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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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141/575

第141話 敗走。

       ◆◆◆


 ほどよい涼しさに包まれている夜。

 ヨシュアと一緒に、食後の紅茶を楽しみながら。


「先ほど、フォトンとヴァレリア大尉が帰還しました」


 スフィーダは「おおっ。朗報ではないか」と喜びの声を上げた。

 次に湧き出てきたのは安堵の気持ち。

 実際、胸に右手を当て、ホッと息をついた。


「イェンファの攻略が済んだということじゃな?」

「いえ。そうではなく」

「へっ? 違うのか?」


 ヨシュアは表情を変えることなく、白いカップを口へと運んだ。

 そして、それをソーサーに戻すと言った。


「彼らだけが生き残ったんです。他の兵は全滅しました」


 耳を疑わざるを得ない知らせである。

 目を見開くとともに、口をついて「なんじゃと……?」と言葉が漏れた。

 カップを持っている左手が、少し震えた。


「け、経緯を聞かせろ。なにがあったのじゃ?」

「王と側近三匹が揃い踏みだったようです」

「たった四匹が事の原因か?」

「そのようです」

「全滅ということは、屈強で鳴らすフォトンの部隊も……?」

「悲しく、また悔しいのでしょう。ヴァレリア大尉は涙を流していましたよ」

「あのヴァレリアが涙を……」


 スフィーダは呆然となった。


 正確な数は知らない。

 だが、作戦に参加していた兵は、それはもう多くいたはずだ。

 戦死者や遺族になんと詫びればいい?

 そんなことまで考えた。

 国の象徴でしかない立場だが、それでも責任を痛感せざるを得なかった。


「我が軍の兵が、よほど鬱陶しかったと見える。だから一度、一掃してしまおうと考えたんでしょう。舐めていたわけではありませんが、思っていたよりも厄介な手合いであることは間違いありません。少し、厳しいかもしれない」

「き、厳しい? なにがじゃ?」

「くだんの四匹はことのほか手強い。さらに敵兵の数は非常に多い。もはや打つ手は限られていると言っていい」

「王と側近は、イェンファに留まり続けるのじゃろうか……」

「寝床を失いたくないだろうとは思います」

「とはいえ、実際にどう動くかまではわからんか」


 スフィーダは吐息をついた。

 嘆息である。


「打つ手はあると言ったな?」

「言いましたが、今、詳細をお話しするつもりはございません」

「どうしてじゃ?」

「極力、用いたくない手段だからです」

「むぅ。微妙に答えになっとらんぞ。防衛のほうはどうなっておる?」

「今のままでは支えきれません。近々、破られてしまうことでしょう」

「待ったなしではないか」

「兵を大幅に増員します。大丈夫です」

「なんとかなるのか?」

「なんとかします。我々はけっして屈しません」


 ヨシュアの口振りは、いつだって力強い。




       ◆◆◆


 フォトンとヴァレリアは赤絨毯の上に片膝をつき、揃ってこうべを垂れている。


 極力、優しい言葉を掛けようと考え、スフィーダは「災難じゃったの」と切り出した。


 するとヴァレリアが、「家族を失いました」と言った。

 家族。

 苦楽をともにする部下達のことを、彼女はそんなふうに思っていたのだ。


 ヴァレリアは特に負傷していないようだが、フォトンは左腕を白い三角巾で吊っている。

 骨折だろう。

 ケガを負った彼の姿を見る機会など、そうはない。


「ヴァレリアよ、敵は強大か?」

「そうであることを、まざまざと見せつけられてしまいました」

「なんとかなりそうか?」

「王を屠ることは、難しいかもしれません」


 フォトンが顔を上げ、ゆっくりとかぶりを振ってみせた。

 ヴァレリアが右手を伸ばし、彼の左肩に触れる。

 心の声を聞くためだ。


「なんと言っておる?」

「命を捨ててでも葬る、と」

「誰のためにじゃ?」

「民、ひいては陛下の御身のため、と」


 スフィーダは鼻から息を漏らし、苦笑した。


「民は守ってもらいたい。じゃが、わしは誰かに守られるのではなく、誰かを守るために戦いたい。そう考えておるんじゃがの」


 フォトンの肩から手を引いたヴァレリア。


「陛下は光です。誰の命でも代替できないのでございます」

「わしはわしなど要らぬと考えるときもある」

「もし本気でそうお考えなのであれば、それは大きな間違いです」

「……すまぬ」

「気になさらないでください。私どもは陛下の盾であり、矛でございますから」


 フォトンとヴァレリアは立ち上がった。

 立礼すると身を翻す。

 向こうへと歩いてゆく。

 スフィーダが彼らの背に見たものは、負けない心だった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] スフィーダ、ヨシュア、フォトン、ヴァレリア、それぞれ祖国の為、必死なんだと実感する話でした。 >陛下は光です。 ヴァレリアの言葉が胸に刺さりました。 [一言] 苦境にあっても、ヨシュア…
[良い点] 動き出した物語にドキドキしながら拝読しました。 様々な人たちと様々な話をしたり聞いたりするスフィーダも、彼女の優しさが垣間見ることができて好きですが、こうして緊迫した展開でのスフィーダも…
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