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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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203/575

第203話 DESPAIR→HOPE

       ◆◆◆


「イーヴルは泣いた。すべての原因を自らが作ってしまったことに絶望して、泣きじゃくったんだ」

「すべての原因? 絶望?」

「イーヴルは吸血鬼だ」

「それは見ればわかる」

「そうだ。見ればわかる。そんな吸血鬼が、ヒトと恋に落ちたとしたら?」

「そ、そのようなことがあったのか?」

「答えろ、スフィーダ。吸血鬼とヒトとの恋愛はゆるせないか?」


 スフィーダは刹那、考えた。

 すぐさま、その刹那が無駄だと悟った。


「吸血鬼とヒトが愛し合ってもいい。わしはそう考える」


 するとドル・レッドは「おまえならそう言うと思ったよ」と穏やかに言い。


「だがな? だが、そこに住まうヒト達は、ニンゲンらは、村の一員であるその娘が吸血鬼と好き合っていると知るや否や、イーヴルを殺さなければならないと考えた。だって、そうだろう? 吸血鬼はニンゲンから蔑まれるためにいるようなものなんだからな」

「そんなことがあってたまるかぁっ!」


 スフィーダは声を張り上げた。


「恋をするのに重んじなければならない境界線などないぞ。ないはずじゃ。イーヴルもその娘も、なにも間違っていないではないか!」

「デカい声を出すなと言った。耳がキンキンしてしょうがないんだ」

「それから、それから、どうなったのじゃ?」

「イーヴルは娘と約束した。その日、その夜、村から連れ出すと。吸血鬼が思い至った特殊な感情じゃあない。イーヴルはとにかく、ただ単純に、娘と一緒にいたかったんだ」

「しかし、その約束は果たせなかった……?」

「イーヴルが村を訪れたとき、村人達はまさに娘を焼いている最中だったのさ。柱に括りつけた上で、足元から炎に晒していたらしい。裏切り者、あるいは汚らわしい存在。そうとでも思われたんだろうな。当然、頭に血が上ったイーヴルは娘を助けようとした。だが、それはできなかった。村人達はえらく魔法がうまかったようなんだよ。一致団結のもと、立ちはだかられたということだ。それでも、それでも、イーヴルは娘を救おうとした。到底、救えるはずもなかったのにな。だから結局イーヴルは、宙から見届けるしかなかった。そんな最中にありながらも、娘は言った、叫んだそうだ。愛している、と」


 あまりの悲しさに、スフィーダは鼻をすすった。

 目からはとっくに、涙がこぼれている。


「それで……墓参りというのは……?」

にんにんの村人どもとはいえ、墓くらいはこしらえたらしい。イーヴルはその旨をいつかどこかで聞いて、だから毎年、命日には必ず墓参りをしているというわけだ」

「すべてはヒトの業か……」

「どうだ? ニンゲンのことが嫌いになっただろう?」

「……少しな」

「だが、イーヴルは目につくニンゲンを目の敵にして攻撃するような真似はしない。そこには多分、ニンゲンに対する愛があるからなんだろう」

「大好きな娘を焼かれたのに、愛があるというのか?」

「絶望したことは間違いない。それでも、イーヴルは心のどこかで、ニンゲンという生き物を信じている。ニンゲンというものに、希望を抱いている。気のいいアイツが考えそうなことだ」


 うなだれたスフィーダ。

 両の瞳からは、やはり涙が落ちる。


「イーヴルはイイ奴じゃな。頭が下がるぞ」

「それを聞かされたとしたら、奴さんはなんて言うんだろうなあ」

「やっぱり、なにも口にせんのではないか?」

「俺もそう思う。おっと。帰ってきたようだ」

「へっ? わかるのか?」

「短い付き合いでもないんでな」


 本当にその通りで、赤い魔法衣姿のイーヴルが洞窟に入ってきた。

 スフィーダの顔を見て、少し意外そうな表情を浮かべる。

 だが彼はそれ以上、気にするような素振りを見せなかった。

 彼女の隣、すなわち、ドル・レッドの腹に背を預けたのだった。


「イーヴル、有意義だったか?」


 ドル・レッドにそう訊ねられても、訊ねられたほうはなにも答えない。


「俺はこれからもずっとずっと、おまえの親友だ。忘れてくれるなよ」


 すると一転、イーヴルは優しい顔をして、ドル・レッドの腹を撫でて。


「素敵な関係じゃのぅ」


 スフィーダは右腕で乱暴に涙を拭って、イーヴルにニコッと笑ってみせた。


「そなたはとことんまで、この赤き翼竜のことを信頼しておるのじゃな」


 突然なにを言い出すのかと怪訝に思っているに違いないが、それでもイーヴルは頷くことで応えてくれた。


「また来るぞ。誠意をもって訪れるぞ。だからイーヴル、それにドル・レッドよ、その折には、今夜みたいにフレンドリーに接してもらいたい」

「戦力としては期待するなよ。俺は混沌とした世界が嫌いじゃないんでな」

「ひねくれた物言いをされても、わしはそなたらのことが大好きじゃぞ」

「……とっとと帰れ」

「やはりおまえは誠実じゃ。見事だとすら思う」

「帰れと言った。いないと知ったら、ヴィノー閣下が心配するだろう?」

「気遣い、ありがとうなのじゃ」

「礼には及ばん」


 本当に、いいコンビだ。

 愛おしさすら覚える。


「なにか困ったことがあれば、わしを頼れ」

「そうさせてもらうよ、女王陛下殿」


 そしてドル・レッドは、大きなあくびをしたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] イーブルにそのんな過去が。 ドルレッドの優しさを感じました。どことは言えないのですが、穏やかな眼差しをイメージしました。 [一言] やり切れないことはあるのだと感じます。 自分と違うものや…
[一言] レッドさん可愛いなぁ。 優しくて(ちょっとツンデレ)頼れる兄貴分。(人外) 最高の相棒じゃないすか。 人外の素敵な相棒欲しいなぁ。
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