第239話 骸骨兵、各地に強襲。
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どこからともなく現れた、骨だけでできた兵が突っ込んでくるわけだ。
攻め入られたほうは、当然、面食らうだろうし恐れもするだろう。
魔法を使える骸骨もいるものだから、余計に怖気づいてしまう。
無理もない話なのだが。
骸骨の兵はじゃんじゃん湧いて出てくるらしい。
そんなことができるからくり。
そのあたりについてはダークロードを問いただすしかないのだが、そんな真似、有意義だとは思えない。
目の前の事象に集中し、対応する。
各国はまずそうすべきだ。
裏を返せば、そうすることしかできないだろう。
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世界の有事だ。
休日とはいえ、プールで遊ぶのはさすがに気が引ける。
といっても、急ぎでなにかする必要があるわけもないので、スフィーダはヨシュアの私室にお邪魔していた。
ヨシュアは椅子に座り、小説を読んでいる。
一方のスフィーダはベッドの端に座り、脚をぷらぷらさせている。
あまりに暇なので、「のぅ、ヨシュアよ」と読書の邪魔をしてやった。
「はい?」
文字を追うことをやめ、顔を上げたヨシュア。
「骸骨兵の話じゃ。困っている国はないのか?」
「同盟国からその声は上がっていません。ただ、やはり骨だけの敵には驚いているようです」
「骸骨。奴らが際限なく湧く点は、先の緑の魔物と同じじゃな」
「不死者の島を訪れたとき、多くの飛空艇が停泊しているのを目にしました」
「そうじゃったな」
「場違いな工芸品とされる飛空艇ですが、かの島においては、それが大量に発掘されたようですね。だからこそ、連続的な派兵が可能となっている」
「まずは飛空艇を落とせという話じゃな?」
「しかし、それもなかなか難しいようでございますね」
「いまだダークロードの手の内か……」
「陛下は彼とやり合ったことがあるような物言いをされていましたね」
「遠い昔の話じゃ。奴自身が手を下す格好で、この地を攻め取ろうとしたことがあっての。そこにわしが立ち塞がったわけじゃ。一対一でやりたいという話じゃった。その際、案内された、いや、案内させた先が、不死者の島だったというわけじゃ」
「そのときに討っていれば、また話は違ったのでしょう」
「命乞いをされたら殺していたかもしれん」
「彼はそれをしなかったと?」
「負けを認めたことについて、潔いと思った。じゃから、命までは奪わんかった」
部屋の中を淡く照らしていたランプの灯が、前触れなく消えた。
指先に発生させた炎にて、再点火したヨシュアである。
「私なら迷うことなく殺したでしょうね」
「そうか?」
「世界を脅かす因子となりかねない存在。どこに生かしておく理由が?」
「相手の外見が禍々しいことから、おまえはそう考えるのではないのか?」
「否定はできません」
「じゃろう? 見た目で判断してはいかんぞ」
「しかし、見た目に見合う悪さを働こうとしているではありませんか」
「そう言われると、ぐうの音も出んな」
「親分であるダークロードの存在については、世界に知らせるべきことでもありませんね」
「同感じゃ。知らんうちは知らんでよいと考える」
「となると、さて」
「さて?」
「現在、我が軍は北東、あらゆる敵から旧グスタフの領土を守護すべく防衛隊を送っているわけですが」
「それがどうかしたか?」
「そちらにフォトンを回そうと思います」
「ふむ。防御をさらに手厚くしようというわけか」
「相手が来るようなことがあれば、問答無用で叩き潰す。適任でしょう」
「フォトンとヴァレリアからすれば、以前の部隊が失われたのは、本当に無念だったのじゃろうな」
「その点は間違いないのでしょうが、まだまだ甘く、弱いということを再確認させられたのだとも思います」
「だからこそ、厳しい人選をした?」
「当然のことでございましょう?」
「いつも言っておることじゃが、おまえは客観的すぎるぞ。とはいえ、大将閣下ともなると、ある程度、割り切る力も必要か」
スフィーダは「じゃが、フォトンらは遊撃隊ではなかったのか?」と問い掛けた。
すると、ヨシュアからは「まさに臨機応変に動かすということでございますよ」との答えが返ってきた。
「そういうことなら、文句は垂れん」
「陛下に文句を言われたところで、私の考えは変わりませんが」
「む。それは少し言いすぎじゃと思うぞ」
「ぷんすか怒らないでくださいませ」
「ぷんすかなどしておらん」
「しています」
「しておらんっ」
「落ち着いていただけますか?」
「わかった。落ち着こう……」
スフィーダは、はあと吐息をついた。
「骸骨の件については、人海戦術でなんとかすることもできなくはないのでしょうが」
「それは悪手じゃ。多くの兵が死ぬことになる」
「不死者の島を覆っている、言わばヴェール。それを引っぺがさないことには話になりませんね。そのためには、ダークロードの気を逸らすような展開に持ち込む必要がある」
「乗り込んでやってもいい。なにせわしは不死者の島を移送先としてメモっておるのじゃからの」
「陛下の力をお借りすることは、ベストとは言えません」
「じゃから、そんなことは気にするなと言いたいのじゃ」
「実績を残したいのです」
「実績?」
「はい。陛下にばかり、頼ってばかりはいられませんので」
「そう言われると、なんだか寂しさを覚えるのじゃが?」
「陛下は切り札だと申し上げました」
「繰り返しになるが、切るにあたってためらう必要はない」
「だとしても、温存させてくださいませ」
「おまえは優しすぎるのじゃ」
「そのようなことは、ないと思いますが」




