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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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182/575

第182話 一縷の望み。

       ◆◆◆


 グスタフの首都が陥落した。

 ヨシュアからそう聞かされた。

 しかし、クロエが見つかったという知らせはない。

 ないのだ……。




       ◆◆◆


 ラースが玉座の間を訪れた。

 帯剣。

 薄い装甲の、銀色の鎧を身につけている。

 相変わらず凛々しい姿だ。


 他にもう一人いる。

 ねずみ色のつなぎを着た男だ。

 後ろ手に拘束され、速く歩くよう、ラースにしきりに背を押されている。


 やがてラースは男を前のめりに転倒させた。

 右膝を使って上から背を押さえつけ、髪を掴んで顔だけ上げさせる。


 厳しい表情で、ラースは「ヴァーミリオンズと呼ばれる秘密組織のニンゲンです」と言い、「胸の朱色のバッジが、その証です」と続けた。


「ヴィノー様、まことにお話ししづらいことなのですが……」

「クロエは死んだ。その男にそうとでも聞かされましたか?」

「いいえ。そこまでは。しかし、常識的に考えると、その……」

「ええ。タイムアップといったところですね」

「……ゆるせないっ」


 声にも、そして顔にも怒りをまとわせ、ラースが男を無理やり正座させた。

 腰の鞘から剣を抜き、振りかぶる。

 首を刎ねるつもりだ。


「ラース、やめなさい」


 強い口調で、ヨシュアが待ったをかけた。


「ヴィノー様、しかしっ!」

「貴方が涙を流すことはありません。これは私の問題です」

「……くそっ」


 鞘に剣を戻したラース。


「私にとってヴィノー様は兄であり、奥様……クロエ様は姉でございます。それほどまでに慕っているのです。だからこんなこと、ゆるせるはずがない……っ」


 すると男は醜悪なまでに顔をゆがめ、「ふへっ、ふへっへっへ」と笑い。


「ヤりがいがあったぜ、いじめがいがあったぜ、クロエって女はよぉ。イイ穴してやがったなあ。拷問したらイイ声で鳴きやがったなあ。仲間も大喜びだったぜぇ、へっへっへぇ」

「過去形ですね。殺したんですか?」

「だから、ヴィノー様よぉ、生かしておく理由がないだろうが。おまえらは俺達の要求を飲まなかったんだからよぉ。ふへっへっへ」

「ラース」

「ご遺体は見つかっていません。嘘ですよ。そうに決まってる」

「だからぼうずよぉ、殺したっつってんだろうがぁ」

「黙れ!」


 ラースに左の頬をぶたれても、男は不敵な笑みを崩さない。


「……わしはもう限界じゃ」


 スフィーダは絞り出すように言った。


「ヨシュアよ、わしはこの男を殺すぞ。体中を針で貫いてやる。凍らせた上で焼いてやる。死ぬよりつらく苦しい目に遭わせてやる」

「じじっ、”慈愛の女王”がそんな真似をするのか!?」

「喜んでやってやるぞ。そなたのようなゲスが相手ならな」


 玉座から立ち上がったスフィーダ。

 だが、前に踏み出そうとしたところで、彼女はヨシュアに「陛下、お座りくださいませ」と、たしなめられた。


「そうじゃな。おまえが好きに殺したほうがよい」

「いえ。そういうことではなく」

「だったらなんじゃ? なぜ、わしを止める?」


 顎に右手をやり、ヨシュアは「ヴァーミリオンズの貴方」と至極フツウの口調で呼び掛けた。


「な、なんだよ?」

「名前は? なんというんですか?」

「そんなの、答える必要は――」

「答えなさい」

「ナ、ナダルだ」

「ナダルさん、私は貴方のことを、解放してもいいと考えています」

「はっ、はぁっ? ヨシュアよ、おまえはなにを言っておるか!」

「そうです、ヴィノー様! この男は百回殺しても足りません!」

「陛下、それにラースも、冷静になってください。ナダルさん」

「な、なんだよ」

「解放するにあたって、一つ条件を挙げます。私をクロエのもとまで案内してください。死体でもかまいませんよ」

「そっ、それは……」

「おや? なにか案内できない理由でもあるんですか?」

「……くそっ」

「ええ。話してください」

「おまえの女房は仲間が別の場所に移した。以降のことは、俺は知らない」

「本当ですね?」

「あ、ああ。さあ、ちゃんと話したぜ。だから解放して――」

「阿呆ですか、貴方は」

「あ、あ、阿呆?!」

「そうです。阿呆です」


 ヨシュアが玉座のかたわらを離れ、階段を下りた。

 彼の体で隠れてしまっているのでなにも見えなかったが、ナダルという男はまもなくして、赤絨毯の上にどっと横倒しになった。

 なんらかの魔法を使い、心臓を一突きにでもしたのだろう。


 スフィーダが小さな声で「ヨシュア……」と発すると、彼は「ケイオス・タール。彼の働きに期待します」とだけ述べたのだった。


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