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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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130/575

第130話 物知り翼竜。

       ◆◆◆


 ヨシュアの移送法陣にて到着した先は岩場だった。

 目の前では洞窟がぱっくりと大きく口を開けている。

 背後には森が迫っていて、聞いたことのない鳥の鳴き声がする。

 いや、耳にしたことはあるものの、覚えていないだけかもしれない。

 スフィーダ、案外、忘れっぽいのである。 


 どこに来たのかは、さっぱりだ。

 まだ午前中なのに、暑いくらいに気温は高い。


 洞窟の中へ。

 真っ暗ということはない。

 奥行きがないのだ。

 だから、日の光が届く。


 翼竜のドル・レッドは、うつ伏せの格好で眠っていた。

 赤い魔法衣姿のイーヴルはというと、竜の腹のあたりに背を預けて、やはり寝ている。

 仲がいいのは結構なことだが、両者揃って鈍感かつ無防備なことだ。

 少々、お寝坊さんでもある。


 スフィーダがそんなふうに思っていると、ドル・レッドが例の野太いがらがら声で、「なんの用だ?」と訊ねてきた。


 前言撤回。

 鈍感ではない。

 気配にはきちんと敏感らしい。


 ドル・レッドが目を開けた。

 大きな瞳がぎょろりと動く。


「なんだ。スフィーダか」

「なんだとはなんじゃ。失礼じゃぞ」

「そんなことはいい。もう一度訊く。なんの用だ?」

「イェンファという国を知っておるか?」

「無論だ」

「我が国は今、そのイェンファと戦争状態にあるのじゃが」

「手なら貸さんぞ」

「そうではない。敵勢に魔物がまじっておるようなのじゃ」

「魔物?」

「わしが実際に見たわけではないがの」

「ひょっとしてその魔物とやらは、緑色の肌をしているのではないか?」

「ご名答じゃ。やはり知っておったか」

「だてに三千年も生きていない」

「魔物、魔物じゃ。この世の者だとは到底思えん。出没したことについて、なにかからくりがあるのだとしたら……。その部分を把握しているのであれば、教えてもらいたい」

「見返りは?」

「キャベツ一年分でどうじゃ?」

「すっかりベジタリアン扱いだな」

「自分でそう言っていたではないか」

「まあ、そうなんだが」


 大きく口を開けたドル・レッド。

 竜もあくびくらいはするらしい。


「緑色の魔物。その昔、俺も何匹か食った。味はよくなかったな」

「そういう感想は要らんのじゃが」

「魔女が姿を現す前には、それなりの数がいたんだよ」

「そうなのか?」

「ああ。中には手ごわい奴もいた」

「それで?」

「イェンファでは、稀に変わったニンゲンが生まれるらしい」

「変わったニンゲン?」

「異界につながる穴をあけるという術者のことだ」


 異界?

 穴をあける術者?


 いずれも初耳なのでスフィーダはびっくり、目を見開いた。


「い、異界なんてものがあるのか?」

「そのようだ」

「術者。それはイェンファ特有の使い手なのか?」

「だろうな。他の国に現れたという話は聞いたことがない」

「魔物は多くいるという話じゃが……」

「イェンファはおまえ達に攻め立てられ、にっちもさっちもいかなくなって最後の手段に出たんだろうが、下手を打ったな。多くを呼び込んだのだとすると」

「呼び込んだのだとすると?」

「簡単だ。魔物どもに、国を乗っ取られる」

「では、もはや……」

「恐らくだが」

「恐らくでよい」

「今、イェンファの実権を握っているのは、魔物の中で最も力に秀でた奴だ。王と言っても差し支えはないのかもしれないな」

「ヒトの命令など、魔物は無視すると?」

「当然のことだろう? 自らより力の劣る者の言うことを、どうして聞かなければならないんだ?」

「となると、まずは術者を保護するしかないということか……」

「保護か。俺は殺したほうがいいと思うがな」

「望まぬ協力を強いられているのだとすれば、そうもいかんじゃろう」


 スフィーダは隣に立っているヨシュアを見上げた。

 

「イェンファからの撤退命令は出したのか?」

「現場判断で、とうに退却済みです」

「しかし、すぐに兵を整え、派遣せねばなるまい?」

「はい。素早く動かないと、悔やんでも悔やみきれない事態に陥ってしまうことでしょうから」


 ヨシュアが「ドル・レッド。一つ、聞かせてください」と話し掛け、「魔物達の食糧はなんですか?」と訊いた。


「驚いた。いい質問をするじゃないか」

「当てずっぽうの問い掛けですが、どうなんです?」

「奴らはヒトを食う。ついでに言っておくと、ヒトと交わり、子を生ませることもできる」


 スフィーダ、「な、なんと、そうなのか」と驚いた。

 ヒトを食することも、ヒトと交尾できるということも、予想外だったからだ。


「だったら尚のこと、対応を急ぐ必要がありますね」


 ヨシュアはそう言うと、ゆるゆると首を横に振った。


「やれやれ。とんだ貧乏くじを引いたものだ」


 ドル・レッドが「そうだな。アンラッキーだ」と言い、「地理的に考えて、おまえ達が率先してなんとかするしかないんだからな」と続けた。


「ドル・レッド、貴重な情報をありがとうございました。では陛下、そろそろ」

「うむ。そうじゃな」


 ヨシュアの移送法陣、飴色の筒が、スフィーダと彼を包み込む。

 いよいよ場をあとにするとき、ドル・レッドの「健闘を祈ってやるよ」という声が耳に届いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] キャベツ一年分!ちょっと笑いました。 [一言] 異界の緑の怪物。新しい局面ですね。 性質がエグイのでこれからの展開が気になり心配ですがエヴァ達がいるから大丈夫と信じたいです。
[一言] おお~。誰のとこ行くんじゃろ……って思ってたら、レッドさんでしたか! しかし大変なことに…… イェンファの国民は大丈夫なのか?! そしてそんな状況じゃ、この戦いの後さらに色々起こりそうですね…
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