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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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132/575

第132話 毒々しき者。

       ◆◆◆


 カナデ王国奪還のための派兵を翌日に控えた、その日の午後。


 謁見者の女性と話をしている最中に、東側の柱のあいだをすり抜け、玉座の間へと舞い下りた者の姿があった。


 思いもよらぬことではあるが、双子の近衛兵、ニックスとレックスの対応は早い。

 謁見者の若い女性を守るべく、すぐに侵入者の前に立ち塞がった。


 侵入者。

 頭髪はない。

 恐らく男だろう。

 薄手の白いローブをまとっている。

 なによりの特徴は、肌が緑色だということだ。


 見た目だけで評価するのはよくない。

 よくないのだが、なんと毒々しい外見の男なのだろうと感じざるを得なかった。


 ニックスとレックスが侵入者の首に槍を突きつける。


 するとだ。

 侵入者は槍の切っ先をそれぞれ掴んで、刃を破壊した。

 恐るべき握力である。

 しかし、戦う意思はないらしい。

 小さく両手を上げてみせたのだった。


「話を聞いていただきたく、参上いたしました」


 侵入者はそう述べた。


「ニックス、レックス」


 ヨシュアが顎をしゃくった。

 双子の近衛兵に謁見者を連れ出すよう指示を出したのだ。

 彼らはただちに従い、女性をともなって大扉へと向かった。


 進み出て、赤絨毯の上で片膝をついた侵入者。

 肘掛けに頬杖をついたスフィーダは、目つきを鋭くして相手を睨む。


「名を申せ、無礼者」

「アバと申します」

「イェンファ、それにカナデを奪い取った魔物のうちの一匹で間違いないか?」

「魔物、それに一匹ですか」


 アバと名乗った魔物は、シニカルに笑ったように見えた。

 慇懃無礼だということだ。


「我々も自らのことを魔族と定義していますので、なんと呼ばれようがかまいません。匹という単位も甘んじて受け容れましょう。尚」

「なんじゃ?」

「まもなく、ブレーデセンも我らの手に。一気呵成の作戦でした」

「ゆるせんな」

「そうでしょうね」

「どうやって、このアルネにまで至った?」

「高空を飛んでまいりました。貴軍の警備には穴があります」

「国境線は短くない。そして、人的資源には限りがある。それでも、他国に比べればウチの壁は強固なほうじゃろう」

「確かに、攻め入るには多少、手こずりそうではありますが」

「攻め入る、か。いったい、どう出てくるつもりじゃ?」

「お答えする義務はありません」

「答えろ」

「一点突破です。分厚く鋭い矛を形成し、一息になだれ込む」


 肩をすくめると、強い目をしたスフィーダ。

 すでに結構、腹が立っているのである。

 ムカついていると言ったほうが適切か。


「この世界のことは? どれだけ知っておる?」

「情勢はほぼ把握できていると考えています。曙光にアーカム、そしてプサルム。この三つが大国とされている」

「改めて言っておく。我が軍は強いぞ」

「提案があります。お願いと言ってもいいかもしれません」

「聞く耳など持たぬつもりじゃが?」

「我が国、新生イェンファをお認めいただきたい」

「国家として認知しろというのか? そこにある意図はなんじゃ?」

「貴国とはけんかをするつもりはないということです。話し合いに応じるということです」

「じゃが、他の国は侵略するのじゃろう?」

「当然です」

「当然とまで言うのか、この痴れ者め。おまえ達の目的はいったなんじゃ?」

「人間界の支配でございます」

「ウチとけんかはしないのではなかったのか?」

「今しばらくの猶予を約束するという条件に過ぎません」


 スフィーダは舌を打った。

 まったく、忌々しい限りだと彼女は思う。


「ヒトを食らうと聞いたが?」

「好物です。だからこそ、この世界への来訪を渇望していたと言っても過言ではありません」

「ベジタリアンになれと言っても聞かんか?」

「ご冗談を」

「到底、相容れんな」

「ご対応はもはや遅きに失しています。私どもの拡散は防ぎようがない」

「異界との穴を塞いでしまえば、じり貧になるじゃろうが」

「そうはさせないと申し上げているつもりです」

「わかった。もうよい」

「交渉は?」

「決裂に決まっておろうがっ!」


 ヨシュアが渦巻く炎を左手から放つ。

 アバは薄紫のバリアで防いでみせた。


 今度は太く長い黄金色の槍を作り出し、それを投擲したヨシュア。

 やはり、アバはバリアで食い止めてみせる。


 槍はバリアを突き破るべく刃を立てる。

 だが、まもなくして粒子となり、ぱっと飛散した。


 ヨシュアの攻撃を防ぎ切ったのだ。

 実力は認めるしかない。


 アバが片膝をついた姿勢から、ゆっくりと立ち上がった。

 それから両腕を広げて背を反らすと、今までの紳士的な振る舞いから一転、「ギャハハハハハハハハッ!」と底抜けに下品な笑い声を上げた。


「楽しみはあとに取っておけってなあっ! 待ってろよ、スフィーダ! おまえのことは必ず殺す! 四肢を切り落としてヤりながら殺してやる! そして、食ってやる! 食ってやる! 食ってやる!」


 アバの体が飴色の筒に包まれる。

 移送法陣だ。


「逃がすか!」


 スフィーダは右手から幾本もの光の矢を放つ。

 ヨシュアもだ。

 しかし、矢は筒をすり抜けてしまった。

 アバは大爆笑を残して、姿を消したのだった。


「やれやれ。床に傷をつけてしまっただけでしたね」


 矢が赤絨毯に刃を立てたことを指して、ヨシュアが述べた。


「なにのんきなことを言っておるのじゃ」


 スフィーダは額に右手をやり、ゆるゆると首を横に振る。


「あのクラスの使い手が多数いるのであれば、厳しい戦いになりそうですね」

「そうじゃの。どの国も、他国と揉めておる場合ではなくなるじゃろうな」

「やはり、貧乏くじでございます」

「じゃが、看過することはできぬ。謁見者を募るのは……やめんほうがよいな」

「はい。民が気を揉みますので」

「国難じゃ」

「乗り越えましょう」


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