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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第159話 評論家。

      ◆◆◆


 珍しく、ヨシュアが謁見者の情報を事前に教えてくれた。

 なんでも、本日の一人目は評論家なる職を生業としているとのこと。


「評論家とは、いったいなにをするのじゃ?」

「時事問題等について、まさに評論するのでございます」

「それで稼ぎが得られるのか?」

「新聞社や雑誌社から依頼を受けて、文章をしたためるのでございますよ」

「ふむ。なるほどの。ギャラをもらって書くわけか」

「どのような印象を持たれますか?」

「評論家についてか?」

「はい」

「本当に評論するだけなのか?」

「さようでございます」

「じゃったら、ちょっと嫌な感じじゃな」

「どうしてそうお考えに?」

「はたから言うだけなら、誰にでもできるじゃろうが」

「まあ、そうでございますね」

「おまえも同じ考えではないのか?」

「さあ、どうでしょう」


 大扉が開いた。

 双子の近衛兵に挟まれ、男が赤絨毯の上を歩いてくる。

 背の低い太っちょだ。

 言っては悪いが、短足である。


 男はやがて所定の位置で立礼した。


「座ってよいぞ」

「それでは、失礼いたします」


 改めて男を観察する。

 肥えているせいもあるだろう、首が著しく短く見える。

 一応、灰色のスーツスタイルだが、あまり見映えはしない。

 髪は七三。

 目はことのほか小さい。

 年齢は四十くらいといったところではないか。


「名を聞かせてほしい」

「ラルフと申します」

「評論家じゃと聞いた」

「はい。間違いありません。ところでスフィーダ様」

「なんじゃ?」

「スフィーダ様は、評論家を卑しい職だとお思いではありませんか?」

「またいきなり答えづらいことを訊いてくるのぅ」

「そうおっしゃるということは」

「誤解せんでほしい。卑しいとまでは思っておらん」

「しかし、あまり有意義だとも思っていないわけですね?」

「正直に言うと、そうじゃ」

「わかりました。どうやらスフィーダ様は色眼鏡でものをご覧になるようだ」

「色眼鏡か。じゃが、まったく不要かというと、そうでもないと考えておるぞ?」

「評論家はいたほうがよいと?」

「うむ。ちなみに、そなたの専門はなんじゃ?」

「政治です。そして、私はどちらかというと、左翼的な立場です」

「ならば尚のこと、そなたのような存在は欠かせんじゃろう。右を自認する政府を持ち上げるメディアばかりじゃと、それはそれで気持ち悪いからの」

「今の政治は腐っています。腐り切っています」

「いきなりぶっ込んできよったな」

「支持率が高いのは、国民が現状を不満に思っていないせいです」

「それがすべてではないのか? 民がよいと考える政治であれば、支持率も高いに決まっておるじゃろうが」

「しかし、政治が変われば、もっと豊かになれるかもしれない」

「今より悪くなってしまう可能性もあるぞ?」

「陛下は現与党にできるだけ長く政権を担ってもらっていたほうが、都合がよいのでは?」

「ん? どうしてそう考えるのじゃ?」

「セラー首相は、いわゆる国粋主義者です」

「それは言いすぎではないか?」

「いいえ。間違いなくそうです。だから、女王陛下という存在をことのほか大切にしている。女王陛下に尽くすべきだと考えている節すらある」


 いやいや、そんなことはないじゃろう。

 そう反論したのだが、「いいえ。セラー首相は右に寄りすぎていますから」と否定を重ねられてしまった。


 ラルフの言葉には、いちいち棘があるように感じられる。

 しかしスフィーダ、別になんとも思わない。

 むしろ、次はなにを言ってくるのか、その点に彼女は興味を抱くのである。


「自らは国民の支持を得ている。スフィーダ様はそうお考えではありませんか?」

「支持されているとまでは言わん。じゃが、嫌われているわけでもないと考えておる」

「スフィーダ様は単にお美しいから人気があるというだけです。心から慕われているわけではありません」

「きっぱり言ってくれるのぅ」

「私は女王制には反対です」

「なぜじゃ?」

「国民主権を蔑ろにしかねない要素だからです」

「あくまでも、わしは国の象徴という立場でしかないのじゃぞ?」

「しかし、陛下のお言葉に力があることは事実です」

「政治的な発言などしたことがない」

「私は未来のことを言っているのです」

「ああ、なんとなくわかってきたぞ」

「なにがわかったのですか?」

「ラルフよ、そなたはわざとわしを怒らせようとしているじゃろう?」

「そんなことをして、私になんの得が?」

「わしを狭量な者として評論を書けば、そこそこ反響があるのではないか?」


 ラルフが睨みつけるような目つきで見つめてくる。

 なにも言うことなく見つめてくる。


 スフィーダは「図星か」と言って微笑んだ。


「残念か? わしが罠に引っ掛からんかったことが」

「評論家という職を蔑まれたことは事実です」

「好きなように書くがよい。要は国民がそれをどう受け取るか、じゃ」

「私のやろうとしていることは、ある種のアジテーションだと?」

「否。そなたは、ただヒトを悪く言いたいだけのひねくれ者じゃろう?」

「それは暴言です」

「自覚的に言っておる」

「わかりました。もうじゅうぶんです。帰らせていただきます」

「あいわかった。どんな記事が躍るのか、楽しみにしておるぞ」




       ◆◆◆


 後日の朝。

 仕事が始まる前の時間帯。


 玉座の上にてスタンバっていると、ヨシュアが雑誌を手にやってきた。

 なんでも、先日、謁見したことを元にして書かれたラルフの評論が掲載されているらしい。


 問題のページをめくり、目を通す。

 スフィーダは声を上げて笑った。

 自分のことが、ぼろくそに書かれていたからだ。

 あることないことを言い募っているだけの、読む価値すらない文章だった。


「昨日、出版社の前はクレーマーであふれたそうでございます。あのラルフという評論家は、以降の仕事を失うことになるでしょうね」

「いや。潔く女王制反対をうたうことで、いよいよ左派論者としての地位を確立するかもしれんぞ?」

「なんにせよ、陛下は大正義だということです」

「大正義?」

「かわいらしいお姿。優しいお心。誰も嫌いようがないのでございますよ」

「ふはははは。まあ、稀に見る美幼女であることは誰にも否定しようがないであろうな。という冗談はさておきじゃ、今回の一件で得た確かな知見がある」

「知見ですか」

「うむ。たとえば、わしに子ができたとする。息子でも娘でもどちらでもよいが、我が子にということであれば、必ず言って聞かせるぞ」

「なんと言って聞かせるのでございますか?」

「評論家にだけはなるな」

「説得力がございますね」


 ヨシュアはにこりと笑んで見せた。


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