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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第208話 気弱で太っちょなギャンブラー。

       ◆◆◆


 丸っこい体をしたその男は、駆け込むようにして玉座の間に入ってきた。

 途中でつまずき前回り、さらにごろんごろんと転がった。

 丸いからよく回るのだろう。

 そんなどうでもいい感想を抱くに至った。


 赤絨毯の上に設けられている椅子の隣で、男のごろんごろんはちょうど止まった。

 偶然のことだとしても、えらく器用な男だなと思わされた。


 男は丸眼鏡の橋の部分を押し上げ、重たそうな体を持ち上げ、立った。

 あれだけ回転しておいて眼鏡を飛ばさなかった点は、ある意味賞賛に値する。


 まずは太った体を引き締めてこいと言いたい。

 次におっちょこちょいすぎるのをなんとかしろと言いたい。


 それでもまあ、話は聞いてやろうと考える次第だ。


「まあ、座るのじゃ、太っちょよ」

「ふ、太っちょですか」

「無礼か?」

「い、いえ。そう思わないところが、きっと僕の悪いところなんでしょうけれど。反骨精神がないというかなんというか……」

「御託は結構じゃ。まずは座ってもらいたい」

「は、はい。失礼します」


 男が椅子に腰掛けた。


「名を聞かせてもらおう」

「ホセといいます。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼む。して、ホセはわしに何用じゃ?」


 するとホセはいきなり情けない顔をして「助けてくださいよぉぉ」などと訴えてきた。


「助けてくださいって、それだけじゃあわからんぞ」

「僕、借金まみれなんです。このままじゃあ、ヤクザに殺されてしまいます」

「ヤクザから金を借りたのか?」

「フツウのところじゃ借りられなくなっちゃって、それで闇金に手を出しちゃいまして、てへっ」

「てへっ、などと抜かしておる場合か。要は返済ができずに追い詰められているということじゃろうが」

「そういうことなんです、てへっ」

「じゃから、てへっ、などと軽い調子で抜かすでない」


 スフィーダは吐息をつく。

 呆れたくもなるというものだ。


「お金を恵んでくれとは言いません。ただ、借金をないものにしていただけたら助かるんです」

「ホセよ、そなたは馬鹿なのか? それとも馬鹿にしておるのか?」

「そ、そんなつもりはないです、てへっ」

「てへっはもうよい。わしの見解を述べよう」

「は、はい。伺いたいです」

「そなたの場合、たとえ殺されても、文句は言えんと思う」

「えぇっ! そんなぁっ! ”慈愛の女王”というあだ名は嘘なんですか!」

「大声を出すな。よく考えてもみろ。どうしたって、そなたが悪いという結論にしか至らんじゃろうが」

「でも、だけど、だからそれだと僕は、殺されて――」

「一度死んで生まれ変わるという手もある」

「むむっ、無茶を言わないでください!」

「まあ、今のは冗談じゃが」


 スフィーダは左方を見上げつつ、「ヨシュアよ、おまえはどう思う?」と訊ねた。


「一度とは言わず、二度、三度とやり直したほうがよいかと存じます」

「ホセよ、だそうじゃ」

「嫌だあぁぁ! 死にたくないですぅぅぅ!」


 ホセ、まったくもって、みっともない。


「そなた、年はいくつじゃ?」

「二十六になりました」

「仕事は?」

「週四でホテルの清掃作業をしています」

「週は七日もあるのじゃぞ?」

「働くのは苦手というかなんというか、てへっ」

「てへっ、は飽きたといっておろうが」


 スフィーダはゆるゆると首を横に振った。


「じゃが、週四でも働いているのであれば、借金地獄なんてことにはならんはずじゃ」

「それが僕、ギャンブル狂なんです」

「ギャンブル狂? なにをやるのじゃ?」

「競馬です。アーカムに行ったときは、ラクダレースもやりました」

「負け続けて、負債が蓄積したと?」

「はい……ダメですか……?」

「ヨシュアよ、こやつの所業はもはやわしの想像を超えておる。おまえがアドバイスをしてやってくれ」

「ヴィ、ヴィノー様ぁ、助けてくださいよぉ……」

「ホセさん、そう言われても困ります。ですが、困りながらも正攻法くらいなら提示できます」

「そそっ、それってなんですか?」

「働きましょう。地道に返済しましょう」

「それができたら苦労はしませんよ、てへっ」


 スフィーダ、ギョッとなった。

 ヨシュアが右の手のひらをホセに向けたからだ。

 黄金色の矢でも飛ばすつもりなのだろう。

 無表情なのが怖い。


「ヨッ、ヨシュアよ。頭にくるのはわかるが、殺すな。それはあんまりじゃ」

「ひっ、ひぃぃぃぃっ! そ、そうですよぅ、スフィーダ様、助けてください。僕、なんだってしますからぁぁぁっ!」


 スフィーダはここで「よしっ」と頷き、「そなたは言ったぞ。なんだってするのじゃな?」と続けた。


「はっ、はい! します! やります!

「わかった。返済期限については、わしがヤクザと話をつけよう。じゃからそなたは、とにかく働くことに注力するのじゃ」

「ちゅ、注力ですか。でも、それって僕はあんまり……」

「ぐだぐだ言うようなら、速やかにヤクザに引き渡すぞ」

「わわっ、わかりました! がんばります!」

「それでよいのじゃ」


 スフィーダはにっこりと笑った。




       ◆◆◆


 一週間後、ホセがやって来た。

 丸っこい体が多少、しゅっとなっていた。

 というより、少々痩せこけたと表現したほうが正しいのかもしれない。


「人生で初めて、週六で働きました。結構、しんどかったです……」

「じゃが、充実感はあるのではないか?」

「はい。ヤクザのヒトも良心的なので助かっています。その点についてはスフィーダ様、ありがとうございました」

「担当者は言っておった。死体を作るのは簡単でも、できればそうはしたくないと話しておった。長い目で見たいそうじゃ」

「や、やっぱり、下手をすれば殺されていたんですね」

「わしは仕事をがんばる者が好きじゃ」

「えっ? そうなんですか?」

「うむ。その対価として給料を受け取る。理想的な関係ではないか」

「え、えぇっと」

「なんじゃ?」

「僕、スフィーダ様に相談して、よかったです」

「そう思うなら、明日からも一生懸命に働くのじゃ」

「はいっ!」


 ホセは立ち上がると、軍人か警察官みたいにビシッと敬礼してみせた。

 ちょっとわざとらしかったのだが、スフィーダ、思わずぷっと吹き出してしまった。


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