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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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202/575

第202話 今宵の翼竜。

       ◆◆◆


 あまりに眠れない。

 そんな日だって、たまにはある。


 さて、どうしたものか……。

 そう考えているうちに、ひらめいた。


 よしっ!

 たまには青肌の吸血鬼と赤肌の翼竜の姿でも見に行ってやろう!


 幸い、彼らの寝床は知っている。


 スフィーダは黒いドレスに着替え白いショールを羽織ると、私室でこっそり、移送法陣を使ったのだった。




       ◆◆◆


 岩場にある洞窟の前に到着。


 ひょっとしたら、眠っているかもしれない。


 スフィーダは右の人差し指の先に魔法の火を灯し、「こんばんはなのじゃぁ……」と小さくつぶやきながら、洞窟内へと足を踏み入れた。


 暗闇の中、赤肌の翼竜、ドル・レッドは顎を地面につけ、うつ伏せの姿勢で眠っていた。

 青肌の吸血鬼、イーヴルの姿は見当たらず、だから夜の散歩にでも出掛けたのだろうと予測した。


 ドル・レッドはのんきなところがあるようだが、間違っても馬鹿ではない。

 来客があっても寝たままでいるのは、その客に敵意がないことを感じ取っているからだろう。


 スフィーダはバンバンバンとドル・レッドの頬を叩いた。


「起きろ、起きろ、起きるのじゃーっ!」


 そんなふうに声を上げながら、叩き続けた。


 すると、ドル・レッドは目を開けて。

 ぎょろりとした緑色の瞳を向けてきて。


「なんだ。スフィーダか」

「そのセリフ、前にも聞いたぞ。改善しろ。無礼じゃぞ」

「俺は魔女なんかよりずっと長生きしている。こちらが年長者だということを忘れるな。礼を尽くすのはおまえのほうだ」

「ええい、うるさいぞ。とにかくわしの相手をしろ」

「相手? なにかあったのか?」

「わしは眠ることができず、途方もなく暇なのじゃ」

「酒でもかっくらえ。そしたらじきに眠れるだろう。じゃあな」

「じゃあな、ではない。話し相手になれと言っておる」

「あいにく、俺は眠いんだ」


 ドル・レッドは本当に眠そうである。

 竜の表情も、その気になれば見て取れるらしい。

 意外なことではあるのだが、それはそれで愉快な気がした。


「イーヴルはどこに行ったのじゃ?」

「勝手に話を進めるな」

「どこに行ったのかと訊いておる!」

「デカい声はうっとうしい。イーヴルなら、墓参りだろう。ああ、今年ももう、そんな季節だ」


 スフィーダは腕を組み組み、首をかしげた。


「墓参りじゃと?」

「墓参りだ」


 腰を下ろし、ドル・レッドの腹にもたれかかるように背を預けたスフィーダである。


「相変わらず、馴れ馴れしいことだ」

「イーヴルの墓参り。詳しく知りたいぞ」

「話したら、イーヴルは怒るかもしれん」

「それでも話せ。わしの暇潰しに貢献しろ」

「しょうがないな」


 ドル・レッドは大きなあくびをした。


「俺とイーヴルは、最初は敵同士だった。といっても、青肌の吸血鬼なんてものが珍しくて、出会った瞬間、こちらから仕掛けたんだがな。ああ。その頃の俺は、ことのほかけんかっ早かった。血の気が多かった」

「けんかの結果は?」

「痛み分けだ。それぞれがそれなりに傷つき、その場で別れた。だが、運命の赤い糸とでも言ったらいいのか、あるとき、またイーヴルと出会ってな」

「運命の赤い糸などと翼竜が申すか」

「おかしいか?」

「おかしいぞ。笑いたくなる。じゃが、一刻も早く先を聞きたい。興味津々なのじゃ」

「戦って戦って戦い続けた結果、俺が勝った。だが、宙から落ちていくイーヴルのことを見ると、たまらない気持ちになってな。気づけばイーヴルのことをくわえて、人目につかないところを探していた」


 スフィーダは、ふむふむと頷いた。

 なるほどなと思った次第である。


「その場所が、この洞窟じゃったというわけか?」

「ああ。わずかに差し込む光が気持ちいい。月明かりもいい塩梅だ。だから、ここを新しいアジトにしようと決めたのさ」

「そして、イーヴルとは仲良くなっていった?」

「だいぶんあいだを端折れば、そういうことになる」

「そうなるにあたって、なにかきっかけがあったのか?」

「話をすればじゅうぶん、相手のことは知れる。だから、たくさんおしゃべりをした。まあ、イーヴルは基本的に無口なんだが」

「俺にはもう、なにもない……」

「ん?」

「いや。イーヴルは以前、そんなことをのたまっておったと思ってな」

「おまえ達はそんなに親しい間柄だったのか?」

「そうではない。聞かされたのはたまたまじゃろう」

「なにもない、か……」

「その言葉の裏になにがあるのか、見当はつくのか?」

「つくさ。言ったろう? 今夜は墓参りに出掛けているはずだと」

「そのへん、しっかりと知りたい」

「好奇心が旺盛で、とことん前向き。おまえのような魔女は珍しいだろうな」

「そんな評価は要らぬ。とにかく、わしの興味に応えるのじゃ」

「おまえは元気すぎる」

「それは褒め言葉じゃな」

「いいだろう。話してやる。これはイーヴルの、絶望のエピソードだ」


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