと感じられた。


 スフィーダは「なんじゃ?」と問うた。

 リクスはうきうきした様子で「俺が何人殺したと思います?」と逆に訊ねてきたのだった。


「囚人なのはわかる。じゃが、殺しだとは思わなかった」

「イイ奴に見えたりしますか?」

「悪い奴には見えぬ」


 リクスは右の手のひらを見せてきた。


「ちょうど五人です。男子ばかり五人、殺しました」


 スフィーダの表情は必然的に悲しみに満ちて。


「どうして、そのような真似をした?」

「五人は五人とも、俺より二つ下です。そして連中は仲良しだった」

「なぜ殺したのかと訊いておる」

「俺には二歳年下の妹がいました」

「……いました?」

「そうです。過去形なんです」


 苦笑のような表情を浮かべたリクス。


「妹は死んだんです。ナイフで自分の首を傷つけて」

「そうなるに至った経緯を教えてもらいたい」

「あれ? もうほとんど話したつもりなんですけれど?」

「そなたの妹……名は?」

「リンです」


 しばしのときを経てから、スフィーダは「……残念じゃったの」とだけ述べた。

 するとリクスは「あははははははっ!」と大爆笑して。


「残念の一言で済みますか? 済むわけありませんよねぇ? あはははははははっ!」

「あまり、先は聞きたくない」

「もういいですよ。はっきりさせます。俺の妹はねぇ、リンはねぇ、マワされたんですよ。だったら、だったら、ソイツらのこと、フツウは殺してやりますよねぇ?」

「そうすることで、妹が、リンが、救われるとでも思ったのか?」

「なにもしないよりはマシだと思いましたぁ」

「そうか……」


 リクスは両手を持ち上げ、ひたいに手錠を押し当て、「俺はなにも間違っていないと思うんだけど……」と、つぶやき、目を閉じた。


「ヒトを殺すことを正当化すれば、この世は終わってしまう。リクスよ、違うか?」

「正当化しようだなんて思っていません。ただ、俺の起こした行動は、やっぱり間違いじゃないんだって思います」

「……悲しい思考じゃ」

「でも、俺は俺が殺した奴らの家族に謝るつもりはないですよ」

「じゃったら――」

「そうですよ。こんな俺でも、いえ、こんな俺だからこそ、きちっと裁けばいい。だけど、この国においては少年法というものが働いて、だから俺は死刑になったりはしないんです。そのうち、また外の空気を吸うことになるんです」

「問題提起をしておるのじゃな?」

「そんなつもりはないですよ。事実だけをお知らせしました」

「そなたは処罰されることで死にたいのか?」

「その考え、どこか間違ってますか?」

「改めてになるが、リンの魂を救うためにやったこということは、痛いほどよくわかる」

「繰り返します。奴らを殺したことについてはなんの後悔もありません。でも、でも……そうですよ、スフィーダ様。俺は俺を裁いてほしい。死刑というかたちで裁いてほしい」

「そなたは身勝手な理由で他者を裁いた。殺すというかたちで裁いた。そんな自分が裁きを受けることも、また当たり前だと考えている」


 リクスはまた目を閉じると、俯いた。


「だから、俺は俺を裁いてほしいんだよ……」

「わしもそれが正しいことだと思う」

「妹はメチャクチャかわいかったんです。お兄ちゃん、お兄ちゃんって言って、いつも俺を頼ってた」

「……うむ」

「これは、ヴィノー様に言ったほうがいいのかな?」


 ヨシュアが「なんでしょう?」と訊いた。

 相変わらず、彼の口調は淡々としている。


「お願いです。少年法を見直してください。厳しいものへと変えてください」

「そうすれば、犯罪は未然に防げると?」

「そうです。その上で、俺みたいな犯罪者を殺せるようにしてください」

「それは私にする話でもありませんね」

「やっぱり、そうですか?」

「ええ。セラー首相に訴えるべきかと思います」

「だけど、俺にはそんなこと、できっこないから」

「リクス、貴方に一つだけ伝えたい」

「それって、なんですか?」

「貴方の立場にあったら、私も同様のことをしたように思います」

「慰めですか?」

「だったら、いいですね」


 リクスは椅子から滑り落ちるようにして、赤絨毯の上に膝をついた。


「なにをしたところで、妹は戻ってこない。返してもらえない。だから俺は、死にたいんだ……っ」


 涙声のリクス。


「死刑にしてくれよ。お願いだから」

「貴方のようなニンゲンを守るために、少年法はあるんですよ」

「守られたくないって言ってるんだっ」

「立ち上がりなさい、リクス。立って現実と向き合いなさい」

「言うほうは簡単だよな」

「ええ。その通りです。その旨、知っていながら、あえて言っています」

「……わかったよ。わかったから」

「納得していただけたなら幸いです」

「スフィーダ様、それにヴィノー様。二人に会いに来たのは失敗だった」

「前向きになってしまったからですか?」

「そこまでは言わない。俺は地獄の鬼に足を引っ張ってもらいたいんだから」

「生きなさい」

「今度は命令ですか?」

「命令です」

「……わかった。そうして、みます」


 リクスは自らの足で、しっかりと立ち上がった。


「どうしてもつらくなったら、また来ると思う。それでもいいかな?」

「かまいませんよ。だから金輪際、死にたいなどとは考えないように」


 意外と気持ちよくきびすを返したリクス。

 少年法の問題点、あるいは穴を指摘してみせた彼のことは、尊重しなければならないのかもしれない。


 リクスとリン。

 もはやつながることのできない関係だが、それでも幸あれと思うのだ。


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