第134話 ヴァレリアからの報告。
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ヴァレリアがタクトを振り始めてから五日。
フォトンの部隊を筆頭とする兵らが、ついにカナデの地を取り戻した。
ヨシュアからその知らせを受けるなり、嬉しくなって、スフィーダはぴょんぴょんと飛び跳ねた次第である。
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翌日。
玉座の間。
スフィーダの視線の先では、黒い軍服姿のフォトンとヴァレリアが立っている。
直接、報告を聞かせてもらいたくて呼んでもらったのだ。
ヨシュアは定位置、玉座のかたわらにいる。
防衛戦の総指揮はリンドブルムが担っているらしい。
予断をゆるさないには違いないが、大将閣下御自ら出撃しなければならないような状況は、ひとまず脱したということだろう。
スフィーダはヴァレリアに「女王は、ユメルは、発見できたのか?」と訊ねた。
すると「いえ」とだけ返ってきた。
「ダ、ダメじゃったのか?」
「どこか別の場所に移されたのかもしれませんし、あるいは」
「食われたのやもしれん、と……?」
「はい」
「……わかった」
文句をを言ったところでしょうがない。
つらいところではあるが、自分を納得させたスフィーダである。
「ただ、くだんの術者を確保することはできました」
「おぉっ。それは朗報ではないか」
「はい。異界につながる穴とやらも閉じさせることができました。ただ、術者は他に二名いるとのことです」
「ま、まだ二人もおるのか」
「個人的には、少なくて助かったと考えています。あと、一応、お伝えしておきます。あまり見られないとのことではありますが、穴はもともと、自然界に存在しているのだそうです。しかし、それは切り口程度のもの。その切り口を見ることができて、さらに広げることができるのが、術者であるとのことです」
「ふむ。厳密にはそういうことじゃったのか」
ヨシュアが「大尉」と呼び掛け、「お手数ですが、先達て私に報告していただいたカナデ王国の現況、それを陛下にもお話し願えますか?」と告げた。
承知しましたと返事をしたヴァレリアである。
「惨状と化している地域もありますが、国を回すためでしょうね、ヒトはそれなりに生かされております。ケイ・クドウ首相もご存命です」
「なによりじゃの」
「食糧になってしまった者についてはどうしようもありません。問題は犯された女性です。仮に繁殖能力が高いというのであれば、厄介なことになるかもしれません。ヒトと魔物の子が、どのような性質を持って生まれてくるのかわかりませんから」
「それこそヒトを食らうというのであれば、たまったものではないな……。ヨシュアよ、この先はどうなる?」
「残った二国、イェンファとブレーデセンですね。敵はその両方からの派兵を繰り返すでしょう」
「やはり、継続的に我が国に仕掛けてくると?」
「はい。並行して、他国にも手を広げるのは間違いありませんが」
スフィーダは再びヴァレリアと目を合わせた。
「ヴァレリアよ、質問じゃ。以前、エヴァが話しておったのじゃが、メスの魔物もいるそうじゃな」
「はい。おります」
「それでは、メスはメスでその、なんというか……」
「ヒトの男と交わるのか、と?」
「う、うむ」
「魔物はヒトを劣等種としていると考えられますから、その線は薄いかと存じます」
「劣等種を孕ませるのはよいのか?」
「妊娠は結果です。オスは性欲さえ吐き出すことができれば、それでいい」
「そうなるか。まさに蛮族じゃの」
「同感でございます」
「あとは、こっちがどう動くか、じゃな」
改めて、ヨシュアを見上げたスフィーダ。
彼は前を向いたままでいる。
「イェンファとブレーデセン。両方に派兵したいところではありますが、どう考えても、今、戦力を二つに割るのはリスキーです」
「どちらから叩くのじゃ?」
「イェンファです」
「王がいる可能性が高いからか?」
「そうです。頭を潰さなければ、戦いは終わりません」
「必然的な動機じゃな。合点のいく理由でもある」
「事が事です。派兵の準備はすぐに整えます。ヴァレリア大尉、引き続き、指揮をお願いしてもよろしいですか?」
「私でよければ喜んで。ですが――」
「わかっています。あまり甘く見ないほうがいい。そう言いたいんですね?」
「はい。とはいえ、リソースに限りがあることは理解しております」
「今ある状況においては、指示の内容がすべてです。励んでください」
「少佐とともに、全力を尽くします」
「頼みます」
「はっ」
フォトンとヴァレリアは揃って立礼し、玉座の間を出ていった。




