表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

214/575

第214話 ブロッケン。

       ◆◆◆


 日曜日。


 スフィーダは玉座の上で膝から下をぷらぷらさせながら、読書をしていた。

 すぐそばの椅子にはヨシュアが座っており、やはり本を読んでいる。


 ヨシュアはそうでもないのかもしれないが、アクティブなスフィーダとしては、やはり退屈なのである。


 そんな最中に思いついた。


「ヨシュアよ、ちょっと付き合わんか?」


 そう声を掛けると、ヨシュアはゆっくりとスフィーダのほうを向いた。


「どこに行かれようと?」

「わしにとっては、懐かしい場所じゃ」

「懐かしい場所? しかし行き先がどこであれ、万一のことがあっては――」

「じゃから、おまえが供を務めるのじゃろうが」

「なるほど。いいでしょう」

「最近、おまえは物わかりがよくなったように思うぞ」

「恐れ入ります。重ねてになりますが、危険だと感じたら、ただちに連れ帰らせていただきますので」

「それでよい」




       ◆◆◆


 スフィーダの移送法陣で、二人して目的の場所まで飛んだ。

 到着した先は、緑がなく、なんの愛想もない岩場である。


 すぐ目の前の岩壁に、けっして大きいとは言えない長方形の穴が空いている。


「この地はいずこなのですか?」

「秘密じゃ」

「ふむ」

「不満か?」

「いえ」

「ここはのぅ、ヨシュア、わしがこの世に生を受けた場所なのじゃ」


 スフィーダはヨシュアを見上げ、微笑んだ。

 彼は目をぱちくりさせる。

 さすがに驚いたようだ。


「この穴の向こうがそうじゃ。行ってみるか?」

「陛下が入るとおっしゃるのであれば」

「じゃったら、ついてくるがよい」

「やれやれ。這いつくばらないといけませんね。着衣が汚れてしまう」

「わしだってそうじゃぞ」


 スフィーダは四つん這いになり、穴の中に入る。

 彼女が通るには余裕があるが、ヨシュアはぎりぎりだろう。


 十メートルほど進むと、それなりに広い空間に出た。

 天井はドーム状になっており、ぐるりの岩の壁はごつごつと出っ張っている。


「陛下が生まれた場所。ここがそうなのですか?」

「正確に言うと、生まれたという表現は間違いなのかもしれんな。気がついたら転がっておっただけなのじゃからの」

「どれくらいのあいだ、ここにおられたのですか?」

「数か月といったところじゃろう」

「食糧も水もない中で、数か月も?」

「そこがわしの化け物じみているところじゃ」


 ほぅ、なるほど。

 興味深そうに言葉を漏らした、ヨシュアである。


「しかし、陛下はそのうち外に出て、ヒトと関わり合いを持つようになった」

「言ったことがあるじゃろう? ずっと一人で、実は寂しかったのじゃ」

「幼女の姿でありながら、誰よりも魔法が達者なわけです。それだけで、信仰の対象に値する」

「わしはここを隠れ家にしておった。水や食べ物もここに持ち込んだ。じゃが、やがてはそれも、当時のヒトの知るところになってしまった」

「そのあたりが面倒に感じられたから、ここをあとにしようと?」

「そんなところじゃ」

「陛下を魔女と定義して、あるいは殺害しようという者もいたのではありませんか?」

「魔女狩りという風習はあったのぅ」

「しかし、魔女とされたそのほとんどは、ただのニンゲンだった?」

「うむ。じゃが、根本的に排他的なのがヒトという生き物じゃ。よって、その存在も行為も、否定できるものではないと思う。のぅ、ヨシュアよ、わしの話を聞いた上で、ここをどう思う?」

「客観的に評価すると、どう考えても寂しい場所ということになりますね。それにしても」

「なんじゃ?」

「いえ。ここに入る前によいことがあったなと思いまして」

「よいこと? それはなんじゃ?」

「四つん這いの陛下に続くことで、下着を拝むことができました」

「ななっ、なんじゃとっ!?」

「本日は黒だったのですね。大人の真似事でございますか?」


 恥ずかしさと腹立たしさを覚え、そんな思いから、スフィーダは「コイツめ、コイツめっ」とヨシュアの胸を両手でぽかぽかと叩いた。


「それにしても、本当に悲しく、またむなしい場所でございますね」

「やはり、そう感じるか?」

「はい。この山に名前はあるのですか?」

「わしのことを信仰していた民族は、ブロッケンと呼んでいた」

「その民族は、今?」

「ここに食べ物や飲み物が供えられていないことから考えるに、滅びたのじゃろう」

「陛下にとって、ここは大切にしたい空間なのですか?」


 スフィーダは苦笑し、「そんなことはない」と答え、かぶりを振った。


「ここがルーツだというだけじゃ。感傷に浸るのはまだ早い」

「ダインの打倒が大目標だと?」

「そう転ぶ可能性は、低くないのかもしれん」

「私からすれば、相手にとって不足なしといったところでございます」

「フォトンにとっても、そうなのじゃろうな。じゃが、ダイン以外にも、この世界には不確定要素が多すぎる。そのへん、わしは危険視しておるのじゃ」

「死神に見捨てられた幼女の危惧といったところですか」

「わしは巨大な業を背負っておる。ゆえに、いつか誰かに断罪されたい」

「ここにご案内いただいたこと、嬉しく思います」

「そのように言ってくれるおまえのことは大好きじゃ。しかし、パンツのことは忘れてくれ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ