第200話 十七歳コンビの出世。
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だぼっとした黒い魔法衣をまとっているのは、ピット・ギリー。
タイトな黒い軍服を身につけているのは、ミカエラ・ソラリス。
二人が玉座の間を訪れた。
所定の位置で、揃って片膝をつく。
両名とも頭を垂れ、参上した旨を口にした。
「よいぞ、二人とも。面を上げよ」
二人の「はっ!」という返事が重なった。
「ついでに、立ってくれぬか?」
スフィーダがそう告げると、両者ともすっくと立ち上がった。
ピットもミカエラも細身なのだが、体幹の強さを感じさせる。
日頃から厳しく鍛えている証拠だろう。
「ヴィノー閣下がお呼びだと伺いました」
そう発したのはミカエラだ。
ピットは腕を組んで宙に視線を遊ばせていて、だから彼女に後頭部をぽかっと叩かれてしまった。
「辞令です。直接、私から伝える必要はなかったのですが、二人の顔を見たい思いましてね」
「ありがとうございます。早速、内容を聞かせていただいていいですか?」
「両少尉。おめでとうございます。お二人とも、中尉に昇進です」
ピットが「えっ? いいんスか?」と意外そうに言った。
その口調が砕けたものだったからだろう、ミカエラはまた彼の頭をぽかっと叩いた。
「閣下、あたし達、まだそんなに働いていないと思うんですけれど」
「相変わらずの反抗心ですね。反骨心と言ったほうが正しいのでしょうか」
「少なくとも、反抗心はないです。閣下にはいろいろと迷惑をかけてしまいましたし、加えて嫌な思いをさせてしまったと思っているので」
ヨシュアは泰然自若としている。
首を横に振ったり、肩をすくめたりもしない。
「なんにせよ、貴女が気に病む必要はありませんよ」
「私は閣下のことを尊敬しています」
「なら、この先も私の言うことを聞くように」
「わかりました。肝に銘じます。でも、あたし達の昇進については、やっぱり、もう少し様子を見てからのほうが――」
「ですから、その必要はないと判断したんです」
「トップダウン?」
「あるいは」
今度は優しく頷いたヨシュアである。
「じゃあ、お言葉に甘えます」
「そうしなさい。ピット」
「はい。なんスか?」
「貴方は常にミカエラと一緒にいなさい。カバーし合える仲なのですから」
「ヴィノー閣下、それは誤解です。あたしにはもっと有能な相棒がいていいはずです」
「そりゃあねぇだろ、ミカ。今までうまいことやってきたじゃんよ」
「アンタの才能は認めてあげる。だけど、あんまり努力しないところはいただけない」
「ちげーよ。大いに間違ってんよ。おまえが努力しすぎなんだよ。サンドバッグ、これまでいくつ壊したよ?」
「軟弱なサンドバッグが悪いの」
「あれって、素手で殴って破れるもんじゃねーと思うんだけど?」
「うるさい、黙れ」
まったく、本当にいいコンビである。
ピットがすでにミカエラの尻に敷かれてしまっているところがいい。
「新たな任務を与えます」
ヨシュアにそう言われると、二人は改めて片膝をつき、「なんなりとお申しつけください」と声を揃えた。
「ハイペリオン戦を想定し、防衛ラインに加わりなさい」
えーっと不満げな声を上げたのはピットだ。
彼は「退屈なのは嫌なんスよ」と続けた。
三度になる。
ミカエラはまた、ピットの後頭部をグーで叩いた。
「相手が相手です。ちまちまと手を出してくることでしょう。その際には毅然とした対応をとっていただきたい。わかりますね? まごうことなき、最前線です」
「確かに、ハイペリオンは危なっかしいと思います。指示に従います」
「そうしなさい」
優しい顔をしたヨシュアに対し、ミカエラも口元を緩めてみせた。
ヨシュアに「微笑むなど珍しい」と指摘されると、ミカエラは「そうかもしれませんね」と、いっそう目を細めてみせたのだった。
「ちなみになんですけれど、あたし達、移送法陣は使えないから、合流には時間がかかります」
「知っています。適切な交通手段を用いて向かいなさい」
「現地では誰の指示に従えばいいですか?」
「おや、ミカエラ。貴女ならそれくらい、把握していると思っていましたが」
「伺ってみただけです。レオ・アマルテア准将ですね?」
「ええ、そうです」
「詳しい実力を知りません。准将はできる方ですか?」
「怖ろしいまでの火力を秘めていることでしょう」
「閣下にそう言わせるなんて、相当なことですね」
「准将の指示に従いなさい。彼女の言葉は、私の言葉だと思うように」
「はっ!」
キレのいい返事をしたミカエラ。
しかし、ピットは肝心のタイミングで盛大なくしゃみをしてしまった。
かなりムカッとしたのだろう。
ミカエラは素早く立ち上がると、ピットの背中に右足で蹴りを入れた。
前に倒れ、「いてーっ!」と声を上げ、赤絨毯の上に転がるピット。
ミカエラは肩を怒らせながら彼に先んじて、大扉のほうへと歩いていった。




