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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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210/575

第210話 ラースの迷い。

       ◆◆◆


 ビーンシィの旧国主の家にルーツを持ち、今は隣国ハインドで一兵士として働いているラース・アルマシーが謁見に訪れた。


 友人ではあるものの、優先して入れたわけではない。

 他の謁見者と同様に、順番を待たせてから通したのだ。

 そのへん、ヨシュアはきちんとしているのである。


 今日のラースはタイトな白い上下に身を包み、白いロングコートを羽織っている。

 本当に、立派になった。

 逞しく育った。

 まだ十七という年齢だが、スケールの大きさが漂っている。


 ラースは所定の位置で片膝をつき、スフィーダのゆるしに従う格好で椅子に腰掛けた。

 所作の一つ一つに、高貴さが匂い立つ。


 微笑みを向けると、微笑みを返してきた。

 そろそろ縁談を考えてもよいのではないか。

 そう思わせるくらい、もはやイイ男なのである。


「今日はスフィーダ様、それにヴィノー様に相談があって参りました」


 呼応するように「ラース」と呼び掛けたのはヨシュアだ。


「なんでしょうか?」

「ヴィノー様はよしましょう。ヨシュアで結構ですよ」

「そんな。恐れ多くてとても、とても」

「貴方は私を兄と慕ってくれているのでしょう? とするなら、ヴィノーはおかしい」

「おゆるしいただけるのですか?」

「特別です。貴方にはゆるしますよ」


 ヨシュアにそう告げられたラースは破顔して。


「わかりました。これからはヨシュア様と呼ばせていただきます」

「様以外に適当な呼び方があればよいのですがね」


 小さく肩をすくめたヨシュア。


「それでラース、用件はなんですか?」

「このようなことをスフィーダ様とヨシュア様にお話しすること自体、正しくはないのかもしれませんが……」

「まずは言ってみなさい」

「実は我が祖国、ビーンシィにおいて、私を国主に据えようとする動きがあるのです。私は一兵卒でかまわないと、自らを定義していました。これからもずっとそのつもりでした。ですが、待望されているのだと思うと、複雑な気持ちに駆られてしまいます」

「貴方が国主になれば、今度は私がラース様と呼ばなければなりませんね」

「そんな。からかわないでください」

「ええ、そうです。からかっただけです」

「本当にヒトが悪い」


 ラースは笑顔を見せると、少々俯き、吐息をついた。


「正直、困っています。どうすべきなのか、どうすることが正しいのか……」

「そこで、陛下と私に相談というわけですか」

「その通りです。情けないことですが、決めかねています」

「陛下」

「おぉっ、ヨシュア。やっとわしの出番か」

「この件、あまり硬い話にする必要もないかと存じます。思いを語るだけですからね。そこで、ティータイムを提案します」

「名案じゃ。ラースよ。十五時にまた訪ねてきてもらってよいか?」

「もちろんです。……あっ」

「む。なんじゃ?」

「できれば、クロエ・ヴィノー様もお誘いいただけませんか。あの方はその――」

「そうじゃったな。そなたにとっては姉のような存在なのじゃったな」

「久しぶりにお顔を拝見したいです」

「じゃが、今のクロエの姿を見たら、恐らくそなたは……」


 途端に、ラースは眉間にしわを寄せた。


「なにかあったのでございますか? 奥様の身に、なにか……」

「会えばわかる。ヨシュアよ」

「問題ありません。妻も同席させます」




       ◆◆◆


 テラスに設けさせた白いテーブル。


 スフィーダはラースと隣り合った。

 彼女の向かいにはヨシュアが、はす向かいにはクロエが座った。


 ラースは左腕がないクロエを見て、目を見開き、口をわななかせた。


「お、奥様……」

「何度も申し上げましたが、クロエでかまいません。ラース様。お元気そうですね」


 クロエはニコニコ笑っている。


「そ、そのご様子は、どうして……」

「いろいろありました。ですけど、今の私は幸せです」

「ヨシュア様、なにがあったかのか、詳しくお聞かせください!」

「ラース、大きな声を出さないように」

「し、しかし――」

「もう終わったことです。私も妻も、もはやなにも気にしていません」

「……くっ」


 ラースが下を向き、涙をこぼした様が、スフィーダにはよく見えた。

 彼は本当に、クロエのことを姉と慕っているのだろう。


「顔を上げてください、ラース様」


 クロエに呼び掛けられ、ラースは言われた通りにした。


「本当に、ご立派になりましたね。世の女性は、貴方のことを放っておかないことでしょうね」


 クロエは笑う。

 目を細めて、穏やかに笑う。


「ヨシュア様、私は……私は、誰も不幸にならない世界を作りたい……っ」

「それは不可能です」


 ヨシュアがあまりにもずばっと言ったので、スフィーダは紅茶を吹き出しそうになった。


「ヨヨ、ヨシュアよ。不可能じゃとしても、心意気は買ってやるべきじゃろう?」

「はい。ですから、私はラースに立てと言いたい」

「立て、ですか……?」

「そうです。上に立つ者に求められるのは、理想を打ち上げ、それを守り抜くことです。みなを悲しくさせないために生きる。それは非常に尊いことなんですよ」

「しかし、私にそのような力はない。そんなふうにも思えてしまって……」

「軍の大将に任命されたとき。陛下の最側近に指名されたとき。どちらのケースにおいても、私に務まるのだろうかと、少々、不安に思ったものです。私は筋金入りの個人主義者ですから」

「個人主義者なら、国の未来を思ったり、クロエ様を愛されたりはしないだろうと考えます」


 するとクロエはますます優しげに笑み。


「その通りです、ラース様。ヨシュア様は、私の夫は、すぐに嘘をつくんです」

「クロエ」

「たまには私にも、言いたいことを言わせてください」


 クロエと見つめ合い、数秒。

 ヨシュアはにこりと、笑ってみせた。


「陛下」

「うむ。なんじゃ?」

「ラースは上に立つべきニンゲンだと思われますか?」


 ヨシュアがぶつけてきたそれは、あるいは難しい質問なのかもしれない。

 だが、スフィーダの答えは決まっている。


「ラースよ」

「はい」

「わしはそなたのことを根っこまで知っているとは言えぬ」

「はい」

「じゃが、そなたは、ヒトを束ねるだけの器を持ち合わせているように思う」

「恐れ多いお言葉です」

「白い身なり。それはヨシュアに憧れてのことなのじゃろう?」

「はい。けっして超越できない壁ではございますが」

「明日、わしは久しぶりに、自らをお披露目する」

「お披露目?」

「そなたもその場に立て」

「えっ?」


 ヨシュアは「それはようございますね」と言った。

 やはりクロエはニコニコと笑む。


「わ、私はまだなにも、していないのですが……」

「したい。したくない。ラース、結局のところ、貴方はどちらを選ぶのですか?」

「ヨシュア様、それは……」


 ラースの目が真剣みを帯びた。

 決意を放つ強い瞳だ。


 ヨシュアは「素直でよろしい」と歌うように言ったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] >「その通りです、ラース様。ヨシュア様は、私の夫は、すぐに嘘をつくんです」 やっぱりクロエすき。
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