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第152話 オベリスク。

       ◆◆◆


 力尽くで拘束から逃れ、そのせいで両の手首と両の足首を失ったオベリスク。

 彼は凄まじい勢いで、真正面から体当たりを敢行してきた。

 思い切りのいい奴だ。

 向こう見ずとも言える。

 頑健な魔物ゆえの離れ業か。


 スフィーダは素早く気を引き締め直す。

 身じろぎ一つせずに魔法を使用。

 今度はオベリスクのことを、銀色に輝く牢屋に閉じ込めてやった。


 もう逃れることはできない。

 これで最後。

 迎えるのは終幕のみ。

 

 牢の中において、四方八方から黄金色の矢が放たれる。

 その姿が見えなくなるくらい、激しく激しく攻撃する。

 最初は金属同士がぶつかり合うような高い音が鳴っていた。

 しかし、やがてそれも消えた。


 皮膚の硬化ができないほど疲弊した?

 それとも、埋めようがないほどの力の差を思い知り、諦めた?


 いずれにせよ、もはや必要はないだろうと考え、矢の発射を止めた。

 銀色の牢についても解除した。


 するとそこには、全身をズタズタにされ、あちこちの傷口から紫色の血液を流しているオベリスクの姿があったのだった。


 宙に浮いているのがやっとだろうと思い、オベリスクに近づく。

 彼は俯き加減で目を閉じ、実に静かな顔をしていた。


「魔女とは、かくも強き者であったか……」

「おまえもなかなかのものじゃったぞ」

「ミレイとサーシェスは、どうなったであろうか……」

「この期に及んで心配するのは家臣のことか?」

「余は、いつも一人だった……」


 オベリスクが問わず語りに話す。


「生を受けたときから王の宿命を背負い、生きてきた。もう千年も、生きてきた……」

「わしの半分しか生きておらんではないか。ガキんちょめが。して?」

「臣下の者達は、余を都合のよい存在だと考えていたのだろう。己らの命や居場所を守るために、余を利用していたのだろう。だが、余には彼らしかいなかった。仲間と呼べるのは、彼らしかいなかったのだ」

「寂しがり屋なのじゃな、おまえは」

「魔女よ、おまえもそうでは――」

「魔女ではあるが、スフィーダという名前がある」

「では、スフィーダよ、おまえもずっと一人ではないのか?」


 そう訊かれると、口元に苦笑が滲んだ。


「確かに、そうかもしれん。家臣や大切な者達がいても、彼らは揃ってわしより先に逝ってしまうしの。常に心を支配しているのは、実は孤独感なのかもしれん。じゃが、わしは絶望したりはせんし、後ろを振り返ったりもせんぞ。今という時間、その刹那を大切にしたいからの」

「強いな、スフィーダは……」

「そうじゃな。おまえは弱い。じゃが、どうあれ、わしとおまえは似た者同士じゃ。違う出会い方をしていれば、友達になれたかもしれんな」

「友達……?」


 顔を上げたオベリスク。


「嫌か?」

「否……。そのようなことを言ってくれるのか、スフィーダは……」

「かえすがえすになるが、おまえの気持ちはわからんくもないからの」

「さすがは”慈愛の女王”といったところか」

「その二つ名は好きではない」

「しかし、実際にそうとしか思えぬ」

「今のおまえに、わしはどのように映るのじゃ?」

「女神である」

「死神の間違いではないのか?」

「否。断じて、否」

「女神というのは、きっとじゃが、もっとこう、ボンッ、キュッ、ボンッなのじゃと思うぞ?」

「ボンッ、キュッ、ボンッ? なんだ、それは?」

「気にするな。さて、まだなにか残したいことはあるか?」

「もう、ない。最期に素晴らしい者と会えた。感謝する」


 オベリスクは少年のような外見にふさわしい、無邪気な笑みを浮かべてみせた。


 スフィーダは魔法で黒い剣を作り出し、その柄を両手で握り締める。


「少し不安じゃ。わしに首が刎ねられるかのぅ」

「子供の首である。大丈夫であろう」

「さらばじゃ。魔物の王よ」

「待て」

「なんじゃ?」

「ありがとう、スフィーダ」


 こくりと頷き、スフィーダは剣を振りかぶった。

 心の中でサヨナラを唱えながら、剣を振り抜いた。

 紫色の血液が、彼女の頬に飛び散り咲いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さまらしさがよく出ていた152話だったと思います。 オベリスクの行動原理の謎が少しわかった気がしました。スフィーダーの刹那を大切に生きるという姿勢が彼との対話によって、改めて伝わってき…
[一言] スフィーダがアッサリしてるところがいいです! やっぱり女王だなとか、2000年生きてんだな~とかあるけど…… それでも、いやだからこそ胸中複雑だと思うんですよ。普段あれだけ個人の事に心を割け…
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