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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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175/575

第175話 自死へと向かう国。

       ◆◆◆


 ハインドの首脳を含めた代表団がプサルムを訪れたのに合わせ、早速、会談の場が設けられた。

 純白のクロスが敷かれた長いテーブルを挟んで、両国の政府関係者が向かい合っている。


 先方の首相が口を開く。

 名はザカリヤ・ウォー。

 ロマンスグレーのナイスミドルである。


「ビーンシィがグスタフから急襲を受ける。そのケースは想定していたと述べても差し支えがない。むしろ、これは好機であるくらいに考えています」


 すると、プサルムの首相、アーノルド・セラーが「でしょうね」と頷き、「そう解釈されるのもわかります」と続けた。


 プサルムの北方には、西からハインド、ビーンシィ、グスタフと、三国が並んでいる。


 ビーンシィは一度、グスタフの軍門に降った。

 しかし、占領されていた期間は短く、ハインドの手により解放された。


「私どもは右翼を自認している」

「ウォー首相。お言葉ですが、そのようなことは訊いていません」

「貴国と似たような政権運営だと考え、その旨、申し上げただけです」

「確かに、私も右寄りなことには自覚的ですが。それで?」

「みなで話し合いました。グスタフを攻め取ってやろう。そう判断しました」

「国民の支持は?」

「正しいことをすれば、それはあとからついてくる」

「多少、乱暴な言い方に聞こえますね」

「事実を申し上げたまでです」


 なるほど。

 ザカリヤとは力強い男だなと感じさせられた。

 周りからなにを言われようが、一度決めたことは完遂する。

 そんな意気込みが、ひしひしと伝わってくる。


 アーノルドが「だいぶん端折って申し上げますが、要するに支援要請ということですね?」と訊ねた。


「グスタフを落とせるとは考えています。しかし、我がハインドの国力では戦後処理がままなりません。経済的な格差を埋めることができない。その点を踏まえ、ご一考いただきたく存じます」

「かの国を一度さっぱりさせ、生まれ変わらせたいというご方針は理解しました。こういう場合、手を取り合ってもよい、いや、手を取り合うべきだと考えます。隣国のことなのですから、見て見ぬふりはできません。わかりました。まずは速やかに派兵できるよう、調整します」

「お手を煩わせてしまい、まことに申し訳ありません」

「貴国とはこの先、もっと密に連携をとりたいと考えます。こちらこそ、よろしくお願いします」


 両者とも立ち上がり、テーブル越しに握手を交わしたのだった。




       ◆◆◆


 会談後、ランチタイムがあり、さらにそのあとの話である。


 ハインドの代表の一人として訪れたラースを、スフィーダはお茶に誘った。

 玉座のそばに設けさせたテーブルにおいて、彼と向き合っている。

 彼女の左隣にはヨシュアの姿もある。


 相変わらず、ラースの顔立ちは美しい。

 まだ十七歳ながらも、匂い立つような色っぽさを漂わせている稀な美男である。

 一軍人にしておくのはもったないように思えるのは、気のせいではないだろう。


「ラースよ、そなたとはつくづく縁があるように感じておる」

「私もです。光栄なことです」

「グスタフに攻め入られた旨はわしも聞いたが、戦況はどうなのじゃ?」


 ラースはカップをソーサーに置くと、「現状、五分五分です」と答えた。


「ほぅ。互角なのか」

「グスタフの兵はまるで火の玉のようです。死ぬことを恐れていないように見受けられます」

「洗脳かなにか、そのような処置を施されたのかのぅ」

「それに近いものがあると、私は捉えています」

「じゃが、我が軍に南から攻め上がられれば、にっちもさっちもいかなくなるじゃろう」

「ウォー首相もおっしゃっていましたが、たびたびの協力要請については、私も申し訳なく思っています」

「よいよい。気にするな。といっても、力を貸す貸さないは、わしが決められることではないがの。しかし、重ねてになるが、グスタフは愚かな真似をしたものじゃ。自らが蛮行に走れば、このような事態になることは目に見えていたじゃろうに」


 ラースは「ええ」答えた。

 それから苦笑じみた表情を浮かべてみせた。

 現状にはあまり納得していないように見える。


「先方との会談は、数度、執り行われたんです。しかし、何回やろうと結果は芳しくありませんでした」

「独裁国家という体制。ザカリヤを始めとするハインド政府は、その維持を認めなかったのじゃろう?」

「その通りです」

「グスタフの民は飢えに苦しんでいると聞く。じゃが、食糧支援の要請すらないらしい。じゃろう? ヨシュアよ」

「はい。まったくございません。今回起こした行動を含め、かの国は間違いなく滅びの道を歩んでいます」

「先達て、魔物どもと激しいいくさを繰り広げたばかりじゃ。次はスムーズに解決できるとよいのぅ」

「あっ」

「むっ。どうした?」

「いえ。魔物の王を倒したのは、スフィーダ様だと耳にしたものですから」

「そうじゃが、それがどうかしたか?」

「魔物は我が国にも押し寄せました。なんとか撃退できましたが、ヒトよりずっと強かった。そんな種族、民族の王を討ち取るなんて、スフィーダ様はやっぱりスゴいなって」

「ハッハッハ。そうじゃろう、そうじゃろう。こう見えても、一応、魔女じゃからの。じゃが、腕相撲ならそなたにだって負けてしまうぞ?」

「そうなんですよね」


 おかしそうにクスクス笑ったラース。


「それにしても、プサルムの紅茶はおいしいですね。みやげに買って帰ろうと思います」

「どこかの誰かさんはまずいと連呼しておるがの」

「どなたですか?」

「名を呼ぶことすら腹立たしいから黙秘する」


 スフィーダは右手の人差し指を唇に当てた。

 ウインクなんてしてみせてやると、ラースはまた上品に笑ったのだった。


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