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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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145/575

第145話 各位の遺族。

       ◆◆◆


 日中。

 謁見の場。


「自慢の息子でした」


 マイケル・マクレーン准将の母、ダリアは涙を見せた。

 彼の美しい金髪は、母親譲りだったようだ。


 マイケルは先達てのカナデ奪還作戦の指揮をとっていた。

 フォトンの部隊を預かる立場だった。

 いくさには勝ったが、彼が生還することはなかった。

 自らの力量を顧みず先頭に立った結果、戦死した。

 ヨシュアからはそう聞かされている。


「二十五の若さにして准将だったわけじゃ。優秀だったのは間違いない」

「ですが、特別ではなかったのだと思います」

「特別? どういうことじゃ?」

「ヴィノー様のような名高い方と比べると、やはり見劣りしてしまったのだろう、と……」


 否定のしようがない意見だ。

 だからといって、「うむ。そうじゃな」などと肯定するわけにもいかない。

 こんなふうに返答に窮したとき、うまいことあいだをつないでくれるのがヨシュアであるわけだが、あいにく今、彼はいない。

 今日も西の国境で、防衛の最前線に立っている。


「ヴィノー様に対する羨望と嫉妬。そういう感情はあったと思います。プライドが高く、負けず嫌いでしたから」

「実はのぅ、ダリアよ」

「はい?」

「マイケルは一度、この場を訪れたことがあったのじゃ。ヨシュアに向かって、今の職を譲れと迫りよった」

「それはまた、我が子のことながら、思い切った行動を……」

「向上心のかたまりのような男だったのじゃろう」

「そう言っていただけると、いくらか救われます」

「遺体は? 戻ってきたのか?」

「いえ……」

「そうか……」


 スフィーダは左の肘掛けに頬杖をつき、吐息を漏らしつつ目を閉じた。

 返ってくることはなかった亡き骸。

 その事実は、やはり彼女の心に傷を残す。


「戦争には勝てますか……?」

「その点は心配するな。魔物になど負けるものか」

「劣勢との噂もございますが……」

「全然、そのようなことはない」

「息子の弔い合戦。ぜひとも勝っていただきとうございます」

「じゃから、負けぬ。負けはせぬ」




       ◆◆◆


 五十歳くらいとおぼしき白髪まじりの男は椅子に座ることはせず、肩を怒らせ、掴み掛からんばかりの勢いで近づこうとしてきた。

 当然、双子の近衛兵、ニックスとレックスに制止させられる。

 押さえつけられ、赤絨毯の上に伏す。


 スフィーダは「よい」と告げた。

 ニックスとレックスが拘束を解く。

 すると男は正座し、涙を流しながら、強い目を寄越してきた。

 相手を責め立てるような色合いのある目だ。


「娘はいつも言っていたんだ。国のために、女王陛下のために、って。娘は国のために死んだんだ。アンタのために死んだんだよ……っ」


 絞り出すような口調。

 聞いているほうも、つらくなる。


「娘はちょっと魔法が達者だからという理由で兵になった。俺がもっときちんと止めるべきだった。後悔しかない。でも、悔やんだところで娘は帰ってこない。俺はどうすればいい? どうすればいいんだよ……」


 スフィーダは「一つ聞かせてほしい」と言い、「この国に女王は不要だと思うか?」と問い掛けた。


「娘が生きているときは必要だと思っていた。だけど……今は要らないっ」

「そうか」

「怒らないのか……?」

「怒らぬ。本心を話してくれて、ありがたく思う」

「いくら優しい言葉を吐かれたところで、アンタを恨む気持ちに変わりはない」

「わしにも至らぬところはある。その結果なのかもしれんな。そなたの娘が亡くなってしまったのは」

「だから、アンタが自分を責めたところで、なにも変わらないって言っているんだ」

「まったく言い返すことができん」

「アンタなんか……アンタなんか、死んでしまえばいいんだ……」

「いつかそういった機運が高まった日には、喜んで死のう」

「そんなふうになりっこないと思っているから、そんなことが言えるんだろう? 違うか?」


 スフィーダは魔法を使い、ペーパーナイフ程度のサイズの黄金色の刃物を作り出し、それを使って自らの左の手首を傷つけた。

 途端、血があふれ出す。

 とくとくと、とくとくと。


 白髪の男は驚いたように目を見開いた。


「な、なにをやっているんだ、アンタは」

「わしの考えを信じてもらうには、こうするしかないと思っての」

「わ、わかったよ。わかったから早く治療を――」

「あとで縫ってもらう。気にするな」

「……悪かったよ」

「うん?」

「アンタだってつらく感じていることは、よくわかった」


 男は深々と座礼をした。


「スフィーダ様。失礼な口を利いてしまい、まことに申し訳ありませんでした」


 口元を緩めたスフィーダ。


「どうか誇りに思ってほしい。自らの娘のことも。そして、この国に生まれたことも」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦いの裏に必ずある悲しさに、切なくなりました。 優しいスフィーダのことを思うと、自分が傷つくより心を痛めているのだろうと、こちらも胸が痛くなります。 それでも気丈に振る舞うスフィーダは、や…
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