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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第191話 しつこくしてくる宝石屋。

       ◆◆◆


 日中。

 玉座の間。


 訪ねてきたのは、鼻の下と顎先のひげを丁寧に整えた中年と思しき男である。

 先々代から宝石屋を営んでいるとのこと。


 男はひときわ目を引く、がっちりとした宝箱みたいなものを右の小脇に抱えている。

 そこに話のネタが詰まっているのだろうと察し、スフィーダは率直に「その木箱の中身はなんじゃ?」と訊ねた。


「陛下、そちらに参ってもよろしいですか?」

「かまわんぞ」

「では、失礼して」


 男が短い階段を上り、やってきた。

 箱にはなにが入っているのか、実は興味津々のスフィーダである。


 男はぱかっと箱を開けた。

 中に入っていたのは、まばゆいばかりの宝石の数々だった。


「ほえぇー」


 スフィーダはその輝かしさ、きらびやかさに目を丸くする。


「凄まじく綺麗なアクセサリーばかりじゃ。どれも値が張るに違いあるまい」

「それはもう。ですが、スフィーダ様のお眼鏡にかなう品があれば、進呈したい所存です」

「そそっ、それはいかんじゃろう」

「私といたしましては、女王陛下御用達という肩書きが欲しいのでございます」

「だ、だからといってじゃな」

「どれでも差し上げます。なんでしたら、全部差し上げます」


 全部差し上げます。

 その言葉を聞いて、スフィーダのテンションはうんと下がった。


「のぅ、宝石屋よ。わしは特定の人物をひいきするわけにはわけにはいかんのじゃ。そうでなくとも、そなたの物言いはいささか下品で好かん」

「そっ、そんな!? 私は本気です。本気でスフィーダ様にものを献上したいのです」

「それはわかったが、見てわかる通り、わしはアクセサリー類はいっさいつけんのじゃ」

「だ、だとするなら、この機会にぜひっ!」

「わしは今のままでよい。なにせ元がいいからの」


 冗談を飛ばしたつもりだったのだが、宝石屋には通じなかったらしい。


「し、しかし、スフィーダ様のご着衣は、宝石類で彩られているではありませんか」

「鋭いことを言いよるな。じゃが、わしは今あるドレス以外で着飾ろうとは考えておらぬ」

「税金で食べさせてもらっている。だからなのですか?」

「ま、まっすぐな言い方じゃのぅ。とはいえ、おおむね正解じゃ。国の象徴にしか過ぎん者が宝石で自らを鮮やかに見せる。そんなこと、どう考えてもご法度じゃろう?」

「ぐっ、ぐぐぐっ」

「そなたの気持ちは嬉しく思うぞ。ありがとうなのじゃ」

「で、では、ヴィノー様はいかがでいらっしゃいますか? なんでも差し上げますから、お選びいただけませんか?」

「今度は私ですか」

「大将閣下御用達でもかまいません」


 本当に、品のないことをのたまう男だ。


 ヨシュアは毅然とした態度で「お断りします」と短く告げた。


「な、なぜ、どうして?!」

「私は宝石アレルギーなんですよ」

「そ、そんな話、聞いたことが――」

「お引き取り願えますか? 世間話に花を咲かせたいというのであれば別ですが」

「……帰ります」

「お気をつけて」


 とぼとぼとした歩様で去りゆく宝石屋。

 その背中を見ていると、なんとも言えない悲愴感に駆られてしまう。

 だが、ダメなものはダメ。

 チャラチャラとした宝石をつけて国民の前に出ようなどとは、考えていない。


 それでも。


「ちょっと、かわいそうじゃったかの?」

「立派なご判断だったと思います。ですが」

「ですが?」

「いえ。ネックレスやブレスレットの一つや二つ、ご購入していただいてもかまわないんですよ。そんな些細なことで怒りをあらわにする国民など、いてもごく少数に過ぎないのでございますから」

「ごく少数とはいえ、いるのじゃろう? じゃったら――」

「陛下はストイックすぎます。アクセサリーで自らをより美しく見せる。それはじゅうぶんアリでございます」

「む、むぅ。そういうものか?」

「はい」

「じゃが、先ほどの者は、わし御用達の看板を掲げたいと言いよった。それはよくないことじゃろう?」

「まあ、そうでございますね」

「うーん……。んむっ、決めたぞ。やはりわしはアクセサリーはつけん。この先、一生じゃ」

「しかし、フォトンにプレゼントされるようなら、いかがですか?」

「そそっ、それはじゃな」


 スフィーダはいろいろと思考した上で、もごもごと口ごもる。

 ぽっと頬に熱を感じたりもした。


「身につけるのでございましょう?」

「う、うむ。多分、そうなる……」

「私はそれでよいと考えます。なにかの折にフォトンに言っておきましょう」

「い、いや。そこまでせんでいい」

「あれでもないこれでもない。彼がそんなふうに悩む様子が目に浮かびます。ひとたびその姿を見れば、間違いなく微笑ましく映ることでしょうね」


 フォトンがそんなことで悩むだろうか?

 しかし、その一方で、骨を折ってくれるような気がしないでもないのだ。

 もし、贈ってもらえたら……。


 恐らく、それを愛の証みたいに捉えて、メチャクチャ喜ぶことだろう。


「いつかはそういった場面が訪れます。そのとき、陛下は結婚されるかもしれませんね」

「ばっ、馬鹿を言うなっ。わしには立場があるのじゃぞ」

「はたして、馬鹿な話でしょうか?」

「馬鹿な話じゃ」


 そう断言したスフィーダであるが、女としての胸の内を正直に語ると、フォトンとだったら一緒になりたいのである。

 まあ、キッチンに立ち、料理をこしらえている自分など、まったくもって想像できないのだが。


 スフィーダは苦笑する。

 なんとまあ、出しゃばりな思考か。

 自重しろという思いで、彼女は自らの頭を右の拳でぽかっと叩いた。


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