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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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176/575

第176話 十七歳コンビの参戦。

       ◆◆◆


「ぶっちゃけ、暇してたッスよ」


 片膝をつき、礼を尽くした姿勢でそう言ったのはピットだ。

 そう。

 礼は尽くしている。

 だがしかし、言葉遣いがえらくぶっきらぼうすぎるからだろう。

 彼は並びにいるミカエラに、左の肩をどつかれたのだった。


「い、いてーよ、ミカ。なにしやがる」

「ピット、私はね、アンタの教育にわざわざ時間を割いてあげてるの。せいぜい、感謝しな」

「んなもん、要らねーよ」

「スフィーダ様とヴィノー閣下だからゆるしてもらえるんだよ。フツウなら業火に焼かれていたっておかしくない」

「ごっ、業火って、そこまで大げさな話でもねーだろ?」

「とにかく黙ってな。あとの話はあたしがするから」

「で、でもよぅ」

「黙ってな」

「……はい」


 スフィーダは声を上げて笑った。

 尻に敷かれるという言葉があるが、まさにその通りではないか。


 ともあれ。


「ミカエラ、それにピットよ、今日はどうしてやってきたのじゃ?」

「お二人の顔を見たかったんです。ダメですか?」

「ダメではない。そなたは本当に肝が据わっておるのぅ」

「気まぐれに訪ねてきたのに、その都度、通していただいていることについては感謝のしようがありません」


 スフィーダは左方を見上げた。

 ヨシュアは「ふふ」と笑ってみせた。


「あなた達二人は私のお気に入りですからね。多少のわがままくらい、受け容れますよ」

「閣下」

「はい」

「グスタフを仕留めるにあたってご採用いただいた旨、ありがたく思います」

「あなた方は凄腕です」

「そうですか?」

「ええ。私は認めています。そこで」

「そこで?」

「英才教育を施したいと考えています」

「それって、ヒトに使われるのではなく、ヒトを使う立場になれってことですか?」

「ええ。察しがいいですね」

「申し訳ありませんけど、お断りしたいです」

「わかっていますよ」

「えっ?」

「言ってみただけ。そういうことです。最前線で戦いなさい。くれぐれも、悔いだけは残さないように」


 ミカエラとピットは目を輝かせて、「はいっ!」と大きな返事をした。

 ヨシュアは適材適所がわかっている。

 だからこそ、大将閣下なのだろうが。


「両少尉に伺います。戦況を知りたいですか?」


 必要ありません。

 そう答えたのは、やはりミカエラだ。


「報道にある通り、今のところ、なんの障害もないんですよね?」

「ないですね」

「だったら、根っこを削ぎ落とすだけです」

「我が国の方針は、知っていますか?」

「一旦、グスタフを占領地とするとかなんとか」

「その通りです。何年先になるかはわかりませんが、いずれはハインドに任せます」

「ヒトがよすぎる行いのように思えますけれど」

「それでいいんですよ」

「閣下がおっしゃるのなら、まあ」

「私の考えである前にセラー首相の意向なんですがね。他になにか質問は?」

「一応、伺っておきたいことがあります」

「それは?」

「グスタフにはいまだ、魔法使いがいるんですか?」

「いい質問です。確固たる情報は得られていません。しかし、当然、いると考えて事にあたるべきです。異論はありますか?」

「疑問も異論もありませんけれど、一方的になっちゃったら、嫌だな、って」

「ミカエラ少尉。言っておきます。そんな甘さを持っていては、いつかやられてしまいますよ」


 ミカエラはらしくもなく目を見開き、それから俯いた。

 ヨシュアは相手の図星、意表を突くのがうまい。


「申し訳ありません」


 絞り出すようにしてそう言うあたりが、またミカエラらしくない。


「いいんですよ」


 ヨシュアに優しくそう言われ、ようやっと顔を上げたミカエラ。

 キリッと締まった表情をしている


「全力でやります。無論、市民への被害は最小限に抑えた上で」

「貴女の気概は素晴らしい。尊敬に値します」

「本件を預かるのは、リンドブルム中将なんですよね?」

「なにか問題が?」

「以前、尻を触られた覚えがあります。セクハラです。処分してください」

「本気で言っているんですか?」

「いいえ。冗談です。まあなんというか、がんばれと叩かれただけですから」

「リンドブルム中将は、我が軍に欠かせない人物です。彼にも認めてもらえるよう、気合いを入れて事に臨みなさい」

「本当に、いよいよ本腰を入れるんですね」

「グスタフを潰してしまえば、我が国にとっての脅威が一つなくなる。大切なことです」

「くどいようですが、やっちゃいます」

「ええ。やっちゃってください。二人とも、立ちなさい」


 ピットとミカエラは、「はっ!」と返事をし、立ち上がった。


「どう考えてもこちらが有利な戦争です。だからこそ、気を引き締めて掛かるように」


 ヨシュア・ヴィノーとは、まこと不思議な男だ。

 静かなのに、力強い。

 厳しいのに、優しい。

 だからなにを言っても、説得力がある。


 稀代の天才。

 そうであることは、否定しようがないのだ。


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