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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第177話 成長する魔法使い?

       ◆◆◆


 夜。

 城内の小さな会議室。


 スフィーダは木の椅子にクッションを置き、その上によいしょと腰掛けた。

 ヨシュアは彼女の正面の席につく。


「思っていたより数が多い。そんなところでございます」


 別に困った様子を見せるでもなく、ヨシュアはさらりとそう言った。


「以前、ラースが国民皆兵をうたっていると言っておったな」

「はい。ですが、先述しました通り、数が多いというだけでございます」

「素人が多くを占めるということか?」

「だからこそ、殺めるのは気が引ける、と」

「それが現地からの報告なのじゃな?」

「さようにございます」


 スフィーダは前髪を掻き上げつつ、吐息をついた。


「うまいこと、降伏を促すことはできんのか?」

「それが可能であれば、すでにやっています。グスタフの指導者のことはご存じですか?」

「ヘルゲ・ラマという老人じゃろう?」

「もう八十二歳だそうです。その年齢にして野心があり、権力にしがみつき、果ては国民の命を平気で危険に晒す。ゆるせず、またゆるされない人物です」

「こっちは以前のことは水に流してもよいと言っておるわけじゃ。なのに、どうして……」

「ですから、それはヘルゲ・ラマ氏の裁量に原因があります」

「会えんか? わしが説得を試みることはナシか?」

「ナシではありませんが、無駄だとわかっています」

「やはりそうなのか……」


 俯き加減で、ゆるゆると首を横に振ったスフィーダ。

 しかし、嘆いてばかりではいけないと思い直し。


「本件を預かっているのは、依然リンドブルムなのか?」

「彼と本人のリクエストもあって、エヴァ・クレイヴァー少佐を参戦させています。メンタルにはまだまだ問題がありますが、彼女はこと戦闘においては有能です。上役の命令も聞くようになってきました。よい傾向と言えます」

「新しいフォトンの部隊は?」

「彼らを使うまでもありません」

「やはり、それほどまでにグスタフはチョロいのか」

「チョロいですね」

「事がうまく運ぶとよいのぅ」

「今回はリスクが少ない。問題はないと踏んでいます」

「じゃが、そういうときに限って、のっぴきならない状況に陥ったりするものなのじゃ」

「経験則でございますか?」

「うむ」

「であれば、少し心配になってきますね」

「じゃろう?」

「はい。陛下の勘は本当によく当たりますから」




       ◆◆◆


 次の日の夜。


 玉座のそばに設けさせた白いテーブルにて食事をとっている最中に、赤絨毯の上に飴色の筒、すなわち移送法陣が発生した。


 その気配を察知したのだろう。

 スフィーダの正面に座っているヨシュアが素早く立ち上がった。

 彼は身を翻す。

 筒の中から誰が現れるのかを確かめるためだ。


 飴色の筒はやがて空気に溶けるようにして色を失った。

 登場した人物。

 それはエヴァ・クレイヴァーだった。

 黒い軍服姿ではあるものの、今日も着衣の丈が短い。

 へそが見え、太ももはむき出しだ。


 スフィーダは首に掛けていたナプキンを取り払い、腰を上げ、ヨシュアの隣に立った。

 彼はやれやれとでも言わんばかりに、首を横に振ってみせた。


「エヴァ・クレイヴァー少佐。何度言えばわかるんですか。移送法陣を使って玉座の間に現れるな。その旨は口酸っぱく告げているはずです」


 ヨシュアにそう咎められても、エヴァに反省の色はない。

 むしろニコニコ笑いつつ駆け、スフィーダらの目の前までやってきた。


 エヴァは「できることが多くなったの!」と言い、さらには「やっぱり私、魔法がうまくなってる!」と声を弾ませた。


 当然、眉間にしわを寄せたヨシュアである。


「気のせいでは?」

「そんなんじゃないわよ。できなかったことができるようになったって言ってるの」

「それは以前にも伺った覚えがありますが、今回の場合は? なにができたんですか?」

「黄金色の光の雨。シンプルで一般的な魔法だけど、その攻撃範囲がメチャクチャ広がったのよ!」

「気のせいでは?」

「閣下はそれしか言えないの?」

「前にも言いました。魔法が達者になるケースなど聞いたことがない、と」

「だったらやっぱり私は特別なのよ! やったーっ!」


 エヴァは右手を突き上げ、ぴょんと跳ねた。


「ひょっとしたら、閣下に追いつけるかもしれない。スゴい、スゴい! 予感が確信に変わったのよ! どう? こんなに嬉しいことって他にある?」

「そんなことを報告するために、戻ってきたんですか?」

「うん。ダメ?」

「現地に戻りなさい。移送法陣の使用を許可しますから」

「晩御飯、食べていってもいい? あと、観たいミュージカルがあるの」

「夕食は、まあいいでしょう。しかし、ミュージカルは今度にしなさい」

「あー、嬉しい、超嬉しいっ! 私は成長する魔法使いなのよ!」


 そして、お尻を振り振り、玉座の間から立ち去ったエヴァ。


 スフィーダはヨシュアに、「後天的に魔法がうまくなる。そんなこと、あり得るのじゃろうか?」と話し掛けた。


「現状ではなんとも。しかし、それがヒトの可能性なのだとしたら……」

「なにか困ることでもあるのか?」

「ダインのことでございます」

「彼奴がどうかしたか?」

「ダイン魔女とヒトとの混血とされています。エヴァ・クレイヴァーの例を要素として加えると、あるいは、ダインは魔女をも超える存在なのかもしれない」

「その点についての議論は、以前からあったじゃろう? じゃから、フォトンめは意を決してダインを討とうとした」

「慧眼なのかもしれませんね」

「フォトンがか?」

「はい」

「どうあれ、ダインとぶつかるのはわしじゃ。任せておけ」

「お断りいたします」

「な、なぬっ?」

「申し上げました。ダインは魔女をも上回る存在かもしれないと。そうである以上、お任せすることはできません。陛下の代わりはいないのでございます」

「じゃ、じゃが、それは恐らくわしにしかできん芸当で――」

「問答は無用です。陛下の命を守るために、私どもはいる。その旨、ゆめゆめ忘れないでくださいませ」


 ヨシュアがあまりに真剣な目を向けてくるものだから、スフィーダは少し身を引いてしまった。


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