第244話 不死者らの扱い。
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「くだんの見えざる島についてですが、ダークロードが死んだことにより、ヴェールが剥がれたわけです。近隣に住むニンゲンは、島がいきなり浮上してきた、あるいは島が異世界から転移してきた等、諸説をうたって、ざわついているようでございます」
夕食後のティータイムにヨシュアがもたらした情報はそれだった。
「結局、見えるようになった見えざる島は、どうなるのじゃ?」
「曙光が直轄地とするようです」
「まさかそうした上で、骸骨の兵をあちこちに寄越すのではあるまいな」
「具体的にどう扱うかは不明ですが、彼らに寿命はないわけです。徹底管理の上、貴重な戦力として、住まわせたままにしておくのかもしれませんね」
「そのへん、曙光はちゃっかりしておるのぅ。たとえばネフェルティティじゃったら、醜いの一言で焼き尽くしてしまうことじゃろうに」
「案外、名より実を取るかもしれませんよ?」
「それならそれでよい。まずは我が国を守ることが大事じゃろう?」
「その通りでございます。それにしても、得体も底も知れませんね。やはり曙光は脅威です」
「じゃな。かの国の、ダインの考えは、まるっきりわからん」
優雅に紅茶をすすったヨシュア。
「ダークロードの一件、彼のせいで亡くなった人々には本当に申し訳ないのですが、私は少々楽しんでしまいました」
「強者の物言いじゃの。おまえの敵となれる者は多くない。だからこそ、高揚感のようなものが得られたのじゃろう」
スフィーダもカップに口をつける。
「先のオベリスクと同じく、ダークロードもまた、寂しく、悲しい王だったのかもしれませんね」
「わかり合える者などおらんかったことは事実じゃろう。仮に奴と友人になれる可能性があった存在を挙げるとするなら、それはわしのような人外じゃ。気持ちはわかるのじゃ。孤独であるがゆえに、他者を傷つけることで、自らの意義と立場を確立しようとする」
「合点がいく話でございます。ところで陛下。なにかお忘れではありませんか?」
「なんのことじゃ? わしがなにを忘れておるというのじゃ?」
「フォトンのことですよ」
そう聞かされ、はっとなった。
途端に気が気でなくなるスフィーダである。
ダークロードの渾身の一撃を体一つで食い止めてみせたわけだ。
戦闘後、服はぼろぼろながらも平然としているように見えたが、実は重傷だったのだろうか……?
「ヤ、ヤバいのか? 病床でうんうん唸っておるのか? それとももう死にそうだったりするのか?」
スフィーダの目にはじわりと涙が浮かぶ。
すると、ヨシュアはぺろっと舌を出してみせて。
「冗談でございます。今朝方、なんの問題もなく任務に戻りましたよ」
スフィーダは目を吊り上げ、ぷんすか怒る。
「悪い冗談じゃ。次にやったらゆるさんからな」
「承知いたしました」
◆◆◆
プールサイドには柵がない。
だから、基本的に侍女の出入りは禁止にしている。
そんな不自由をこうむるくらいなら柵を設けろという話なのだが、あいにく、開放的な造りであることを、スフィーダはことのほか気に入っている。
ドレス姿でプールサイドの端に立ち、夜風を浴びる。
いい風だ。
ちょうどいい具合にぬるい。
眠くなるまで突っ立っていようと思った矢先に、隣にヒトが並んだ。
突然のことだったので、スフィーダの肩はビクッと揺れた。
ヴァレリアだった。
今夜の衣装もいつも通り、魅惑的なもの。
黒の魔法衣姿ではあるものの、スリットは大胆に腰にまで至っており、長く肉感的な脚は、黒いレースストッキングに包まれている。
著しく豊かな胸のふくらみは隠しようがない。
美しいブラウンの長髪。
蠱惑的な流し目。
ヴァレリアは口元に笑みをたたえたまま、「ご無沙汰しております」と挨拶の言葉を寄越したのだった。
「ヴァレリアよ、気配を消して近づくのはよせ。びっくりするじゃろうが」
「びっくりさせようと考え、訪れたのです。目的は達成しました」
「どこまで本気なのか、どこからが冗談なのか、図りかねるぞ。して、フォトンはどうした? 元の仕事、北の任に戻ったという話じゃったが」
「はい。とっとと帰ってきました」
「やはり移送法陣を使ったのか」
「少佐はせっかちです。その上、めんどくさがりでございますから。かく言う私も、ここに来るにあたって使用したわけですが」
「今宵も抱かれるのか?」
「その予定です。少佐が気乗りすればという条件はつきますが。というか、陛下」
「なんじゃ?」
「最近は色気のある話を平然と持ち出されるようになったのですね」
「恥ずかしいときもある。だが、今は気分がよいのじゃ」
スフィーダは両手を広げた。
改めて、風に身を晒す。
「とはいえ、ときに考える」
「なにをでございますか?」
「肉体的なつながりがあってこそ、本当の絆が生まれるのやもしれん」
「お言葉ですが、陛下、私はそうは思いません」
「ほぅ。どうしてじゃ?」
「私からすると、少佐は少し遠く感じられます。だからこそ、触れ合っていないと不安なのでございます」
「互いに不自由な身じゃのぅ」
「本当に、その通りでございます」
スフィーダは夜空を見上げ、フォトンという稀有な存在に思いを馳せる。
「フォトンめは、今頃、どうしておるかのぅ」
「寝ていることだろうと予測します」
「じゃな」
欲求に素直なフォトンのことだ。
暇を持て余すくらいなら、眠っていることだろう。
深く深く、眠っていることだろう。




