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第2話 ブレブレではありませんか。

       ◆◆◆


 まつりごとの担い手も、いくさの指揮をとる者も、ニンゲンであるべきだというのが、スフィーダの考え方だ。

 あくまでもシンボルとしての女王。

 その旨、受け容れてもらえないようであれば、彼女は象徴化すら断るつもりだった。


 それは正しい判断だったと思っている。

 だが、そういう方針をとってしまったことをまったく悔やんでいないかというと、そんなことはないのである。

 だって、女王制をよしとしてしまったせいで、普段は水晶でできている無駄に背もたれの高い玉座を尻で磨くか、テラスに作らせたプールで泳ぐか、それくらいしかやることがないからだ。


 ヨシュアだって暇だろう。

 軍の大将というのは意外と閑職なのか、いつも玉座のかたわらにいる。

 一日のほとんどの時間を、女王の最側近という役割に費やしているのだ。

 椅子に座って本を読んでいることが多い。

 否、むしろ本ばかり読んでいる。


 この先ずっとこのような日々が続いていくのかと思うと、正直、うんざりしてしまうし、憂鬱な気持ちにもなってしまう。

 それでも耐えなければならないところなのだが、ある日、いよいよ我慢ならなくなった。


 一念発起。


 スフィーダは現状を打破すべく、ヨシュアに相談事を持ち掛けることにした。


「のぅ、ヨシュアよ」

「なんでございましょう?」

「わしは仕事をしようと思うぞ」

「常に玉座の上にいることが、陛下のお仕事でございます」

「それには飽きたと言っておる」


 スフィーダはぷんすこ、頬を膨らませた。

 なにが気に入らないということはないのだが、そんな瞬間もあるということだ。


「ということはです、陛下。自らを象徴としていることを解こうと?」

「そうじゃ。思い切って、そうしたいのじゃ」

「本気でそうお考えに?」

「ダ、ダメかの?」


 うーん。

 そういった具合に、顎に右手を当てたヨシュアである。


「具体的には、どういった仕事をされたいのですか?」

「もっとヒトと接したいぞ」

「ふむ……」

「や、やはり、いかんかの? たとえば謁見の場を設けてもらうだけでよいのじゃが……」

「可能か不可能かで言えば、可能でしょう」

「おっ、そうなのか?」

「あまりお待ちになりたくはない?」

「もちろんじゃ」

「承知いたしました。調整いたします」

「具体的には、なにをするのじゃ?」

「説明を始めると長くなります。まあ、お任せくださいませ」

「あいわかった。よろしく頼むぞ」




       ◆◆◆


 十日が過ぎたところで、結果が出た。

 オッケーらしい。

 謁見者についてはヨシュアが選定するとのこと。


 その旨を聞かされ、スフィーダは喜びのあまり玉座の上に立って万歳をした。


「やった、やった、やったのじゃ。言ってみるものなのじゃ!」

「陛下、玉座の上での起立はお控えください」

「いつからじゃ、いつからじゃ? いつから面会できるようになるのじゃ?」

「陛下に謁見できる。その旨を国民に周知いたしますので、一週間、お待ちください」

「たくさん、希望者が出てくるとよいのぅ」

「出てくることと存じます」

「おぉっ、そうか? そうなのか?」

「陛下はそのかわいらしいお姿から、たいへん人気がございますから」

「かわいらしいとか抜かすな。照れるではないか、ふはははは」

「しかし、私個人といたしましては、陛下のことをいささか見損ないました」

「な、なぬっ! なな、なぜじゃ? どうしてじゃ!?」


 相も変わらず玉座の上に立ったままでいるスフィーダは、少々びっくりして目を白黒させた。


「一度決めたことをおやめになってしまわれたからです」

「そ、それは要するに……」

「はい。自分を象徴としたのでございましょう? 必要な公務以外はなにもしないとお決めになったのでございましょう? なのに、ブレブレではありませんか」

「ブ、ブレブレとまで言うのか、おまえは」

「本当に見損ないました」

「ぐ、ぐぬっ……。それは……すまんかった……」

「冗談でございます」

「じょじょ、冗談?」

「はい。陛下を蔑むなど、私はいたしません。いつだって尊重いたします」

「タ、タチの悪い冗談を出し抜けに食らわせるでない」

「陛下の困った顔が見たかったのでございます」


 スフィーダ、玉座からおりて、のっぽなヨシュアの前に立ち、小憎らしいことを言った彼の胸を、ぽかぽかと叩いたのだった。


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