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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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153/575

第153話 私は私をゆるせない。

       ◆◆◆


 ひとまず、宮殿内の玉座の間へと戻った。

 赤絨毯の上にはヨシュアの姿。

 肘を抱えて立っており、スフィーダを見るとにこりと笑う。


 スフィーダはヨシュアに近づきつつ「敵は? 仕留めたのか?」と訊ねた。

 彼女が足を止めたところで「もちろんです」という答えが返ってきた。

 彼はケガを負っていない。

 着衣の乱れすらない。

 やはり稀代の天才だ。

 ミレイなる魔物ものけっして弱い者ではなかっただろうに。


「フォトンのほうは、どうなったのじゃ?」

「サーシェスでしたか。見事に叩き落としてみせました。その後、素早く転身したことから考えるに、ヴァレリア大尉と合流して殲滅戦に加わるつもりなのでしょう」

「まったく、血の気が多いのぅ」

「血の気が多いというより、大尉のことが心配なのでは?」

「だとしたら少し妬けるぞ」

「まあ、フォトンの場合、どうあれ戦闘的であってくれたほうが助かります。元気が一番というヤツでございますよ。それにしても、やはり一対一の各個撃破を選択してよかったですね。ええ。より確実な手段と言えた」

「おまえとフォトンが組めば、なんとかなったかもしれんがの」

「本音ですか?」

「うむ。よくよく考えてみれば、おまえ達が揃えば怖い者なしじゃろう」

「もったいなきお言葉」

「よいよい」


 スフィーダは両手を突き上げ、伸びをした。

 なんだか、体がだるい。

 なまっているなあと、彼女は感じた。


 ヨシュアが言う。


「これでようやく、くだんの術者の話をすることができるようになりました」

「残りは二人じゃったか」

「はい。この地はじき、我が軍が占領するわけですから、そうなったら必然的に見つかることでしょう」

「となると、あとはユメルのことか」

「ユメル様はご存命だと?」

「正直に言え。おまえはどう解釈しておる?」

「恐らく、陛下と同じ考えだと思います」


 スフィーダは目を閉じ、ゆるゆると首を横に振った。

 彼女は正直、嘆いている。

 あまりにつらい想像が頭を駆けめぐるからだ。


「いるとしたら、この宮殿内じゃろうからな。探すぞ」

「御意にございます」




       ◆◆◆


 玉座の間の同階にある広い部屋、私室と思しき一室に、ユメルはいた。

 肌が透けるほどに薄い白のネグリジェ姿で、大きな丸いベッドの端に腰掛けていた。

 スフィーダのほうを見て、彼女は穏やかに微笑してみせた。


 ユメルは言った。


「きっと来てくださるだろうと思っていました」


 ユメルに近づく。

 彼女を一メートルほど先に見据えたところで、スフィーダは笑ってみせた。


「ユメルよ、健在でなによりじゃ。しかし、遅くなってしまい、悪かった」

「窓から戦いの様子を見ていました。やっぱり、スフィーダ様はスゴいです」

「鮮やかな手並みじゃったろう?」

「はい。スフィーダ様」

「ん?」

「私を殺してください」


 いきなりそんなふうに頼まれても、驚かなかった。

 ユメルならそう言うだろうと予測していたからだ。


 スフィーダはやりきれなさに顔をゆがめた。


「ユメル、やはり、そなたは……」

「アバという魔物に犯されました。一日中、犯され続けたこともありました。子種を宿していることは、まず間違いありません。それがわかるんです」

「そう考えているなら、自死するという選択肢もあったはずじゃ。しかし、そなたはそれをせんかった。生きたいと希望を持っていたからではないのか?」

「国民の命とは引き換えにできなかった。それだけです」

「自殺すれば、民を殺して回ると言われていたのか?」

「はい」


 スフィーダは下唇を噛み、目を閉じた。


 ユメル。

 強い娘だ。

 大した女王だ。


「殺してください。お願いします」


 ユメルはベッドからおり、絨毯の上に両膝をついた。


「堕胎はできんのか? 多少、乱暴な手段でも可能なのであれば――」

「そういう問題ではないんです。魔物に凌辱された私を、私はゆるすことができません」

「まるっきり、不可抗力じゃろうが」

「それでも、ダメなんです」

「ユメルよ、じゃが……わしには、できぬ……」


 ぽろぽろと涙をこぼすユメル。


「ユメル様、二言はありませんか?」


 そう問うたのはヨシュアだ。


「ありません。ヴィノー様なら、私を殺してくださいますか?」

「わかりました。貴女の死は、私が背負いましょう」

「ヨシュア、おまえっ」

「陛下もご存じのはずです。綺麗事だけで済む世界などないんですよ。私達は常に本当の悲しみというものを心に留め置きつつ、前に進まなければならないんです」

「じゃからといって……」


 到底、納得することはできない。

 なのに、ヨシュアにやんわりと押しのけられ……。

 彼は開いた右手をユメルの胸に向け……。


 そして、その手から勢いよく飛び出した黄金色の槍によって、ユメルの心臓はずどんと一突きにされた。


「ご面倒をおかけしました、ヴィノー様……」


 ユメルの体がぐらりと揺らぎ、横倒しになった。

 やがて目を閉じ、安らかな死に顔を見せた。

 そんな彼女のことを、ヨシュアは横抱きに持ち上げた。


「カナデの地に埋葬しましょう。それが誠意というものです」

「……そうじゃな」


 ユメルの悔しさはわかるし、ヨシュアのつらさも理解できるから、スフィーダ、もうなにも言わなかった。

 涙も流さなかった。

 むしろ微笑し、彼女の右の頬に、右手の甲で触れた。


「立派じゃったぞ、ユメルよ……」


 そう。

 ユメルは自身のプライドゆえに死んだのだ。

 だったら、見事な散り際だったとしか言いようがないではないか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 気丈なユメルと、彼女の痛みと悔しさを受け止めたヨシュア、そして胸を痛めるスフィーダに、読み手のこちらも胸が抉られる思いでした。 できないというスフィーダも、ユメルの最期の願いを叶えるヨシュ…
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