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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第231話 真っ赤な小僧は大人になった?

       ◆◆◆


 白いビキニ姿のスフィーダは、プールサイドに腰掛けている。

 彼女の隣には、同じく白いビキニをまとったルナがいる。


 先ほどから二人揃ってニコニコ笑い、「にゃー、にゃー」と謎めいた声を発しながら、脚を使って水を蹴り上げているのである。


 ルナ。

 うら若き乙女なのだが、褐色のその体は、本当に大きい。

 そのへんの男よりずっとがっちりしていて、太ももなんかもかなり太い。

 とにかく筋肉質、ムキムキなのだ。


 これがハイペリオンの超人研究所とやらの育成結果なのだとすると諸手を上げて喜ぶわけにはいかないものの、筋肉大好きなスフィーダからすると、ルナの体は魅力たっぷりなのである。


「のぅ、ルナよ」

「はい、女王様、なんですか?」

「らしくしゃべってくれてよいぞ」

「だったら……うん、なんですかにゃ? 女王様」

「わしも長く生きておるが、そなたのような筋肉の鎧をまとったおなと出会ったのは初めてのことじゃ」

「は、はうぅ……」

「ど、どうした? な、なぜ頭を抱えるのじゃ?」

「私は女のコっぽくないのにゃあ」

「どこかでそう言われたのか?」

「女のコ用の服はどれもサイズが合わないのにゃあ」

「む、むぅ。それはそうかもしれんのぅ」

「だから、わざわざあつらえてもらう事態になっているのにゃ。申し訳ないにゃあぁ……」

「仕立屋に来てもらったのか?」

「はいですにゃあぁ……」

「まあ、よいではないか。ムキムキは正義じゃ」

「そのムキムキが嫌なのにゃあ。だけど、今でも筋トレしちゃうのにゃあ」


 スフィーダ、ルナの二の腕をぺたぺたと触る。

 間違いない。

 フォトンの次に、太くて硬い。


「でもですにゃ女王様、ご主人様がヨシュア様だからこそ、助かっている部分もあるのにゃ」

「ほぅ。そうなのか?」


 すると、ルナは「んにゃ」と頷いて。


「ヨシュア様は私よりも背が高いにゃ、肩幅もあるにゃ。大きいにゃ。だから、ヨシュア様と一緒なら、お買い物もお散歩も恥ずかしくないのにゃ」

「それはなによりじゃ。よかったのぅ」

「よかったとばかりは、言えないのにゃ」

「そうなのか?」

「そうなのですにゃ……」


 がっくりと首をもたげたルナである。


「今はヨシュアやクロエのために生きようとしておるのじゃろう? それって立派な志じゃと思うぞ?」

「そう思うのなら、頭を撫でるのにゃ」

「偉そうな、奴じゃ」


 スフィーダ、ルナの肩口に「コイツめ、コイツめっ」とパンチを浴びせる。


 そんな折のことだった。


「スフィーダ様あぁ」


 間延びした声が、後ろから聞こえた。

 男のそれではあるものの、ハイトーンボイスだ。


 振り返ると、カーキ色のズボンのポケットに手を突っ込んだまま歩いてくるケイオス・タールの姿があった。

 真っ赤な髪に真っ赤な瞳の、言ってみればイケメンである。

 ちっちゃいのに強いところが女の心をくすぐるのだと、以前、ヨシュアに説かれた覚えがある


 スフィーダ、特段の理由がない限りは、肌を晒すことについて恥ずかしさを覚えない。

 だからケイオスにも、「よっ」ってな具合に右手を上げてみせた。

 続いて立ち上がり、両手を広げて彼に襲い掛かる。

 びしょ濡れにしてやろうという算段だ。


 案の定、ケイオスは「ひゃー」と逃げ回ってくれたので、スフィーダはたいへん満足した。


 大きな白いパラソルの下に、白いテーブルがある、白い椅子も二脚ある。

 そのうちの一脚に腰を下ろしたケイオス。

 らしくもなく、彼はしょんぼりと表情を沈め、「はあぁ……」と溜息なんかついたのだった。


 スフィーダ、ケイオスの向かいの席につく。

 四つん這いで駆けてきたのはルナ。

 彼女はパラソルの下に入ると、きちんと立ち上がった。

 ニンゲン、二足歩行が基本だということはちゃんと理解しているらしい。


「なんじゃ、ケイオス。なんぞ悩みか?」

「それがねぇ、聞いてよぉ、スフィーダ様ぁ」

「申してみよ」

「カレンさんがねぇ、子供が欲しいってうるさいんだぁ」


 カレン、カレン・バハナ。

 言わずもがな、美貌を誇るケイオスの女房だ。


「子作りが嫌なのか?」

「セックスが嫌いかって言ってる?」

「い、いや、そうは言っとらん」


 自分で話を振ったのに、セックスなんていうダイレクトなテクニカルタームが出てきたものだから、スフィーダはどもりまくりつつ赤面した。


「子供、子供かぁ。でも、俺が子供みたいな感じだしなあ……」

「そなたは以前、言っておったぞ? 自分はちゃんと大人じゃと」

「カレンさん、なんて言ってると思う?」

「なんと言っておるのじゃ?」

「貴方のことを愛しているからこそ、その愛の証が欲しい。だってさ」

「あ、愛の証ときたか」

「女心って海溝みたいに深いよねぇ」

「悩みを打ち明けにきたのか?」

「悩みじゃないんだ。ちょっとした報告事項ってだけ。っていうか、俺って馬鹿じゃん?」

「そんなことはないと思うが……。仮に馬鹿じゃったら、なにか問題が発生するのか?」

「俺が死んだら、カレンさんはもちろん、俺の子供だって悲しんじゃうでしょ?」

「じゃったら、死なないようにすればよいではないか」


 ケイオスが目を大きくして、「あはっ」と笑った。


「そうか、そうか。そうだね。俺が死なないようにすればいいだけだね」

「そなたなら、そうあることはさほど難しくないはずじゃ」

「うん。そう思う。そう思うよ」

「遠い目などするな。妙なフラグを立てるでない」

「あははっ。確かにその通り。ところで、隣のヒトって誰?」

「ああ、こやつはルナじゃ」

「ルナ?」

「うむ。今はクロエの警護の任に就いておる」

「大将付ってわけ? 俺と同じだね」

「にゃ? にゃにゃっ?」


 戸惑った様子で、ルナはスフィーダとケイオスの顔を交互に見た。


「自己紹介、したほうがいいかにゃ……?」

「そんなの要らないよ。スゴい体してるね、ルナさんは」

「うっ、うぅぅっ。やっぱりゴツすぎるかにゃ……?」

「力自慢なんだ?」

「それしかないのにゃ、私には……」

「筋肉、素敵じゃん」

「そそっ、そうかにゃ?」

「だけど、現実っていうものを教えてあげる」

「はにゃ?」

「その鼻、へし折ってあげるって言ってるんだよ。ちょっとごめん、スフィーダ様。立ってもらっていい?」

「そりゃ、かまわんが……」


 スフィーダが席を立つと、ケイオスはテーブルに右の肘をついた。


「さ、ルナさん、おいで」

「にゃにゃ? おいで?」

「うん。腕相撲をしよう」

「にゃ? う、腕相撲?」

「そ。腕相撲。それにしても、にゃってラブリーだね」

「ケ、ケイオスよ。ラブリー言うとる場合ではないぞ。やめておくべきじゃ。ただの骨折ならよいが、複雑骨折となるときっと治療もたいへんで――」

「俺は負けないって言ってるんだよ」


 ケイオスは目を細くする。


 スフィーダはルナと顔を見合わせた。

 ルナは困ったような顔をしたが、まもなく決断したらしく、ケイオスと同じく、右の肘をテーブルについた。


「ケイオスさんでいいのかにゃ?」

「ううん。ケイオスがいい。呼び捨てがいい」

「じゃあ、ケイオス、負けないにゃあよぉぉっ」

「罰ゲームを決めようか」

「ば、罰ゲーム?」

「うん。俺が負けたら、俺はなにをすればいい?」

「そうだにゃあ……。だったら、三つ回って、わんと言うのにゃ」

「そんなのでいいの?」

「なんてったって、勝ち戦ですからにゃあ」

「俺が勝ったときのこと、言っていい?」

「なんでも言うといいにゃ」

「おっぱい、触らせてよ」

「おお、おっぱい!?」

「だってルナさん、かなりおっきぃじゃん」

「そそ、それはその、体もおっきぃから……」

「決まり。負けたらおっぱいね」

「ま、負けなければいいのにゃっ」

「そうだね」


 二人が手を握り合う。

 その手の上にヨシュアが大きな右手を置き、「はじめっ!」と言い放った。


 一瞬だった。

 勝負は一瞬。


 ケイオスがあっという間に勝ってみせた。


 右手の甲をテーブルに叩きつけられ、きょとんとしているルナ。

 にこっと笑ったケイオス。


「女は男より弱いんだよ。あー、男尊女卑、男尊女卑」


 そんなことを言いながら、ケイオスは去ってゆく。


「お、おっぱいは? 触らなくていいのかにゃっ?」


 そう呼び掛けたルナに対して、ケイオスは「俺にはお嫁さんがいるからねー」と答えた。


 ケイオスの背を見送りながら、ルナが言う。


「びっくりにゃ。腕相撲世界一は私だと思ってたにゃ」

「相変わらず、わけのわからん強さを見せつけてくれるのぅ」


 スフィーダ、ある意味呆れつつ、ある意味感心した。


 ケイオス・タール。

 底が知れないとは、彼のことだ。


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