表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/575

第144話 ヴァレリア、はいていない。

       ◆◆◆


 夜。


 フォトンが目を覚ましたと聞いて、スフィーダは彼の病室を訪れた。


 先にヴァレリアがいた。

 彼女はベッドの上で体を起こしているフォトンの口に、リンゴを運んでいた。

 まったく、見せつけてくれるというかなんというか。


 ヴァレリアが譲ってくれた椅子に、スフィーダは腰掛ける。

 彼女が「問題ないか?」と問うと、フォトンは深く頷いた。

 あの蹴りをもらいながらのうしんとうだけで済んだことには、本当に恐れ入る。


「出撃、ご苦労じゃった。助けてもらってしまたったな」


 今度はかぶりを振って見せたフォトン。


 スフィーダは右隣に立っているヴァレリアに目を向ける。


「そなたもお疲れ様なのじゃ。敵勢を退けるにあたり、一役買ってくれたそうじゃの」

「ヴィノー閣下がいらっしゃらなければ、どうにもならなかったとは思いますが」

「白いローブのオスはアバじゃ。巨躯の者はサーシェスというオス、赤いドレスの者は恐らくメスでミレイじゃろう」

「よくご存じでございますね」

「とある情報筋から聞いたのじゃ」

「とある情報筋?」

「その点は気にせんでよい」

「街に被害が出てしまったことが悔やまれます」

「移送法陣を使って出現されてしまっては、どうしようもない」


 スフィーダの左隣で腕を組んでいるヨシュアが、「国際法は順守してもらいたいですね」と言った。

 もちろん、冗談のつもりだろう。


「それにしてもヴァレリアよ、そなたは普段、そのような恰好をしておるのか」


 飾り気のない白いブラウスに、黒いロングスカート姿なのである。


「もっと露出が多いことだろうと、お考えでしたか?」

「うむ。常に色気を振りまいておるのかと思っていた。まあ、大人しいファッションでも、わがままボディは隠しきれておらんがの」

「実は今、下着をつけておりません」

「ななっ、なんじゃと!?」

「濡れ事の最中での急事でございましたので」

「お、おまえ達はそれしかすることがないのか!」

「最初はチェスに興じていたのでございます。しかし、少佐は負けが込み始めると、嫌がる私を無理やり――」

「よよ、よいっ。その先は言わんでよいっ」

「ちなみに、嫌がる私をのくだりは嘘でございます。私は跪き、喜んで少佐の下腹部に顔を寄せ――」

「じゃから、言わんでよい!!」


 スフィーダが目を吊り上げる一方で、ヴァレリアはクスクスと笑う。

 下ネタを駆使してからかってくるという点は、ヨシュアと同じである。

 二人とも、意地が悪いにもほどがあるというものだ。


 ベッドの隅に皿が置かれていて、その上にリンゴがのっている。

 うさぎさんになっている。

 ヴァレリア、芸が細かい。

 

 リンゴを一つ、しゃくしゃくと食したスフィーダである。


 ヴァレリアが「王は強うございましたか?」と訊いてきたので、スフィーダは「なかなかのものじゃったぞ」と答えた。


「陛下にそう言わせるとは、大したものでございますね」

「まあ、そういうことになる」

「ですが、負けはしないと?」

「そりゃそうじゃ。次は仕留める。今回は少々油断しておったからの」

「油断でございますか」

「そうじゃ、油断じゃ。否。舐めておったという表現のほうが適切か」


 ヨシュアが「紳士的な少年。そんな感じでございましたね」と言った。


「余は悲しいとか抜かしておったな」

「悲しい、ですか?」

「うむ。わかり合えぬことが悲しいらしい」

「散々、世界を引っ掻き回しておいて、今さらそれですか」

「あるいは、引っ掻き回しておるのは、王の意思によるところではないのかもしれんぞ?」

「では、誰の意思だと?」

「無論、下々の者じゃ」

「王が王として機能していない?」

「実際、そうなのかもしれん」

「まあ、どうあれ共存の道は模索しようがありませんが」

「当然じゃ。叩くぞ、すべて」

「御意にございます。では、私はそろそろ失礼します」

「家に帰って寝るのか?」

「まさか。防衛戦の指揮をとります」

「おまえも、ご苦労じゃの」


 ヴァレリアが「閣下」と呼び掛け、「私も参戦してよろしいでしょうか?」と訊ねた。


「心の傷は癒えましたか?」

「癒えぬからこそ、怒りが湧くのでございます」

「一緒に行きましょう。フォトンはダメですよ?」


 フォトンが大きな舌打ちをした。


「ヴァレリアよ、パンツをはくのを忘れずにな」

「心得ております」


 ヨシュアとヴァレリアが戸のほうへと向かう。

 スフィーダも「静養しておれ」とフォトンに告げると、彼らのあとに続いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 下ネタにホッとしました。 うさぎリンゴに、ヴァレリアのフォトンへの想いがこもっている気がしました。 [一言] 「余は悲しい」の真意はどこにあるのか?注視して拝読します。 下着ははかないと風…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ