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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第171話 マキエ・カタセのカタオモイ。

       ◆◆◆


「午後一発目は、まだ十八の女性でございます」

「おぉっ。おまえが事前に謁見者のことを教えてくれるとは珍しいのぅ。して、何用なのじゃ?」

「そこまでは聞いておりません」

「ふむ。では、楽しみに待つこととさせてもらおう」


 そのうち、ずっと向こうにある大扉が開いた。


 双子の近衛兵、ニックスとレックスに挟まれ歩んでくるのは、タイトな黒い着衣に身を包んだ、比較的小柄なおなである。

 黒い着衣とは軍服である。

 十八にして軍人。

 その事実を目の当たりにして、スフィーダは少なからず感動した。

 若くして国のことを思い、職を選んだに違いないのだから。


 肩先までの真っ黒な髪に切れ長の目。

 すっと通った鼻筋。

 薄くて小さな唇には愛嬌がある。


 その女子は、所定の位置で片膝をついた。

 こうべを垂れ、静かだがよく通る声で「マキエ・カタセと申します」と名乗ってみせた。


 マキエ・カタセ。


 いい名前だなと感じるとともに、疑問が浮かんだ。


「独特な名じゃの。ひょっとして、そなたは」

「はい。ルーツはカナデ王国です」


 スフィーダ、納得。


「先達てのことは、不幸な事件じゃった」


 緑の魔物らの手によってカナデの地が蹂躙されたことを指して、スフィーダはそう言った。


 するとマキエは「割り切っています」と述べた。

 どっしりと腰の据わった物言いは、評価に値する。


「遅くなってしまった。マキエ、おもてを上げよ」

「はっ」


 マキエは顔を見せてくれた。

 やはり目つきは少々鋭い。

 だが、見ようによっては優しさ、あるいは幼さをふんだんに含んだ瞳にも見えるのだ。

 不思議なものである。


「まずは椅子に腰掛けてほしいのじゃ」

「失礼いたします」


 マキエはお行儀よく席についた。


「して、マキエはどうしてわしを訪ねてきたのじゃ?」

「えっと、それはですね……」

「ん?」


 マキエの態度が一変、急にもじもじし始めたことから、その様子について、スフィーダは不思議に思った次第である。


「な、なにか、のっぴきならない状況にあったりするのか?」


 なぜだろう。

 訊くに際し、どもってしまった。


 マキエは切実そうなまなざしを向けてくる。

 本当に、これまでの雰囲気とはまるで違っているので、スフィーダ、怪訝に思うしかないのである。


「あ、あのっ!」

「ななっ、なんじゃ?」

「じ、実は私……」

「う、うむ、うむっ」

「あろうことか、上司に恋をしてしまったのです」

「こ、恋? じょじょっ、上司?」

「私はフォトン・メルドー少佐の部隊に採用していただきました」

「お、おぉっ。それはスゴいことではないか」

「はい。プサルム最強とされる部隊。それに参加できることになり、喜んだことは言うまでもないのです」

「そうじゃろうのぅ」


 しかし、と思うスフィーダ。

 上司に恋?

 それってすなわち、フォトンに惚れてしまったということではないか。


 フォトンにとって、自分は特別な存在であると信じてはいるが、ライバルが増えてしまうのは、正直、あまり面白いこととは言えないのである。

 よってスフィーダ、少し眉根にしわを寄せてしまうのである。

 しかし、こういったシチュエーションにおいても、しっかりとした対応を見せなければならない。

 一人の女でもあるが、それ以前に女王陛下なのだから。


「フォ、フォトン・メルドー少佐は確かに魅力的な男じゃと思う。そなたが想いを寄せるのも無理はな――」

「えっ」

「えっ?」

「私が好きになってしまったのは、フォトン少佐ではないのです」

「で、では、誰だというのじゃ?」

「ヴァレリア大尉なのです」

「ヴァ、ヴァレリア?!」

「いけないのですか?」

「い、いや。そんなことはない。そんなことはないぞ」


 上目遣いでスフィーダのことを見てから、マキエは頬を赤らめた。


「大尉はスゴいのです。とても強いのに、とても優しくて、とてもとても部下のことを思いやってくださるのです。ああ、こういうヒトがヒトの上に立つヒトなのだなと、日々、強く感じさせられているのです」

「まあ、上司としては最高かもしれんの。先のいくさにて部隊を壊滅に追い込まれた際にも言っておった。家族を失った、とな」

「やっぱり、素敵な方なのですね」

「そなたもすでにヴァレリアにとっては家族なのじゃと思うぞ?」

「でも、私が求めているのは、そういうのではなくて……」

「な、なにか不満があるのか?」

「私は、もっとこう、大尉に近くありたいのです。もっと言ってしまうと」


 先を紡ぐのがよほど恥ずかしいのか、マキエは顔を両手で覆ってしまった。


「もっとその……なんだというのじゃ?」

「もっとこう、大切にされたいというか、もっとこう、肌に触れたいというか、エッチなことがしたいのですっ」

「エ、エッチなことがしたい?!」


 顔を覆っていた両手を、案外、思い切りよく解いたマキエ。


「大事にしていただきたいのです、とにかく大事にっ」

「しし、しかしじゃな、わしが知る限り、ヴァレリアはその、フォトンのことを……」

「愛していらっしゃるのですよね?」

「知っておったのか」

「見ていればわかるのです」

「ま、まあ、そうかもしれんの」

「うぉぉぉぉ……」

「ななっ、なんじゃ? なんの声じゃ。そして、急に頭を抱えてどうしたのじゃ?」

「苦しみの呻き声と苦しみのポーズなのですよ」

「く、苦しんでおるのか?」

「そうなのです。うぉぉぉぉ……」

「じゃ、じゃが、ヴァレリアは……うーん、なんというかのぅ……」


 不敵かつなにをしでかすかわからないところのあるヴァレリアだ。

 となると、戯れにマキエにあれこれしてしまうかもしれない。

 その場面を想像すると、頬が熱くなってしまう。


「でも」

「で、でも?」

「しっかり働かないことには話にならないと思うのです。大尉への気持ちはずっと続く予感がしています。ですけど、今の私は、あのフォトン・メルドー少佐の部下なのです。採っていただいたのです。抜擢していただいたのです。がんばるしかありませんし、がんばりたいのです」


 力強い言葉を耳にして、スフィーダは思わずうるっとしてしまうのである。

 このへんが、年をとった証左なのである。

 とにかく涙腺が緩いのである。


「がんばるしかない。がんばりたいと考えている。だったら誰よりもがんばるのじゃ。そなたの未来は、きっと明るいぞ」

「ありがとうございます。ホッとしたのです。気持ちが楽になったのです。謁見を申し込んで、本当によかったのです」


 ニッコリと笑んだマキエ。

 まこと、愛らしい笑顔だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「苦しみの呻き声と苦しみのポーズなのですよ」 マキエちゃん、かわいい! がんばれと応援してくなってしまいました♪
[一言] 最近の割烹コメントで『評判良くない……』みたいなことを仰ってましたが、最近の更新分がなんだかオトナな内容(笑)ばかりだから好みが別れているのかも……と少し思いました。 別に問題とは思ってませ…
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