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第229話 レオはしきりに。

       ◆◆◆


 レオ・アマルテア准将の軍が、再びハイペリオンの領土に侵入した。

 スフィーダがその旨を伝え聞いたのは、事が起きてから二日後のことだった。


「またか。レオはつくづく思い切ったことをしてくれるのぅ」


 昼食後の紅茶を楽しんでいる最中にあって、スフィーダは吐息をついた。

 深刻だとは思っておらず、むしろ口元を緩めている彼女である。


 レオは理知的で賢いに違いないのだが、ときどき短絡的で感情的な一面も見せる。

 まったく、面白いおなである。

 ヨシュアでなければ重用しなかったかもしれないが、そのうち、力でのし上がっていたことだろうとも考えられる。


 遅れて食事を終えたヨシュアも、カップに口をつけた。


「気掛かりなことがないかといえば、実はそうでもなかったりするのですが」

「そうなのか?」

「レオ准将はハイペリオンに対して、私怨を持っています」

「それは言わずもがなじゃろう?」

「踏み込みすぎるのではないか。そう危惧しているということです」

「まあ、その線がないとは言い切れんじゃろうな」

「ちまちまとちょっかいを出すのは、戦争においては無意味です」


 釘を刺すことにいたします。

 ヨシュアはそう言うと、またカップに口をつけた。




       ◆◆◆


「レオ・アマルテア、参りました」


 レオは所定の位置で片膝をつくと、スフィーダの指示に従い、顔を上げた。


「レオよ、よいぞ。椅子に座ってくれ」

「はっ」


 ヨシュアが「そこまで急ぎの用ではない。私はそう伝えたつもりですが?」とレオに訊ねた。

 すると「はい。そのように解釈したつもりです」と答えた彼女である。


「であれば、なぜ、移送法陣を使ったんです?」

「使っていません……などと言っても、すぐにばれてしまいますね」

「使用者はカーニーですね?」

「そうです。しかし、国際法に抵触する以外に、なにか問題が?」

「けんか腰ですね」

「どうあれ召喚命令には応じたわけです。それでよろしいでしょう?」

「こちらからハイペリオンの領土を侵す必要はない。その決め事を、貴女は二度も破った」

「気に入らないのであれば、降格させる、あるいは任務を変更する等、なんなりとお申しつけください」

「いえ。貴女には今のままでいてもらいますよ。手綱つけておいたほうが扱いやすいですからね」

「手綱ですか。ヴィノー閣下以外に言われたのであれば、私はそのニンゲンを焼くことでしょうね、こんがりきつね色に」

「ハイペリオンのことは、いずれなんとかします。というか、なんとかせざるを得なくなるでしょう。それまで待てませんか?」

「クソガマガエルが自然死してしまってからでは遅いのです」

「やはり怨念返しですか」

「それのどこが悪いのですか?」


 ヨシュアは優しい目をして、レオは強い目をする。

 そんな両者が視線を交わし合う。


 観念したように吐息をつき、前髪を掻き上げたのはレオだ。


「やれやれ。だから閣下に会うのは嫌だったんですよ。毒気を抜かれてしまいますから」

「それならよかったです。私の目的は果たされました」

「現状、ハイペリオンより胡散くさい件はないと認識しています」

「それで間違いありませんよ。北のティターンは? 知っていますね?」

「かの国との関係性の話ですか?」

「ええ」

「現状、なにも問題はないと聞いていますが、あるいは……?」

「外交次第です」

「ほぅ。不穏になるケースもあり得ると?」

「私はそう踏んでいます」

「そちらも面白そうだ。となると、やはり、あまりクソガマガエルのことでまごつきたくはありませんね」

「そうでしょうね。貴女ならそう答える」

「ことのほか戦闘的であることは自覚しています。閣下、ハイペリオンのことに話を戻しても?」

「伺いましょう」

「もっと詳しい内情を知りたい。そこで、スパイを送り込んでいただきたい」

「その相談先は、私ではありませんね」

「ティーム・ブラック情報部長に直接話をしろと?」

「彼がいいと言えば、それはなかば無条件で許可されることでしょう」

「その意思決定には、閣下の意向も反映されるのでは?」

「情報部長次第だと言っています」

「食えませんね、貴方は」

「貴女もですよ、レオ准将」


 椅子から腰を上げたレオ。


「わかりました。大人しくしています。今しばらくのあいだは、ですが」

「そうしてください」

「それはそうと、毒蛇は達者にしていますか?」

「毒蛇? ああ、ルナのことですね」

「ルナ?」

「カルテナンバー四十二では、あまりに寂しいと感じたものですから」

「だから私は、貴方が優しすぎると言うんだ」


 黒いコートとともに身を翻したレオは、ハッハと声を上げて笑いつつ、去ってゆく。


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