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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第136話 夜空を駆ける炎の竜。

       ◆◆◆


 ここのところ、ヨシュアがまた防衛の最前線に駆り出されている。

 魔物の兵を向こうに回し、昼夜を問わず指揮をとっているのである。


 ヨシュアが出張らなければならないという事実は、現場がのっぴきならない状況にあることの証左だ。

 彼は少しの睡眠で問題がない、立ったままでも眠れると話しているが、それでも疲れはするだろう。


 そういうこともあって、スフィーダは疑問に思うのだ。

 国難の中、自分はすやすや寝ていてもよいのか、と。

 申し訳のなさを通り越して、罪悪感すら覚えてしまう。


 そんなふうな心境だから、寝つきも悪くなった。

 そわそわそわそわしてしまい、どうにも落ち着かない。


 そして、ある夜、いよいよ我慢できなくなった。


 様子を見に行こう。

 そう決めた。


 寝間着からロング丈の黒いドレスに着替え、白いショールを羽織り、私室から出る。


 暗い玉座の間。

 当然、誰もいない。


 スフィーダは自らを包み込む飴色の筒を作り出した。

 移送法陣だ。

 西海に面する国境、その手前まで一飛びである。




       ◆◆◆


 大草原の上空に出た。

 国境を越えて攻め入られたときに迎え撃つ場所が、ここだ。

 あえて誘い込む場合もある。

 なにせ、だだっ広いだけの原っぱだ。

 いくさをするには打ってつけなのである。


 目がいいスフィーダには、よく見える。

 二キロメートルほど先で、戦闘が行われている。


 炎があちこちで飛び交い、黄金色の光の矢が至るところで降り注ぐ。

 魔法を用いた戦いだ。

 圧巻の光景と言っていい。


 久々の感覚。

 全身がざわと粟立つ。


 戦いたい、必死になって。

 踊り狂いたい、我を忘れて。


 だが、そんな思いは苦笑いとともに吐き出してしまう。

 果てなき戦いに身を投じていたのは、昔のこと。

 今の自分は国の象徴だ。

 ”慈愛の女王”という二つ名は過ぎたものでしかないが。


 一キロほどの距離を飛んだ。

 その背に近づく。

 気配を察知したらしい。

 ヨシュアは振り返った。

 スフィーダのことを見ると、彼は目を丸くしたのだった。


 スフィーダはヨシュアの隣に並び、色とりどりに瞬く魔法の光に目を細める。


「これほどまでの激戦じゃったのか……」

「あくまでも一点突破を貫いてくるようですので、必然、敵の数も局所的に多くなります。そもそも戦闘的な民族なのかもしれない。またすぐに私が先頭に立ちます」


 ヨシュアの献身的な姿勢には、最敬礼したくなる。


「それにしても、どうしてわざわざいらしたのですか?」

「わしだけ寝ておってよいものかと思っての。夜が明けぬうちに戻れば、問題なかろう?」

「そうではございますが」

「ピットにミカエラ、それにエヴァはよくやっておるか?」

「日を追うごとに戦い方が上達しています」

「他の者だってそうじゃろう?」

「はい。しかし、それでも毎日散りゆく者が出ます」


 スフィーダは目を閉じた。

 彼女の左の目尻からは一筋の涙が伝う。

 兵を失うは、我が子を失うと同義だ。

 おまえ達の死を無駄にはしない。

 天に召された者達へ、そう伝えたい。


 突然のことだった。

 赤い髪、赤い瞳のケイオス・タールがやってきた。

 ぴゅーっと飛んできて、スフィーダの前でぴたりと止まった。


「あれぇ? やっぱりスフィーダ様だぁ。どうしたの?」

「ケイオス、そなたも出ておったのか」

「国の有事だからね。がんばっちゃってるよぉ」


 ケイオスは右手と左手に剣を握っている。


「その細い剣でバリアを破れるのか?」

「これ、特注なんだ。そう簡単に折れたりしないよ。ただ、見ての通り、数が多すぎ。異界に通じる穴だっけ? それを早く閉じてもらわないと」

「本当に、敵勢にキリはないのじゃろうか。無限ではないように思うが」

「かもね。でも、今、それを言ってもしょうがないよね?」

「ま、そうじゃの」

「プサルムは負けないよ。みんな強いし、なにより一致団結してるもん。誰かがピンチになったら、誰かがきっちりフォローしてる。今さらだけど、俺、この国に生まれてよかったなって思ってるんだ。こんなに素敵な奴らと出会えたんだからね」

「ああ、ダメじゃ。ケイオスよ、そういうことを言ってくれるな」

「ん? どうして?」

「なんだか泣けてくるからじゃ。プライドをもって戦う者を、わしは心から誇りに思うぞ」

「いいこと言うね。さっすが女王陛下」

「ヨシュアよ」

「はい」

「好きにしてもよいか?」

「どうぞ、存分に」


 スフィーダは「うむ!」と元気に頷くと、びゅんと高く舞い上がった。

 戦闘の只中を見下ろす位置まで瞬時に至り、すぅっと大きく息を吸い込む。


 そして、叫んだ。


「おーい! みなの者! わしじゃ! スフィーダじゃ! 前を向け! 振り返るな! つわものとしての矜持を見せよ! 大丈夫じゃ! そなたらにはわしがついておる!」


 途端、緑色の肌はおろか、性器までをも剥き出しにしている敵兵が、束になって上昇してきた。

 長く連なり、塊のようになって迫り来る。


 スフィーダは、にぃと笑う。

 左手を後ろに伸ばす。

 その手に炎をまとう。


 スフィーダの全力の炎は渦巻くどころではない。

 そのかたちは咆哮する巨大な竜へと変化する。


「どぉぉぉりゃぁぁぁぁっ!!」


 そんな威勢のいい掛け声とともに左腕を大きく右へと振り、炎の竜を放った。

 押し寄せてくる魔物らを、竜は轟音とともに容赦なく飲み込んでゆく。


 兵のみなが「おーっ!!」とときの声を上げる。

 戦いがいっそう、激しさを増した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] スフィーダーの違う一面を見た気がします。 激戦の中、兵たちを鼓舞する彼女の姿が頼もしく危うく眩しかったです。 [一言] ケイオス登場、なんだか今まで出てきた軍の人々が必死で戦っているのを目…
[一言] スフィーダ=滅茶苦茶強い。 何気に今の今まで明確な描写はなかったわけですが、その理由を考えると…… なんていうか、今までの諸々……『女王スフィーダとその周り』が本当に愛おしいです。 信頼とか…
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