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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第196話 説教。

       ◆◆◆


 穏やかで物静かで優しそうなニンゲンだ。


 その男は握手がしたいと言った。

 だからスフィーダは、彼を自らのほうへと招いた。


 スフィーダは玉座から腰を上げ、立って男を迎えた。


 するとだ。


 いきなり、男はズボンのポケットから小さなナイフを取り出し、襲い掛かってきた。


 目を見開くくらいしかできない。

 驚きのあまり動揺し、対応するのが遅れてしまった。

 スフィーダにとって、死を意識するのは久々のことだった。


 目を閉じる。

 唐突なことだが、潔くあるしかない。


 覚悟という言葉が頭の中を駆けめぐる。


 そんな最中に、ギィンッと金属同士がぶつかり合うような音がした。


 スフィーダは目を開ける。

 すると、彼女の目と鼻の先に、薄紫のバリアが張られていた。

 言わずもがな、ヨシュアの仕業だ。

 まったくといっていいほど隙を見せないことについては、さすがと感心せざるを得ない。


 ヨシュアが賊の男の右手首に手刀を決め、ナイフを叩き落した。

 続いて、彼は男の首を掴み、右手一本で吊し上げた。


「あがっ、あがが、がっ!」


 ヨシュアの右腕を両手で掴み、男は苦しみに顔をゆがめる。


 大股で二歩進むと、ヨシュアは男を階段の下に投げ捨てた。


 すかさずニックスとレックスがそれぞれの腕を拘束する。

 二人は男を無理やり立たせて、向こうへと歩みを進め始めた。

 そして、彼らの姿はやがて大扉の向こうへと消えたのだった。


「ヨシュアよ、助かったぞ。わしはまるで心の準備をしておらんかったからの。あのままでは、どこかしら刺されていたはずじゃ」

「ボディチェックが甘かった。その点については謝罪します」

「次から気をつけてくれればよい」

「改善いたします。陛下」


 ヨシュアが真剣なまなざしを向けてきた。

 あるいは怖い目とも言える。


「謁見者は私が選んでいるわけですから、私にも落ち度はございます。ですが、なにより陛下には、危機感がなさすぎます」

「そうじゃろうか?」

「そうです。実際、たった今、殺されそうになったではありませんか」

「それでもわしは、悪いニンゲンなどおらぬと思って――」

「いるんですよ。悪いやからなど、いくらでも。命を狙ってくる者だっている。そのへん、肝に銘じるべきでございます」

「む、むぅぅ、しかしじゃな――」


 今度はヨシュア、呆れたように首を横に振ってみせた。


「陛下の頭の中は、お花畑なのでございますか?」

「そ、そこまで言うのか、おまえは」

「民を近づけるのはやめにいたしましょう。殺されてしまってはかないませんから」

「それはいくらなんでも大げさなのではないか?」

「一部の阿呆のせいで、陛下を危険な目に遭わせてしまった。繰り返しになりますが、私の失態でもあります。どうか近距離での接触はおやめくださいませ」

「じゃが、しかし……」

「付け加えます。自らの身を守るくらいの手段は持ち合わせておいてください。おわかりですか? 死んでしまったら、二度とフォトンに会えないんですよ?」

「そうなったら、正直、困るのじゃ……」

「言うことを聞いていただけない場合、謁見の場を設けること自体、やめにいたします」

「あ、あまりに殺生ではないか。数少ない、わしの大切な楽しみなのじゃぞ?」

「そうお考えなら、ご自分の身を第一にお考えくださいませ。魔女は何年経っても死なないのかもしれない。しかし、無敵ではない。腹でも刺されたら、為す術なく死んでしまうのですよ?」

「それでも……それでも、わしは民を信じたいのじゃ……」

「とにかくご理解くださいませ。陛下が失われては、プサルムが瓦解してしまう可能性が芽生えますので」

「瓦解、か……」

「瓦解でございます」


 瓦解。

 その言葉はとても悲しい響きをもって、スフィーダの耳を刺激した。


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