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第22話 ネフェルティティのことは好かぬっ。

       ◆◆◆


 プサルムの南方には、アーカムという国がある。

 曙光に次ぐ、世界で二番目の大国だ。


 統治している者の名はネフェルティティ。


 領土の半分ほどを砂漠地帯が占めていることから、”熱砂の女王”なる二つ名で呼ばれることもある彼女は、スフィーダと同じく、悠久のときを生きる魔女だ。

 

 ネフェルティティは自らを頭に据えた、絶対君主制を敷いている。

 国への関わり方が、スフィーダとはまるで違うのである。


 そんなネフェルティティからふみが届いた。

 たまには会わないかという内容だ。

 同盟国同士なのだから、親睦を深めようというのである。


 スフィーダ、実はネフェルティティのことが好きではない。

 いつもいつも偉そうで、いつもいつもいつも上から目線でしゃべるからだ。


 だから文を持ってきたアーカムの男に対して、思わずその場で言いそうになった。

 実に真正直に「会いたいんじゃったら、おまえのほうからこっちに来いと伝えよ」と。


 だが、そこはぐっとこらえ、スフィーダは自ら会いに行くことにしたのである。




       ◆◆◆


 アーカムの首都、プレア。

 その中央の丘にでんと建っているこんじきの大宮殿にて。


 会談に使う一室も、隅から隅まで金で彩られている。

 天井も床も金ぴか、椅子も金ぴかなら、調度品のたぐいも金ぴかだ。

 まったく、目がちかちかしてしょうがない。


 浅黒い肌をしており、真っ黒な髪をおかっぱに整えている、やはり見た目は七つやそこらのネフェルティティは、椅子の上で脚を組み、優雅に微笑んでいる。

 彼女のドレスもティアラも、もちろん黄金だ。

 本当に、目がちかちかしてしょうがない。


 ネフェルティティの隣の椅子に座っているのは、若い女。

 紺色のローブには大胆なスリット。

 体を包み込むような紅色のマント。

 髪の色も紅色だ。

 名は確か、フェイス・デルフォイ。

 二つ名は”魔女に最も近い者”。

 ネフェルティティの最側近という話だ。


 ネフェルティティがまず放った言葉。

 それは「ヴィノー閣下。遠路、よう参った」というものだった。

 先にスフィーダを労うのが礼儀だろうに、そんなのおかまいなしなのだ。

 だからといって、こんなことでいちいち怒っていてはきりがない。


「して、なんの用じゃ、ネフェルティティよ」

「これは異な事。スフィーダよ、親睦を深めたいと伝えたであろう?」

「どうやって深めようというのじゃ?」

「こうして会うだけでも価値があると思うが?」

「率直に言ってやる」

「なんでも申せ。わらわは寛大である」

「おまえはヨシュアに会いたかっただけではないのか?」

「おぉ、よう察したな。その通りであるぞ」

「ぐぬぬぬぬぬっ。どこまで無礼なのじゃ、おまえという奴は」


 ネフェルティティには、ヨシュアをスカウトしようとした前科がある。


「わらわはまだ、ヴィノー閣下を諦めてはおらぬ」

「とか、のたまっておるぞ。ヨシュア、なにか言い返してやるのじゃっ」

「ネフェルティティ様。ご評価いただいていることは嬉しく存じます」

「そうではなかろう!」

「ですが、私はスフィーダ陛下のおそばを離れるつもりはございません」

「うむうむ、そうじゃ。それでよいのじゃ。それ見たことか、ネフェルティティめが」

「まったく。相変わらず、うぬはとことん子供で小者よのう、スフィーダ」

「うるさいわい! もうよい! わしは帰る!」

「そう急くな、スフィーダ。食事くらいは振る舞ってやろうぞ」

「その上から目線が気に食わんのじゃ!」

「ヴィノー閣下。フェイスは美しい女だとは思わんか?」

「いきなりなんの話をしておる!」

「フェイスは閣下に抱かれたいと言っておる」

「ヨシュアには妻があるのじゃぞ!」

「うぬには関係がない」

「話にならんわ! 帰るぞ、ヨシュア!」

「御意にございます」




       ◆◆◆


 帰りの飛空艇、その腹の部分にあるスフィーダの私室にて。


 まだ怒りの収まらないスフィーダは「あるいはあやつは馬鹿ではないのか!」と声を荒らげた。

 すると、向かいの椅子に腰掛けいるヨシュアに「乱暴な言葉遣いは、美しくありません」と、たしなめられてしまった。


「しかしじゃな」

「しかしもかかしもありません。お控えを」

「む、むぅ……」


 口をとがらせながらも、ここは引き下がるスフィーダである。


「ネフェルティティもしつこいのじゃ。いつまでおまえを引き抜こうとするつもりなのか。というか、今回は女で籠絡しようとしてきよったぞ」

「デルフォイ様がお綺麗であることは、万人が認めるところでございましょう」

「クロエのほうがイイ女じゃ。わしはそう思うぞ」

「恐縮でございます」

「あー、もう。気分が悪くてしょうがないぞ。二度と会わんからな。ネフェルティティめっ」

「そうおっしゃらずに。また会談の機会を設けましょう。アーカムとの付き合いは重要でございます。そうでなくとも、ネフェルティティ様とは同じ境遇というお立場ではございませんか」

「まあ、そうじゃが……」

「みなが仲良くできるのが、理想の世でございますよ」


 ヨシュアは歌うように、そう言ったのだった。


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